殺しの儀式/殺しの四重奏/殺しの迷路/殺しの仮面

ロック・ビート・マンチェスター/シャドウ・キラー/処刑の方程式/過去からの殺意


ヴァル・マクダーミド(VAL MCDERMID) 作家略歴&著作の感想
作家名 ヴァル・マクダーミド(VAL MCDERMID)
生年月日 ???年
生誕地  スコットランド カークカルディ
処女作  Report for Murder
デビュー年 1987年
公式サイト http://www.valmcdermid.com/


作家略歴

 スコットランド カークカルディ(炭鉱地帯。アダム・スミスの出生地で有名な町なのだそうな)で育つ。オックスフォード大学を1975年に卒業。16年間グラスゴーとマンチェスターの新聞社で、ジャーナリストとして働いた。後半の3年間は全国紙の日曜版に移り、支局の編集者として活躍。その後、小説を書き始め、9作目のミステリ『殺しの儀式』でCWA(英国推理作家協会)最優秀長編賞であるゴールドダガー賞を受賞。
 現在はマンチェスター郊外に息子と三匹の猫と共に暮らしているそうな。

管理人注・・・HPを見て驚かれるでしょうが、女流作家です。管理人は長い事、この作家を男性だと思っていました(笑)。

女性捜査官キャロル・ジョーダン シリーズ
殺しの儀式
(THE MERMAIDS SINGING)
集英社 文庫 初版1997年4月20日
あらすじ  イギリス中部の大都市で連続殺人事件が起こった。犠牲者はすべて男性だ。きれいに洗われた死体にはむごい拷問の跡。血眼で犯人を追う警察は内務省から心理分析官トニーの応援を頼んだ。警察内部の冷ややかな目を背に、女性警部補キャロルとチームを組んで息づまる捜査が始まった。犯人は同性愛者か!?そして、さらに犠牲者が…。CWAゴールド・ダガー賞受賞のサイコ・ミステリー。

 
感想  ジャンルはサイコ・ミステリです。この作家、結構巧いんですよね。でも、日本では売れていないようですね(笑)。
   主人公は女性捜査官のキャロル・ジョーダン。イギリス東部の地方都市、ブラッドフィールドで4人の男性が残忍な方法で次々に殺害される。死体には、まるで、中世の処刑道具を使ったかのような拷問の後が残されている。犯人は同性愛者だと目されるが、被害者の全員は異性愛者で、なぜこの男たちが狙われたのか見当もつかない。あまりにも異常な事件のため、心理学者トニーヒルにプロファイリングを依頼するが・・・というストーリーです。ヴァクダーミドが巧いなと思うのは犯人の描き方でしょうか。ただ単に『異常性格者は悪、殺人は悪』という書き方をしないのですよね。『連続殺人に手を染めた犯人でも、、そこに至る何かがあるのだ』と言っているような気がします。それと、イギリス作家のミステリのわりにはスピード感があります。イギリスの作家だと知らずに読んだなら気がつかないかもです。
イギリスのミステリで女性が主人公だと売れないと聞いた事があるけれど、最近は増えてきましたね。 作家名INDEXホームへ戻る



殺しの四重奏
(THE WIRE IN THE BLOOD)
集英社 文庫 初版1999年6月25日
あらすじ  警部に昇進して新しい職場に配属されたキャロル。さっそく多発する不審火に目をつける。一方、心理分析官のトニーも六人の研修生たちとチームを発足。行方不明の女子高生をサンプルに活動を開始するが、意外にも有名なTVキャスターのジャッコが犯人像として浮かぶ。キャロルはトニーとともに捜査を始めたが…。シリーズ第二弾。

