このページは名無しの探偵シリーズの感想ページです。

名無しの探偵シリーズ→誘拐/失踪 /殺意/暴発/死角 /脅迫/名無しの探偵事件ファイル /迷路/標的 /追跡/復讐/亡霊 //奈落/報復 /凶悪/幻影

名無しの探偵シリーズ番外編 合作→依頼人は三度襲われる/ダブル

ビル・プロンジーニの略歴&著作リスト合作・共著の感想が別ページにあります。

絶版本!ビル・プロンジーニ著『パニック』を投票で復刊! 検索等で訪れて下さった方&プロンジーニのファンの方へお願いです。プロンジーニの著作でどうしても入手出来ない本があります。TBS出版会から出版された『パニック』という初期作品なのですが、復刊ドットコムで投票して頂けませんでしょうか?。復刊ドットコムのバナーをクリックして頂けると直接『パニック』の投票画面へ飛びます。
名無しの探偵 シリーズ (Nameless Detective)
このシリーズは数多く発表されているのですが、入手が困難な作品もあります。シリーズの途中から読まれる方の為に簡単に主人公の探偵『私』のプロフィールを。

名無しの『私』 プロフィール・・・ 名前は無し。イタリア系アメリカ人。(スイス系イタリア人だそうな。『迷路』で判明)趣味はパルプ・マガジンの収集。12歳からお小遣いの全てをパルプマガジンの購入に投じる。ハイスクール卒業後はサンフランシスコ市立大学に入学したがパルプマガジンのお陰で勉強に身が入らず三学期で中退。その後まもなくして陸軍に入隊し、第二次世界大戦が勃発するまでテキサスで楽な軍務に就いていた。日本軍の真珠湾奇襲後、南太平洋に派遣された。警察関係の仕事がしたいと思っていたので軍事諜報関係の仕事に応募しハワイに駐留している時に保安部に配属された。広島の原爆投下後、1945年末になって除隊。サンフランシスコに戻り公務員試験を受け、翌1946年に警察学校に入学。ここで友人エバハート(ユダヤ系アメリカ人)と出会う。15年間、警察官として働くが、ある通報で駆けつけた『私』は妻と二人の子供が殺された現場の凄惨さを目にし「もう沢山だ。これ以上こんな仕事は続けられない」と私立探偵のライセンスを取得(事件から六ヵ月後に認可が下りる)、その日の内に警官の職を辞す。初登場の『誘拐』の時点で47歳。煙草の吸いすぎで咳の発作で苦しんでいる。癌を恐れているが意志が弱いので止められない。お誕生日は夏らしい(『暴発』で判明)。

 他の作品で名無しの探偵が名前で呼ばれるシーンもありますが、一つはあだ名だと判明しているます。(一匹狼という意味でウルフと呼ばれるシーンがある。共著『ダブル』で)それとコリン・ウィルコックスとプロンジーニとの共著『依頼人は三度襲われる』の作中で、名無しの探偵が「ビル」と呼ばれている場面があります。管理人の勝手な想像なのですが、案外、名無しの探偵の名は『ウィリアム(ビル)・プロンジーニ』なのかもですね。(Williamを愛称で呼ぶとBillなので)

注・・・版元がころころ変わった『名無しの探偵シリーズ』ですが、発表年度順に邦訳出版されていません。なので当サイトでは感想を作中の時系列順で載せていきます。

パルプ・マガジンの表紙
パルプ・マガジン(Pulp Magazine)とは・・・ざら紙に刷られた大衆小説雑誌の事(低級、低俗だと見られていたらしい)。第二次世界大戦後はペーパーバックが世界的に普及するのですが、それ以前に発行されていた雑誌で、ジャンルは探偵小説、ヒーロー物、ホラー、SF、西部小説(ウエスタン)と幅広かったそうな。ダシールハメット、ガードナー、およびレイモンド・チャンドラー等の作品が掲載されていた。

誘拐
(THE SNATCH)
新潮社 文庫 初版1977年11月30日
あらすじ 主人公の私立探偵は孤独な中年独身男。パルプ・マガジンの収集が唯一の趣味で喫煙過多による性悪な咳の発作に苦しめられている。男の子を誘拐された父親の依頼で、犯人に身代金を届けに行くが、事件は意外な発展を遂げ、謎は謎を呼ぶ。『名無しの探偵』シリーズ第1作。(この時点で名無しの探偵は47歳)

 
感想  この作品をはじめて読んだ時は驚きました。だって主人公の名前が最後まで出てこないのですよね。巧い具合に名前を伏せ最後まで明かされずに終わるのです。一冊で魅了されました♪。(この当時、古典ハードボイルドを未読だったので)
 子供を誘拐され多額の身代金を要求された父親が探偵の『私』に身代金の受け渡しを頼むのですが、受け渡し現場に謎の男が現れ、犯人と目される男は刺されて死亡、探偵の『私』も巻き込まれ重傷を負う。金はどこに消えたのか?子供はどこに?真犯人は誰?という平凡なストーリーです。でも、平凡なのに楽しめるんですよね。人物造詣が良い事と構成の巧さで読ませるといった感じでしょうか。
あまりにも有名な作品の感想は書き難い事に、今更ながら気がついてしまった(笑)。
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失踪
(THE VANISHED)
新潮社 文庫 初版1978年8月25日
あらすじ  恋人エリカの愛を失って悄然としている私立探偵の前に、不安そうな面持ちの女性の依頼人が現れた。挙式寸前の婚約者が行方をくらましてしまったという。唯一の手掛かりである似顔絵の盗難を初め、事件はアメリカからドイツの小都市にまで及んで行く。『名無しの探偵』シリーズ第2作。(この作品の中に『誘拐の事件からから二ヵ月後とあるので、探偵の年齢は47歳だと思われます)

