ウィリアム・K・クルーガー 作家略歴&著作の感想 |
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作家名 | ウィリアム・ケント・クルーガー(WILLIAM KENT KRUEGER) |
生年月日 | 1950年11月16日 |
生誕地 | (引越しが多かったので、色んな所に住まれたそうなのですが ご本人は「オレゴンが好き」だと仰っています) |
処女作 | 凍りつく心臓(IRON LAKE) |
デビュー年 | 1998年 |
公式サイト | http://www.williamkentkrueger.com/ ウィリアム・ケント・クルーガー公式サイト http://www.minnesotacrimewave.org/ (4人の作家が集まってサイトを運営されているようです) |
元保安官コーク・オコナー シリーズ |
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凍りつく心臓 (IRON LAKE) |
講談社 文庫 | 初版2001年9月15日 |
あらすじ | ミネソタのアイアン湖畔の町オーロラ――吹き荒れる雪嵐の日、老判事の死体が発見された。自分の頭を拳銃で吹っとばしたのだ。明らかに自殺に見えたが、最後に判事と会ったはずの少年が失踪。不審を抱く元保安官コーク・オコナーの執念の捜査が始まった。アンソニー賞・バリー賞ダブル受賞。
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感想 | これ、ジャンルは何になるんだろうなぁ。ミステリ?それともサスペンス物?ハードボイルドでは無いしなぁ。兎に角、不思議な味わいのある作品でした。それと文章が綺麗でした。訳のお陰か?、本人が巧いのか?。 主人公のコーク(コーコラン)・オコナーは元保安官。彼の体には、ほんの少しアメリカ先住民の血が流れている。コークは、ある事件がきっかけで職を追われ、現在はハーンバーガーショップの経営者。妻とは別居中で離婚を迫られている。女房子供とは別れたくないが、愛人はちゃっかり作っちゃう煮え切らない男だ。そんなある日、新聞配達に出たインディアンの少年が行方不明になる。コークは母親に頼まれ少年の捜索を始めるが、少年の最後の配達先の屋敷で判事の死体を発見してしまう。見た限りは自殺に見えるが、不審な点が多い。自殺か、他殺か?。少年の捜索を行いながら、真相を追い求めるコークの周りで死人が増えていく・・・というストーリーです。最初に発見された死体は自殺なのか?他殺だとするなら誰が?という謎と一緒に進行する、コークの人間としての苦悩が心に沁みました。主人公が弱い男なのですよね。家庭に帰りたい、妻とよりを戻したい、と望む主人公なんだけど、温かい女性らしさを持つ愛人モリーからは離れられないでいるのですよね。仕事も家庭も失ってしまった男の、再生の物語と言えるのかもしれません。が、結末で『うっ、それは無いだろ?!』と・・・これ以上は書けない。全編に漂う哀愁は、作品の中に出てくるアメリカ・インディアン達の、民族が持つ悲しい歴史の所為なのかもしれません。 本作で『アンソニー賞』『バリー賞』の最優秀処女長編賞をダブル受賞しています。 最後に一言・・・この作品の舞台は、人口3700人程度の小さな田舎町なのですよね。これをシリーズ化するって、どういう事件が起こるのか気になります。シリーズ化は難しそうな感じがするんだけどなぁ。 ![]() ![]() |
狼の震える夜 (BOUNDARY WATERS) |
文芸春秋社 文庫 | 初版2003年1月15日 |
あらすじ | 厳しい冬迫るミネソタの湖畔の小さな町。元保安官コークは、消息を絶った人気女性歌手捜しの手伝いを引き受けた。幼い頃、目の前で母を殺され、心に傷が残る彼女は、母の故郷の湖沼地帯に身を隠していた。コークは捜索に向かうが、正体不明の影が彼を追い、そして殺人が……。
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感想 | 観光客相手のハンバーガーショップを営む元保安官コーク・オコナーのもとへレコード会社の経営者ウィリー・レイが訪ねて来る。自然保護区バンダリー・ウォーターズに身を隠しているレイの娘で人気歌手のシャイローが命を狙われているので探し出してくれと言う。シャイローは15年前、実母が殺される現場を目撃していたのだが、その記憶を失っていた。が、精神科医とのカウンセリングで失くした記憶を取り戻した可能性がある事から、危険が迫っているというのだ。シャイローが潜んでいる場所(湖沼地帯)を知っているのは、10歳の少年インディアン、ルイスだけ。ルイスの案内で捜索に出るのはコーク、レイ、FBI、ルイス&その父・・・というストーリーです。 で、感想ですが前作より遥かに出来が良いですね。堪能しました(笑)。コーク一行とFBIが捜索に出る場所は、カヌーで川を上らないと行き着けないような山の中なのですよね。狼が出る、クマが出るような大自然の中を捜索隊は進むのですが、後ろには謎の追っ手がいるわけですよ。なんかね、本作はミステリではあるのだけれど、冒険小説と呼んでもおかしくない追跡劇の連続で一気読みいたしました。でも、冒険小説風ではあるのですが、インディアンのルイスとその父、コークとその家族、シャイローとその父といった感じで『親子の絆』なるものが丹念に描かれていて心に沁みる出来でした。そしてルイス少年が語る部族に伝わる物語(神話)にホロホロと来てしまいました。山や木や湖に神が宿る、なんていう感覚は日本の神話に近いなと、先住民族の歴史にも興味が(笑)。 版元様、お願いです。次回作も翻訳して下さいね。打ち切りにしないで下さいよっ。(嫌な予感がするので(笑)) ![]() ![]() |