 
感想  今回もサイコサスペンスです。相変わらず陰惨な描写が多くて愉しめ(?)ました。中途半端は嫌いなので、『サイコならより陰惨に』と思うワタクシにはピッタリです(笑)。
 前作は英国産サイコサスペンスとミステリの融合といった感じで、謎解き、犯人探しありのミステリだったのですが、本作はガラッと違います。最初から、元オリンピック選手で現在はテレビ界の人気者ジャッコ・ヴァンスが犯人だと読者に提示されるのですよね。で、プロファイリングで犯人に辿り着いている過程が物語として描かれているのですが、犯人が分かっていながら怖いワケですよ。こういうミステリで読者に犯人を最初から晒す手法って、作者はよほど自信があったのでしょうね。シリーズ第二作ではあるけれど、3作品の中で一番面白いのは本作かな。お勧めです。ですが!陰惨な殺戮シーンなんかが苦手な方には無理かも〜。   作家名INDEXホームへ戻る



殺しの迷路
(THE LAST TEMPTATION)
集英社 文庫 初版2004年7月25日
あらすじ  ロンドン市警の女性警部キャロルはユーロポール(欧州警察機構)の職を志願した。合格したものの、ドイツの犯罪組織のボスに近付き、囮捜査をするよう命じられる。彼の亡き愛人にキャロルが生き写しだったからだ。同じ頃、ヨーロッパを舞台にした心理学者の連続殺人事件が起こり、キャロルは心理分析官トニーに応援を頼む。

 
感想  まず、感想を書く前に版元集英社に拍手を送りたい。この文庫はですね、1冊で673ページもあるんですよ。で、お値段は1048円。どこぞの版元なら間違いなく上下二巻にして、合わせて1500円は超える厚みです(笑)。訳者さんは儲からなくて気の毒だけれど、買う方にしてみたら有り難いですっ。
 で、感想。
 『何で囮捜査なんかさせられるのか?』と疑問を持ちつつも、犯罪組織に潜入し内部へ深く潜り込んで行くキャロルと、心理学者を狙い連続殺人を犯す犯人、その犯人像をプロファイルしながら追い詰めていくトニーが、描かれています。これ、独立して本を書いても良いくらい細かく描写してあるのですよね。場面がころころ変わるのは、マクダーミドお得意の書き方なんだけど、今度のは際立っています。三方向から進んで行く物語がラストで絡み合うんだけど、まぁ読んでみて下さい。 作家名INDEXホームへ戻る

殺しの仮面
(THE TORMENT OF OTHERS)
集英社 文庫上下巻 初版2006年4月26日
あらすじ  ドイツでの任務でレイプされた女性警部キャロル。傷心のままイギリスに戻り、重犯罪専門の特捜班のチーフに命じられる。心理分析官トニーは彼女が住む街の病院に移り、家を買い、彼女に地下に住むことを提案した。特捜班は児童誘拐事件を調べ直すが、残酷な娼婦殺人が起きる。果たして、キャロルの指揮の結果は?。シリーズ第4弾。

 
感想  ついに集英社も文庫を上下巻にしてしまった(涙)。持ち歩く時に2冊持って歩くのが面倒なんだよね〜。ハードカバーとかみたいに(装丁を良くして)値段が高くなっても良いから〜1冊にまとめてもらえませんかね?。
 で、感想です。今回の作品はマクダーミドらしい出来で楽しめました。『ケイト・ブラナガン』で激怒した直後だったので余計に喜べたのかもですが(笑)。ストーリーはいつものパターンで、二つの事件が同時進行で描かれます。一つは児童誘拐事件で、もう一つは娼婦惨殺事件。世論も警官たちも娼婦殺しよりは児童誘拐事件の捜査の進展を望むのですが、受け持った事件は被害者が誰であろうと同じように扱う(扱いたい)キャロルは自分の部下達を統率するのに四苦八苦する。そんな時、誘拐事件の進展と娼婦殺しのおとり捜査が同時に始まる。自身がおとり捜査官として潜入した挙句、レイプされた過去を持つキャロルは部下の身の安全を憂うが・・・という展開です。相変わらず展開が速いので、モタモタしたイギリスミステリが苦手な方にもお薦めです。シリーズを追い掛けているファンとしては、キャロルとトニーの仲の進展が遅いのが気掛かりですが(笑)。次作も翻訳される事を切に願います>集英社さま。 作家名INDEXホームへ戻る