 
感想  途中で主人公が女性に一目惚れした辺りから『犯人はこいつだな』と分かってしまったけれど本作も愉しめました。これ以上は感想が書き難い作品ですな(笑)。探偵小説の王道といった感じのストーリーでした。
前作に出てきた恋人エリカにふられてしまった『名無しの探偵』の元に婚約者を捜して欲しいという女性が現れ、捜査を開始する主人公ですが、唯一の手掛かりである似顔絵を盗まれてしまい捜査は難航・・・というストーリーです。前作との違いは探偵『名無し』の行動範囲が広がった事でしょうか。今回は手掛かりを追ってアメリカからドイツまで飛んでいきます。それと、聞き込みをしている最中に出逢った女性に一目惚れしてしまう主人公ですが、事件の解決がこの恋愛に大きな影響を与えそうなので次回作が気になります。 作家名INDEXホームへ戻る

殺意
(UNDERCURRENT)
新潮社 文庫 初版1980年2月25日
あらすじ  素行調査を依頼されて尾行を開始した当日、男はサンフランシスコ郊外の瀟洒なコテージで何者かに刺殺された。しかも遺留品である一冊の古いペーパーバックのミステリーをめぐって、新たな殺人事件が発生し、明るく牧歌的に見えた観光地は、さながら黒い底流の渦巻く迷宮のような相貌を現しはじめていく。『名無しの探偵』シリーズ第3作。(この作品の中に『エリカにフラれてから6ヶ月』とあるので、この時点の探偵の年齢は47歳〜48歳だと思われます)

 
感想  毎度、毎度、同じ事を言いますが面白かったです。『誘拐』と『失踪』を越えた辺りから、このシリーズは謎の要素が強くなっていくのですよね。
 冒頭では探偵小説のセオリー通り、依頼人が探偵を尋ねる場面から始まります。で、週末だけ外泊する夫を尾行して欲しいと依頼人である女性に頼まれるのですよね。単なる浮気調査だからと引き受けた探偵ですが、その夫は張り込み中に刺殺されてしまう。その現場にある被害者の持ち物で、その場にそぐわないのは古いペーパーバックのミステリ本だけ。張り込み対象者が死んでしまった事に罪の意識を感じた探偵は、ペーパーバックの意味を探る為に動き出す・・・というストーリーです。私が喜んだのは、パルプマガジン作家ラッセル・ダンサーが登場した事です!。この登場人物は後の作品である『脅迫』に出てくるのですよね♪(順番通りに読んでなかったので)。作家と探偵との出会いの場面があって妙に喜んでしまいました。それと一つの殺人事件だと思われていた事件は途中から変な方向に進んでいくのですよ。ネタバレになるので書けないけど、コナン・ドイル著の『赤毛連盟(赤毛組合』のような雰囲気になって行きます。わかる人には分かってしまうかな?(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る

暴発
(BLOWBACK)
徳間書店 文庫 初版1987年10月15日
あらすじ  サンフランシスコの私立探偵『私』は猛烈なヘビースモーカーで喀痰検査の結果が不安だ。そんな折、戦友のハリーから電話があった。自分の経営するキャンプ場で何か事件が起こりそうだという。その後、彼の予言通り断崖からヴァンが転落。 だが、乗っていた男は転落前、既に殺されていた。現場付近にはなぜか孔雀の羽が・・・。『名無しの探偵』シリーズ第4作
(探偵はこの作品の時点で50歳の誕生日の数日前。この作品中に『エリカと別れて四年』という記述があるのですが、別れて4年なら51歳のはず?。)

 
感想  面白いです。第一作目から探偵が気にし続けていた性悪の咳の発作ですが、肺に腫瘍がある事が判明しています。という事でやっと禁煙をはじめた名無しの探偵。喀痰検査の結果を待つ苦しい数日を友人のキャンプ場で過ごし、調査で気を紛らわせようとするのですが、いつものように殺人事件に巻き込まれ・・・というストーリーです。作中で名無しの探偵が古い炭鉱跡に閉じ込められるシーンがあります。暗い上に酸素の残りを考え、焦る探偵の描写にワクワク致しました(笑)。私は暗所恐怖症&閉所恐怖症なので、こういうシチューエーションには身悶えするのですよね(笑)。
 本作辺りから徐々に、ハードボイルドだった作風にミステリ色が加味されだした気がします。それと、探偵の気の弱さとか女々しさなんかが描写されているので、この作品辺りから名無しの探偵の人物像が読者の中で固まりだすという感じがします。私はこの辺りから以降の作品が好みなのですよね。ただのハードボイルドでは無くて謎があったり、どんでん返しがあったり、そして名無しの生活に変化があったりで、シリーズ物だからこそ味わえる楽しさってこういうのなんだろうなと一人で納得。 作家名INDEXホームへ戻る

依頼人は三度襲われる
(TWOSPOT)
B・プロンジーニ&コリン・ウィルコックスの共著 文芸春秋社 文庫
初版1980年3月25日
あらすじ  すべての事件はカストロ首相がアメリカを公式訪問する日から始まった。サンフランシスコ市警のヘイスティング警部と”名無し”の私立探偵がコンビを組んで、ナバ渓谷のあるワイナリーで起こった不思議な内輪もめ殺人事件に関わりあう。死体のそばに落ちていた[TWOSPOT]と書かれたメモは果たして何を意味するのか?・・・。コリン・ウィルコックス著のシリーズ主人公ヘイスティング警部と”名無しの探偵”の共演。『名無しの探偵』シリーズ番外編。(作中で『暴発』の事件から五ヵ月後という記述があります。なので、探偵のこの時点での年齢は50歳)

