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我が家の猫は家庭内半野良だった。
人間に構われる事を苦手にしていたので大抵、人の手が届かぬ所にいた。気が向いたときは出てくるのだが、気が向かぬ時は触らせてもくれない。
老いて闘病生活に入り(視力も失った)晩年は人の手を必要としたがそれまでは”孤高の猫”だった。
触れなくても構わない。玩具じゃないし、見ているだけで幸せだった。いつもおシッポを”ぴんっ”と上げて歩いている姿を見ているだけで良かったのだ。
その猫が洗面所に出てきて、ずーっと佇んでいる事があった。
こちらに背中を向け座り込みおしっぽだけが、ユラユラ揺れている。
妹と二人で「珍しいね。何しよるんやろ?」と観察していると、どうも虫がいてそれを目で追って愉しんでいるようだ。
いたずらが大好きな妹は、こっそりと忍足で猫の背後に近づいた。
そして「わぁっっ」っと大声を出し猫を驚かしたのだ。
その瞬間の猫の顔を忘れる事が出来ない。
振り返ったその目は驚きでまん丸に見開かれしっぽは三倍に膨らみ、体全身の毛がハリネズミのように、総毛立っている。
余程、驚いたようだ。その姿が可笑しくて妹と二人で腹を抱えて笑った。その笑い声に満ちたキッチンを”むっ”とした顔で通り過ぎる猫。
母に大声で怒られる妹。猫だって不意打ちは驚くよなぁ。悪い事をするやつだ。だが、私も笑ったので同罪か。
で、その晩の事件は忘れもしない。夜中にトイレに行きたくなり目が覚めた私。寝ぼけ眼で暗闇を足探りで歩く。すると、ふくらはぎに何かが触れた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あまりの驚きで近所中に届くほどの悲鳴を上げた私。母と父が驚いて出てくる。何があったのかと問われ、電気を点けると足元には猫がいる・・・。
今のは猫だったのだと、やっと気づいた。彼女は黒猫なので闇に紛れるのだ。その上、6キロもある巨大猫。珍しい事もあるものだ。
こんな事は今までに一度も無いし、人間の足で狩りをするなんて・・・。本気ではない事は一目瞭然だ。爪は出していない。
その後、不思議な事をするなぁ部屋の出口で張っていたのかな?と思いつつ就寝。するとその一時間後に悲鳴が上がったのだ。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
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