二度死んだ少女 (BLOOD HOLLOW) |
講談社文庫 | 初版2009年2月13日 |
あらすじ | 行方不明になった女子高校生の捜索に加わった元保安官コークは、吹雪に行く手を阻まれるが、不思議な影に助けられる。その影こそが彼女の魂なのではないか?ミネソタの大自然と家族を愛する男は、広大な谷がのみ込んでいた真相に驚愕する。シリーズ第4弾。Anthony Awards Best Novel winner (2005)
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感想 | 元保安官コーク・オコナーは、二日近く行方の分からない少女の捜索活動にボランティアで参加していた。極寒の森林地帯で必死の捜索が行われたのだが、迫り来る大嵐で捜索活動は打ち切られ、少女が生きているのか死んでいるのか分からないまま終わる。そして、4ヵ月後。雪の中から少女の遺体が発見されるのだが、彼女の遺体の周りにはジャンクフードやビールの空き瓶が散乱しており、事故死とは見え難い状況。で、その証拠品から居留地に住む先住民の青年ソレムの指紋が見つかり、警察は彼を殺人犯として逮捕、拘留する。コークは恩人の甥であるソレムの無実を信じ、真犯人探しに乗り出すが、新任の保安官は捜査のことなど何も分からない朴念仁で・・・という展開です。 途中、物語はオカルトな雰囲気をかもし出すのですが、想定内の範囲でしたので割と安心して読めました。というのも〜この物語の主人公コークは4分の一先住民族の血が流れる男で、彼の暮らすオーロラには居留地もあり今までも度々先住民族の信仰なんかが物語りに登場していたんですよね。その信仰も木や湖や森に精霊がいるというようなもので、日本でいうところの「八百万の神々」と近い所があって、日本人には理解し易い文化なのかもしれません。で、物語の核となるのはいつものように「父親と子の絆」です。シリーズで一貫して描かれている父と子の絆が、この作品は今までより更に濃く描かれています。コークの家族のことだけではなく、被害者の少女とその父親、保安官とその子、被疑者のソレムと亡き父親などなど丁寧に描写されていて、作者がシリーズを通して、何が一番大事なのか?を読者に語りかけているような気がします。そして、相変わらず情景描写が良いのですよね。ミネソタのアイアン湖畔の町オーロラはワタクシの脳内で色付で浮かびます(笑)。お勧め作家ですけど、どうせならシリーズの最初から入られる事をお勧めします。 (訳者の野口百合子さんの訳文は好感が持てますし好みの訳者さんだしクルーガーにピッタリなのですが、ひょっとして仕事が遅い???本国では毎年新刊が出ているのだから急ピッチでお願い致したいっ。5作も未訳がありますっ。そんでもってC・J・ボックスの新刊もお願いします) |
シリーズ外単発作品 |
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月下の狙撃者 (THE DEVIL'S BED) |
文芸春秋 文庫 | 初版2005年7月10日 |
あらすじ | 同じ女を愛した二人の男。一人は彼女を狙う暗殺者、一人は彼女を護衛するシークレット・サービス。護衛官はストリート・キッドとして育ち、暗殺者は近親相姦の落とし子だった。
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感想 | 『凍りつく心臓』の続編だと思って購入したのですが、そうではなく単発作品でした。私個人の感想ではこちらの作品の方も愉しめました。主人公像が良かったのですよね♪。ジャンルはエンタメでしょうか。ミステリと冒険小説のジャンルミックスって雰囲気の作品です。 大統領夫人の父親が自宅で重症を負う。夫人はワシントンからミネソタの父親の元へ駆けつける。シークレット・サービスのボーは大統領夫人の警護に就くが、やがて事故は大統領夫人を呼び寄せる為に仕組まれた罠ではないかと疑問を持つ。過去のある事件から大統領夫人とその父親に恨みを持つナイトメア(暗殺者)は、ただ一人危険を察知して動くボーをかいくぐり、標的に近付いていく・・・というストーリーです。冒頭は純粋なサスペンス物といった雰囲気なのですが、物語の半ばから、ホワイトハウスで蠢く陰謀が物語に絡んできて、冒険小説に変わっていく(?)面白い構成でした。そして、相変わらず文章や描写が綺麗なのですよね。この作家が巧いのか、訳者の野口百合子さんが巧いのかは定かではないけれど、この作家を追いかけている理由です。忌まわしい過去を持つ二人の男(主人公と準主人公の暗殺者)が歩んだ道は全く違うものになったのだけれど、根本では似ていて、この辺りの人物造詣も、この作家は処女作から進歩し続けているなぁと嬉しい驚きでした。続編を書いて欲しいと思います。 |