 
感想  読みながらワクワクしました。だって、名無しの探偵とウィルコックスの描くヘイスティングス警部との共演ですよ。楽しめないはずが無いんですが♪。共作『ダブル』の読後にも思ったけれど、プロンジーニは共作を書くのを純粋に楽しんでいますね。そして分担して書くのは難しいだろうに、いとも軽々とやってのける。凄いですね(笑)。それに、ラストのエピローグの部分だけは、名無しとヘイスティング警部と半分づつ一人称で書いてあって微笑ましい。ラストの一人称をウィルコックスに譲ったのは、先輩を立てたのかもですね。
 最初は金持ちの家族の内輪もめで始まるのですが、ここでカストロ首相のアメリカ訪問が絡んできて、物語は意外な方向へ・・・というストーリーです。物語は4部構成で組み立てられています。第一部&三部は名無しの探偵の一人称で、第二部&四部はヘイスティング警部の一人称で描かれています。これ、巧いなぁと思ったのは起承転結の「起と転」を探偵に語らせた事。物語が違和感なく始まっているんですよね。探偵のパートではいつものようにコツコツと調査を続ける探偵の姿が描かれているのですが、ヘイスティング警部が現れた所からは警察による大掛かりな調査が始まり、この対比が面白い。
管理人はこれまでに、名無しの探偵が出てくる共作を2作品読んだ事になるのですが、本作の勝利という感じがします。何故かというと、プロンジーニとウィルコックスは作風が似ている気がするんですよね。特に描写や一人称特有の主人公のぼやき部分が似通っていて、一部から二部へと変わる瞬間さえも違和感は全くなし!です。(訳を一人で訳されている所為もあるでしょうが。宮脇孝雄氏)。
 この作品の中で名無しの探偵が『ビル』と呼ばれている事が判明します。そしてヘイスティング警部とエバハートと名無しはポーカー仲間なのだそうな。うぷぷぷ。
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死角
(LABYRINTH)
新潮社 文庫 初版1981年9月25日
あらすじ  底冷えのする十一月の朝、その見知らぬ娘の死体は、湖辺の葦の茂みの間に無造作に捨てられていた。財布の中には何故か私の名刺が・・・。事務所に帰った私を待っていたのは、交通事故を起こした弟の身辺警備をして欲しいという、女性からの依頼だった。しかし、彼の後を尾けた私が発見したのはもう一つの死体・・・。名無しの探偵がまたもや巻き込まれた不可解な殺人事件の数々。『名無しの探偵』シリーズ第5作。(作中で『肺の腫瘍が見つかったのは17ヶ月前』という描写があるので、多分、この時点で探偵の年齢は51歳だと思われます)

 
感想  このシリーズは本作『死角』から趣が変わります。今までの作品は探偵小説の定石通り、依頼人が探偵を訪れ、それから事件が始まるというものだったのですが、本作は違います。
しょっぱなから物語は動き始めます。若い娘が殺されるという殺人事件の現場検証を見つめる探偵。この殺された娘の財布に探偵の名刺があった事から、親友エバハート(刑事)に呼び出された探偵ですが、その娘に見覚えは無い。そんで、この後は普通通り依頼人の為に動く探偵の描写があるのですが、ここでも死人が出る。そんでですね、冒頭の殺人事件と探偵が絡む殺人事件が交錯していくワケですよ。二つの殺人事件に共通している事は両方に探偵が絡んでいるという事だけ・・・。真相は?・・・というストーリーです。非常に楽しめたのですがその理由は、今までの作品に比べて冒頭からスピード感がある事、そして前作『暴発』で殺されかけたお陰で、死の恐怖から吹っ切れた探偵の性格が明るい事のような気がします。シリーズ物なのに『死角』以降から探偵が別人のようになっているのですよね。このシリーズはその殆どが絶版で入手が困難なので、もし途中から読んでみようと思われる方は『死角』より後の作品から試されるのが入り易いと思います。 作家名INDEXホームへ戻る

脅迫
(HOODWINK)
新潮社 文庫 初版1983年1月15日
あらすじ  事務所の椅子にもたれてパルプ・マガジンを読んでいると、その著者自身が現れた。そして盗作事件をタネにした脅迫状を差し出した。五人の作家が同じ手紙を受け取ったという。パルプ・マガジンの大会に出席した私はたちまち奇妙な密室殺人事件に巻き込まれた。友人の無実を信じる名無しの探偵はほとんど絶望的な調査を引き受けたが・・・。『名無しの探偵』シリーズ第6作(この時点で名無しの探偵は53歳)。

 
感想  このシリーズの最初の数冊は普通の探偵小説だったのですが、前作『死角』辺りから謎解きの要素に力が入り、雰囲気がガラッと変わります。そして本作ですが、なんとテーマが密室物です。それも二件の密室殺人事件が起こるのですよ。不可能犯罪に挑む名無しの探偵だなんて驚きます。
 名無しの探偵の趣味はパルプ・マガジン蒐集で、昔の作家に興味があるんですよね。で、その名無しにパルプ・マガジン黄金期の作家ラッセル・ダンサー(過去の事件でも出てくる)が『パルプ・マガジン大会にお前も参加しないか?』と持ち掛ける。ウキウキする名無しの探偵はついでに脅迫状を出した犯人を探ってくれと頼まれる。大会に出席する元売れっ子作家五人全員が同じ文面の脅迫状を受け取っていたのですよね。で、名無しが大会に参加するのですが、一人が密室で殺され、また次の殺人が起こり・・・というストーリーです。
 で、感想ですが非常に愉しめました。プロンジーニが不可能犯罪物を著すなんてそれだけでも驚きなのですが、それ以上に驚いたのはその密室が理に適ったものだったこと(笑)。数年前に講談社ノベルズが数冊の密室をテーマにした本を袋とじで出していて(20周年記念)、その本で激怒していた私には余計にこの密室が素晴らしく見えたのです。不可能犯罪というからには事故とか自殺とかで済ませて欲しくないワケですよ!。と、ここで講談社に文句を言ってもはじまらないのですがね・・・。
(本作の感想に戻ろう)この『脅迫』辺りから探偵の人物造詣が変わってきています。今までは暗くて地味な探偵だったのに、本作では懐かしい作家の顔ぶれを見てときめいている可愛いおじさんに変身。かなり年下の女性に一目惚れし、年甲斐も無くはしゃぐ探偵の姿も愛らしいし、友人のエバハートも人間らしい姿を見せるし、アル中なのに憎めないダンサーも良いしで謎解き以外の部分も深みを増しています。もし、途中から『名無しの探偵シリーズ』を読んでみようと思われる方には本作をお勧めします。 作家名INDEXホームへ戻る

注・・・この短編集4作品中の二作品が、後に長編化されています。
なので、『追跡』『亡霊』の読後にこの短編集を読まれる事をお勧め致します♥。
それと、この作品中の一作品が後の長編に絡んできますので、読破されるつもりの方は押さえておいた方が良いと思います。

名無しの探偵事件ファイル
4編収録の短編集
新潮社 文庫 初版1984年1月15日
この短編集が上梓された経緯  この短編集は日本で独自に編集し、出版されたものです。
1982年、『小説新潮』誌が、海外のミステリ作家に書下ろしを依頼する企画を立てたのだそうな。その時、白羽の矢が立ったのがビル・プロンジーニで、交渉を受けたプロンジーニは快諾し、実現の運びとなったのだそうです。連載中の読者の反響は逐一、プロンジーニに伝えられ、二作目からの作品には、日本の読者の反響が繁栄されているのだそうです。(本作は『ダブル』の次に上梓されたのですが、本の中身は『脅迫』事件の直後なので、この順番で感想を載せています)

 
顔の無い声
(WHO'S CALLING?)
 名無しの探偵は『娘に卑猥な電話を掛けてくる男を探り出して欲しい』という父親からの依頼を受け、調査を開始する。が、その娘の婚約者が射殺され・・・というストーリーです。感想ですが普通の出来といった感じです。プロンジーニの短編はお遊びの要素が強いと聞いていたのですが、普通だったので肩透かしを喰らいました。(小説新潮1982年5月号掲載)

盗まれた部屋
(BOOKTAKER)
 名無しの探偵の新しい事務所を訪ねてきた男は、サンフランシスコ最大の古書店オーナーだった。殆ど密室も同然の警戒厳重な古書店から、高価な版画や古い地図などが盗み出され、その手口さえも分からないという。容疑者は従業員の三人。で、犯人捜しに乗り出す探偵は・・・というストーリーです。これ、面白いですねー。雰囲気が大昔の本格推理小説といった感じです(笑)。どうやって密室から盗んだ品物を持ち出したのかという謎解きシーンにワクワク致しました。それに、この中の登場人物は後の作品にも関係するんですぞ。むふふ。(小説新潮1982年8月号掲載)

ラギダス・ガルチの亡霊
(THE GHOSTS OF
RAGGED-ASS GULCH)
 この作品は後に『亡霊』という題名で長編化(焼き直し?)されています。なので、そちらを未読の方はこの作品を読むのを避けられた方が宜しいようです。なんせ、ストーリーからオチまでそのまんまなのですよね(笑)。(小説新潮1982年10月号掲載)

オウローヴィル貨物駅
(BINDLESTIFF)
 この作品も後に『追跡』という題名の長編に変身しています(笑)。なので、これを読む前に長編の方を読まれた方が良いですよ。(小説新潮1983年3月号掲載) 作家名INDEXホームへ戻る

迷路
(SCATTERSHOT)
徳間書店 文庫 初版1987年11月15日
あらすじ  私は中年の独身男、サンフランシスコのしがない私立探偵だ。恋人はいるが結婚までは程遠い。日々悩める私にある日、立て続けに三件も依頼が。宝石の警備、尾行、上流階級夫人の居所の確認。どれも楽な仕事だ。ようやく運が向きかけて来たか。ところが三件が三件とも信じられない具合にねじれ、探偵免許さえ取り上げられそうになってしまう。名無しの探偵シリーズ第7作。(この時点で探偵の年齢は53歳)

 
感想  これ面白いです♪。本作は長編なんだけれど、三作の短編を(事件が三つ)繋ぎ合わせたみたいになっているのですよね。その三件の事件全てが密室物です!。そこいらの密室物みたいに1個の密室の謎を最後まで引っ張ったりしません。名無しの探偵シリーズの中でもプロットが凝っている作品です。(今回の作品は謎解きの要素も多いので感想を書くとネタバレになりそうです。なので、あらましだけ下記に)
 冒頭で立て続けに三件も仕事を手にする名無しの探偵。一日だけの警備員、浮気をしている男の尾行、どこかに引きこもっている金持ち夫人の居所を捜すという簡単な仕事なので三件とも楽に片付くだろうと調査を始める探偵ですが、三件の事件全てが意外な様相を呈し・・・というストーリーです。まず尾行を始めるのですがターゲットは探偵の見ている目の前から忽然と姿を消すのですよね。で、現場には大量の血痕が。ここから探偵は他の事件でも数々の苦難に遭遇し、連日マスコミに騒がれ、にっちもさっちも行かなくなってしまう。その上、『脅迫』で知り合った彼女ケリーウェイドとの仲まで危うくなる。危ういのは恋愛問題だけじゃ無くて探偵の免許まで取り上げられそうになる、というてんこ盛りの内容です。『脅迫』を読まれて楽しめた方や、シリーズの途中から読んでみたいという方にお勧めしたいです。 作家名INDEXホームへ戻る

標的
(DRAGONFIRE)
徳間文庫 文庫 初版1988年8月15日
あらすじ  サンフランシスコ、八月の日曜日。探偵免許停止中の私は、妻に去られた親友のエバハート警部補と彼の自宅でけだるい午後を過ごしていた。玄関のベルが鳴ってエバハートが席を立った。と、銃声が二つ。エバハートが撃たれ、飛び出した私も左肩を撃たれた。警察の捜査でも犯人は中国人だということ以外、手掛かりは全く無し。エバハートはなぜ狙われたのか?。名無しの探偵シリーズ第8作。(『迷路』の事件から一ヶ月後という記述があるので、この時点で探偵の年齢は53歳)

 
感想  何故か本作だけ妙にシリアスです。驚きました。
 前作『迷路』で探偵免許を取り上げられた上に、彼女のケリーから『当分、会わない』と言われ、落ち込んでいる探偵と、嫁に逃げられた事で立ち直れずにいるエバハート警部補は、エバハート家で仲良く呑んだくれていた。するとチャイムが鳴る。玄関を開けたエバハートは二発の銃弾を浴び、驚いて駆けつけた探偵も一発の銃弾を受ける。病院に担ぎ込まれた探偵は一日で意識を快復するが、エバハートは死の淵を彷徨っている。なぜ、エバハートが狙われたのか?。免許無しで調査を始める探偵は・・・というストーリーです。結論から言うとちょっと物足りませんでした。プロットに無理がある気がするんですよね。チャイナタウンに潜入し、捜査をする探偵の行動や描写に無理があるような・・・以下自粛。ラストもとってつけたような真犯人の●●死で終わっちゃうし・・・。消化不良気味な終わり方だったので次の作品に絡んでくるのでしょうね。次回作に期待します(←前向きな管理人)。 作家名INDEXホームへ戻る

追跡
(BINDLESTIFF)
徳間書店 文庫 初版1988年10月15日
あらすじ  私にライセンスが再交付された。途端に父親探しの依頼が舞い込んできた。恋人ケリーとの仲も戻ったし、幸先の良いスタートだった。ところが私はとんでもない殺人事件に巻き込まれたらしい。浮浪者になって行方不明だった依頼人の父は殺され、妹も姿を消してしまった。もと砂金の町、オロビルを舞台に15年前の殺人事件が暴き出され、新たな殺人事件が・・・。『名無しの探偵』シリーズ第9作(この時点で探偵の年齢は53歳)

 
感想  このシリーズは『死角』以降から面白さが増します。本作も非常に愉しめました。
 私立探偵のライセンスが再交付され、探偵家業を続けられる事になった名無しの探偵はさっそく、仕事にありつきます。その仕事とは、浮浪者になり放浪を続けている父を捜してくれという娘からの依頼だった。探偵は聞き込み調査で難なく父親を発見する・・・がその父親は殺され灰になっていた。その殺人犯は15年前に殺人を犯し、逃げ続けていた逃亡犯。で、その直後に依頼人の妹(死んだ浮浪者の末の娘)も行方不明になり・・・というストーリーです。浮浪者の父が殺される事件と15年前の殺人事件が交錯した時に、新たな殺人事件が怒るんですよ。面白そうでしょう?(笑)。でもですね、謎解きはそう巧いとは言えません。このシリーズは、この辺りになってくると『探偵』の魅力で読み進むといった感じなので、謎解きを重視される方には不向きかもです。それと徳間書店から出ている分は訳者が違います(関口篤さん)。訳者が違うと口語文の訳が物凄く変わるので、新しい訳に慣れるまでちょっと違和感があります。が、この邦題は巧いですね。題名の通り『追跡』しっぱなしなんですよ。最初から最後まで追いかける展開で、スピード感があります。
 本作では探偵の友人『エバハート』が警察を退職しています。探偵に『一緒に探偵業をやらせてくれ』と頼むのですが結論は出ないまま物語は終わります。次回作でどういう展開を迎えているのかが気になります(←エバハートのファン)。
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復讐
(QUICKSILVER)
新潮社 文庫 初版1985年6月15日
あらすじ  探偵は長年の親友エバハートと事務所を共同経営することになったが、その前に一回だけ、一匹狼最後の仕事をしたいと願っていた。そこへ、日系の若い女性から依頼の電話が・・・。高価なアクセサリー類のプレゼントが差出人不明で次々と送られて来るという。調査を引き受けた探偵はヤクザの内紛に巻き込まれ、子分たちの尾行に悩まされる。『名無しの探偵』シリーズ第10作(『標的』の事件から四ヵ月後で12月初旬という記述があるので、この時点で名無しの探偵は53歳)。

特記事項 本作『復讐』は小説新潮出版部からの長編書き下ろし執筆依頼で出来上がった作品なのだそうな。プロンジーニは依頼を受けると、早速タイプ用紙10数枚分のシノプスを送ってきたそうな。で、第一稿にある不十分な点(日本人名、食事の習慣、やくざの歴史等)や違和感のある場所を指摘し、書き直して貰ったものが本作なのだそうな。アメリカでも出版されたらしいが版元が急いだ為に、手直し作業がほとんどされていない状態で上梓されたらしい。(伝聞ばかりで申し訳ない・・・汗)

感想  上にある、経緯を知らないで読んだので驚きました。登場人物の殆どは日系人、そして登場する場所も日本人街と日本色に染まっています!。やくざの説明や食べ物や風習の描写など的確なので感心したのですが、それもその筈、新潮社の編集部が添削したらしい。怖いもの知らずだな(笑)。
 日系人の女性に依頼された探偵は、たいして面白くも無さそうな調査を引き受ける。が、その関係者に聞き取りに行こうとしたら死体を発見してしまう。気を取り直して調査を続けていくと今度は事故死を遂げた男にたどり着く。ただのストーカー野郎を捜す仕事が複数の死人と結びついて行き・・・というストーリーです。はっきり言って真相にたどり着く過程がむりやりだなぁと思いましたが、謎解き以外の部分では愉しめました。前作で結論が出ないままだった、エバハートとの共同経営も決まっていて、今までの作品とはちょっと雰囲気が変わっています。何と言えば良いのかな?。軽くなっているという感じでしょうか?。(本作では探偵が本格的なダイエットに挑んでいます。その描写のおかしさで物語の暗さや重さが緩和されている気がします。管理人は初期作品の暗い探偵より中期以降のおかしさのある探偵の方が好きなのです♪) 作家名INDEXホームへ戻る

亡霊
(NIGHTSHADES)
徳間書店 文庫 初版1989年2月15日
あらすじ  グレート・ウェスタン保険会社の支払い調査部長から私に焼死事件の調査依頼が舞い込んだ。かつてはゴールドラッシュに沸き、今やゴーストタウンと化した町マスケット クリークを観光地にしようと目論むノーザン開発の社長宅の火事で、当の社長が焼死したのだ。失火か、それとも放火か?。ところが調査開始早々、第二の事件発生で事は厄介な方向へ・・・。『名無しの探偵』シリーズ第11作。(この時点で名無しの探偵は54歳)。

 
特記事項 本作『亡霊』は、短編集『名無しの探偵事件ファイル(新潮社文庫)』に収められた『ラギラス・ガルチの亡霊』を長編化したもの。
感想  まず、感想の前に一言・・・。殆どが絶版という『名無しの探偵シリーズ』ですが、本作以降の数冊だけが異様に入手が困難なのです!。古本で一冊1000円超えが普通です(1500円で出ているのを見た事がある。振込み手数料や送料を入れると2000円近いじゃないか!。定価は440円ですぞ!)安価で見つけたら、即買いです!。
 で、感想ですが普通の出来という感じです。金を払いたくない保険会社に調査を依頼された探偵が、被保険者の死は事故か殺人かを調べるワケですが、結末がちょっと・・・難ありなのですよね。書いちゃうとネタバレになるので書けませんが(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る

ダブル
(DOUBLE)
ビル・プロンジーニ&マーシャ・マラー 共著 徳間書店 文庫
初版1989年3月15日
あらすじ  サンディエゴで開かれた大会に全米の探偵たちが大集合。"名無し"の探偵も、彼を父親のように慕う女探偵シャロン・マコーンも参加したが、何と会場となったホテルで墜死事件が発生した。目撃した"名無し"はシャロンとコンビを組んでさっそく事件の究明に乗りだした。だが、新たな事件が次々と起こり、危険な罠が二人を待ち受けていた。危機一髪の窮地を脱せるか…。『名無しの探偵』シリーズ番外編(作中で『脅迫』の事件から二年後と言う記述があるので、この時点で名無しの探偵は54歳)。

 
感想  非常に愉しめました!。本作はマーシャ・マラーの代表作『シャロン・マコーン シリーズ』の探偵マコーンとビル・プロンジーニの代表作『名無しの探偵シリーズ』の”名無し”の共演です。楽しめない筈が無いんですがね。
本作では名無しが”ウルフ”なる呼び名で呼ばれます。本作はウルフとマコーンの一人称で物語りは進んでいきます。これが楽しいのですよね。1章づつ交代で書いたのでしょうが息が合っていて、さすがご夫婦になる仲だと感動でした。それに、ウルフが作中で『ボストンに一人知っている探偵がいる』と言うシーンがあるのですよね。それも悪口です(笑)。ボストンの探偵?ひょっとしてスペンサーかな?と私は喜び(ロバート・P・パーカーの著作の探偵)、マコーンはキンジー・ミルホーン(スー・グラプトンの著作に出てくる女性探偵)と知り合いだという記述があったりで(他にも色々あるんですよ)探偵小説ファンには涎が出る展開が続きます。プロンジーニのファンへのサービスも一杯です。過去に名無しが関係した事件についての記述も多いのでニヤニヤ出来ますよ。
物語の展開も勿論、楽しんだのですがそれ以上に共著の醍醐味を味わった気がします。
 本作は両作家を知らない方でも充分に楽しめる内容ですが、出来るなら両者の著作を1作づつ読んでからの方が二倍楽しめると思います。でも本作は絶版の上、希少なのでB・プロンジーニ&M・マラーを未読の方がわざわざ捜されては読まないでしょうね???(笑)。
(追記・・・両者の著作は殆どが絶版、または品切れです。今ならまだ古本で入手可能なので一度、手に取ってみて下さいませ)

探偵シャロン・マコーンの簡単なプロフがこちらあります


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(BONES)
徳間書店 文庫 初版1989年10月15日
あらすじ  私には奇妙な依頼がお似合いのようだ。マイケル・キスカドンという若者が、父親の自殺の動機を調べて欲しいという。35年前の自殺を。だが、父親の名前を聞いて俄かに興味が沸いてきた。パルプ・マガジンの大御所的作家ハーモン・クレインその人だったのだ。しかし、調査の結果出てきたのは、自殺と縁遠い作家の実像と、身元不明の骨だけだった・・・。『名無しの探偵』シリーズ第12作。(エバハートが55歳という記述があるので探偵の年齢は54歳)

 
感想  これ、オチに難ありですがストーリーは面白いです♪。『殺意』と『脅迫』に出てくるパルプ・マガジン作家ラッセル・ダンサーがまたまた登場するんですよね♪。パルプ・マガジンが材になっている時は、作者自身が楽しんで書いているような印象を受けます。
 35年も前に自殺した作家の、自殺の動機を探ってくれと言われた探偵は調査を開始します。調査しても結果は出ないだろうと思いつつ動く探偵ですが、調査の過程で35年前の事件に絡むような白骨死体を発見してしまう。その直後、新たな殺人事件が起こり・・・というストーリーです。ストーリーの本筋とは別の事件(?)も同時進行します。『ダブル』で婚約したと言っていたエバハートの、その婚約相手が酷い女なのですよね。おっぱいがデカイだけが魅力の、がさつで愚かなペチャクチャとりとめもなく喋るデブ女なのですよ。で、そのデカパイに目が眩んだエバハートと、彼を心配する探偵とケリー(探偵の彼女)の描写が面白くて笑えます。この辺りまでくると、初期の面影は全く無いですね。
 文句をつけるとするならオチですね。物語の筋や描写は楽しめたのですが、結末には不満が・・・。犯人の動機が弱い気がするのですよね。これ以上書くとネタバレになりそうなので以下自粛です(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る

奈落
(DEADFALL)
徳間書店 文庫 初版1990年1月15日
あらすじ 11月のある夜。私は殺人を目撃した。被害者が死の寸前に呟いたのは"奈落・・・"だった。この男レナードの兄ケネスも半年前に転落事故で死んでいる。が、レナードの恋人トムは二人が同一犯に殺されたと主張し、私に真相究明を依頼してきた。兄弟の周囲は怪しい人物ばかり。事件の鍵を握る男が見つかった途端、罠にはまり私は半殺しの目に遭った・・・。『名無しの探偵』シリーズ第13作。(『復讐』の事件から二年後という記述があるので探偵の年齢は推定55歳)

 
感想  今回もオチに難はありますが愉しめました。というか、このシリーズの後期は謎解きを楽しむ方向けでは無いのかもですね。登場人物や主人公の成長を追うといった要素が強いのかもしれません。(はっきり言えばこの探偵をお気に召さない方には不向きの作品でしょう)
 探偵は不良債権者の自宅前で、車を取り上げる為に張り込みをしていた。張り込みも二日目、夜半になっても対象者は現れず、そろそろ引き上げようかと思った探偵はどこからかの銃声を聞く。銃声の発した方角の家からは黒ずくめの人が飛び出してくるが、人相を見る事は出来ない。止せば良いのに、黒ずくめの人が出てきた家に入った探偵は、血まみれの床を蠢く死に際の男を発見する。が、その男は"奈落"という謎の言葉を残し死ぬ。この殺人事件を目撃したのが切っ掛けで調査を依頼される探偵は・・・というストーリーです。それとは別の問題も浮上して、本筋の犯人探しと平行して行きます。というのは、探偵の彼女ケリーの元旦那がカルト宗教に入れあげていて、頭がおかしいのですよね。で、ケリーとの離婚を認めないワケですよ。真犯人探しとケリーの元旦那との対決が同時進行していくのですが、この、仕事とプライベートな事件が同時に進行するという手は中期以降の作品に多く使われているパターンです。 作家名INDEXホームへ戻る

報復
(SHACKLES)
徳間書店 文庫 初版1990年8月15日
あらすじ  親友エバハートに新しい恋人ができた。私も老いへのゆとりが生まれ、そろそろ探偵稼業におさらばを決め込もうと考えていた。が、その私を襲う謎の男の出現。あろうことか、人里離れた山奥の小屋に一人拉致された。男が残していったのは13週間分の食料と足かせ。絶体絶命の大ピンチに私は必死の脱出を試みるが、足かせは重く、確実に私を山小屋に縛り付ける・・・。『名無しの探偵』シリーズ第14作。(56歳まであと数ヶ月という記述があるので探偵の年齢は推定55歳)

 
感想  非常に愉しめました!。ここニ作品ほど結末がつまらないなぁと消化不良気味だったのですが、本作はそれがありませんでした。あと、構成がちょっと変わっていたのですよね。本作は三部構成になっていて一部はまるで冒険小説です♪。いきなり路上でクロロホルムを嗅がされた探偵は覆面をした男に拉致されるのですよね。で、雪深い山奥の山小屋に監禁される。足には、がっしりした作りのあしかせが付いていて、動ける範囲は数メートル四方だけ。食料は用意されているのですが13週間分しか無いので、脱出しない限り、死は目前なワケですよ。
名無しの探偵シリーズは全て一人称なので、監禁された探偵の言葉が延々と続くワケですが、死ぬかもしれないという恐怖から、精神が不安定になっていく様が克明に書かれていて、いつもの探偵シリーズとは全く雰囲気が異なります。
ココから先はかなり突っ込んで書いていますので、未読の方はご遠慮下さい
*一部は監禁された探偵が三ヶ月間、山小屋の中で暮らす様子が書かれています。で、二部は脱出の様子が書かれています。この辺りもまるで冒険小説で非常に愉しめました。(管理人は海で漂流●●日とか、砂漠を脱出とかいうのが元々好きなので楽しめたのですが、ミステリや探偵小説好きにはどうだろう?(笑))で、三部は脱出を果した探偵が、自分を殺そうとした男は誰なのか探り出すといういつもの探偵の雰囲気に戻りますが、探偵は相手を警察に突き出す気は毛頭無いんですよね。珍しく銃まで携帯して、謎の犯人を自分の手で仕留める為に探し出すのですよ。面白そうでしょう?♪。    ここから先はネタバレになるので、以下自粛。*
 ただ一つ残念だったのは残されたケリーやエバハートの様子が全く描かれていない事でしょうか。一人称で書かれているので致し方ない事なんだろうけどね。こういうストーリーは、合作の時みたいに称ごとに語り手を変えてみたり、あるいは手法をガラッと変えて三人称多視点で書かれていた方がもっと盛り上がったのでは無いかなぁと思いました。ですが、後期の作品の中では一番愉しめた作品です。 作家名INDEXホームへ戻る

注・・・前作の『報復』が出版されてから10年間、日本で名無しの探偵シリーズが邦訳される事はありませんでした。
で、10年ぶりに版元が講談社に変わって邦訳出版されたのですが、実際には『報復』と『凶悪』の間にJACKSPOT/BREAKDOUN/QUARRY/EPITAPHS/DEMONSの5作品の未訳があります。
ここまで読んで来た以上、この残りを何としても読みたいのですっっっ!。

凶悪
(HARDCASE)
講談社 文庫 初版2000年6月15日
あらすじ  『自分が一体誰なのかを知りたい』コンピューターも扱えない老いぼれ探偵に舞い込んだ依頼は、若く美しい女メラニーの実の親探しだった。養女だった彼女の出生の秘密とは?。這いずり回るような捜査の末、遂に突き止めた父親の恐るべき正体。

 
感想  いきなり名無しの探偵とケリーとの結婚式の場面から始まります。その上、親友であり共同経営者だったエバハートとは喧嘩別れし、彼は一人で別の探偵社を経営しているという記述も・・・。前作『報復』と本作『凶悪』の間に翻訳されていない作品が5作品あるのですが、それを読めば経緯が分かるのでしょう。何としても読みたいのじゃっっっ!!!。何で5作も飛ばしたんだろう?。神様仏様講談社様、お願いです。邦訳して下さい。訳者の木村二郎氏!お願いです。どこぞのコネのある版元に持ち込みして下さいっっ(本作が翻訳されたのは、木村氏が持ち込みでもしたのではないかと疑っている管理人。もしくは、この作品の後の作品でPWA賞を受賞しているので、その翻訳の前に布石を打ったのだろうか?)
 気を取り直して感想です。非常に愉しめました♪。『亡霊』と『骨』があんまり良い出来では無かったので、このまま枯れてしまうのかと思った名無しの探偵シリーズですが、本作では中期に味わったようなワクワク感を味わえました。ケリーと結婚し、事務所にパソコン担当のアルバイトまで雇い、新しいものに取り組もうとする探偵にちょっと違和感を覚えましたが、1995年発表の作品だから『名無しの探偵シリーズ』にパソコンが出てきてもまぁ、普通だよね。こちらが慣れていないダケなのでしょうがね。実の親を捜すという困難な捜査を続けた探偵の前に姿を現した実父が普通じゃなくて(ネタバレになるので詳しく書けない)、物語は意外な方向に進んでいくのですが、良い出来だと思います。このシリーズを未読の方が読まれても愉しめる作品だと思います。 作家名INDEXホームへ戻る



幻影
(ILLUSIONS)
講談社 文庫 初版2003年8月15日
あらすじ  わたしのかつてのパートナー、エバハートが死んだ。自らの胸を撃ち抜いて。一方、事務所に現れた男は、不治の病の息子のため前妻を探してほしい、と訴えた。消えた女を追いながら、わたしは、エバハートの失意の日々をもたどっていく。

 
感想 エバハートと名無しの探偵が一緒に撃たれたのが9年前という記述があるので、名無しの探偵の年齢は62歳のはずなのですが、作中の記述に『60歳ちかくになって』とあるのですよね。作者もこんがらがって来たのでしょうか?(笑)。

    ちょっと驚きました。名無しの探偵の無二の親友だったエバハートが本作では死んでいるのですよね。それも自殺。作者はこのシリーズをそろそろ終わらせる気なのでしょうか?。まぁ、プロンジーニもかなり高齢なのでいつ終わっても不思議じゃないシリーズだけど、作者が生きていらっしゃる間に終わられるのは寂しいなぁ。
 ストーリーはそう入り組んだものではありません。中期からの特徴である二つの事件が同時進行していくといういつもの手が使われています。で、感想ですが・・・書き難い(笑)。私にとってこのシリーズを読む事は、古い友人に再会するような気分なのですよね。だから、手にとってストーリーがどうの、オチがどうのと考える前に、新しい作品を手に出来た事だけで幸せなのですよね。
 ですが、訳者の木村二郎氏について一言だけ。『ヴァルヴ』『リヴィングルーム』『スウェター』『ディザイン』・・・。彼の訳のカタカナはいつもこんな風なんですよね。非常に読み難い。所詮、日本語訳なんだからカタカナを正式な発音や、綴りに忠実に訳する必要は無いと思うんですが如何でしょうか?。それでなくても講談社文庫の文字はでかくて行数が少ない(文字数が少ない)のに、『ヴ・ェ・ィ』の多用で余計に文字数を食うじゃないのさ?!。版元の諜なのでしょうか?。(この訳者はマイクル・コナリーの訳もやるんですよね・・・がるるる)


ビル・プロンジーニの略歴&著作リスト合作・共著の感想が別ページにあります。

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