シリーズ外作品(単発)
私立探偵ケイト・ブラナガン
ロック・ビート・マンチェスター
(DEAD BEAT)
集英社 文庫 初版1998年4月20日
あらすじ  ケイトは「モーテンセン・アンド・ブラナガン探偵社」の若くて魅力的な私立探偵。コンピューターを駆使しての横領の調査を専門とする。恋人のジャーナリスト リチャードからロック界のスーパースタージェットを紹介されたケイトは、ジェットの依頼をうけ人探しをはじめるが、殺人事件が起こり・・・。

 
感想  酷いショックを受けました・・・。この作品がコージーミステリだと知らずに読んだ所為もあるのでしょうが・・・マクダーミドにコージーミステリは似合いませんよっ(涙。原書で読んだわけでは無いので、なんとも言えないんだけど、訳書を読む限りでは、文章が軽すぎるのですよね。ストーリーもあんまりです。人探しを頼まれた探偵が、その人を探し出すのだけれど、その人はすぐに殺害され、犯人は誰?って内容なんだけど・・・もうちょっと捻れよ〜〜〜がるるるっ。
女性探偵が主人公の軽い作品は、他に書ける作家が山ほどいるんだから、マクダーミドが書く必要は無い気がするんだけど、どうなんでしょうね?。女性探偵を主人公に据えた作品を読むのなら、マーシャ・マラー、サラ・パレツキー、スー・グラフトンの作品を選ぶよっ。普段のマクダーミド作品を好む方には、要注意の作品です。 作家名INDEXホームへ戻る



シャドウ・キラー
(KILLING THE SHADOWS)
集英社 文庫 初版2001年9月25日
あらすじ  犯罪心理学者フィオナには悲しい過去があった。妹の殺害事件。それを阻止できなかった彼女は、プロファイリングの研究にいっそう熱を入れている。恋人のミステリー作家キットとの同居生活は順調だったが、彼に届いた一通の脅迫状と、彼の同業者が殺されたことで、二人の生活にも暗い影がしのびよってきた…。

 
感想  この作品の主人公はプロファイラー。連続殺人犯のプロファイルを扱ったという点では、キャロル・ジョーダン シリーズと同じですが、物語として見るならこっちの方が面白いかな。
 子供を連れて公園を散歩していた女性がレイプされ殺害された。心理分析者のフィオナはロンドン警視庁の依頼で犯人のプロファイリングを引き受ける。間もなく容疑者は逮捕されたが、フィオナの『真犯人は別にいる』という意見は無視され、別のプロファイラーを採用し裁判へ臨む警視庁。そんなころスペインの警察から連続殺人事件のプロファイルの依頼がフィオナに舞い込む。フィオナは彼氏のミステリ作家キットと共にスペインへ飛ぶ。が、留守中のイギリスではミステリ作家を狙った殺人事件が起こり、連続殺人事件の可能性が浮上。イギリスへ帰ったフィオナとキットを待っていたのはキットを殺すという脅迫状だった・・・というストーリーです。 スペインでの連続殺人事件と公園で女性がレイプされ殺害された事件、そしてミステリ作家を狙う連続殺人事件と三つの事件が同時進行していきます。読んでいる時にはちょっと詰め込みすぎじゃないかと思ったのですが、結末まで読んで納得いたしました。最後に結び付くのですよね。書き過ぎるとネタバレになっちゃうので、これにてお終い。 作家名INDEXホームへ戻る



処刑の方程式
(A PLACE OF EXECUTION)
集英社 文庫 初版2000年12月20日
あらすじ  1963年冬、イギリスのダービーシャー州の寒村から、13歳の少女アリスン・カーターが消えた。さっそく警察は捜索を開始するが、少女の行方は不明のまま。住民は無口で、よそ者に心を開かない。若き警部ジョージ・ベネットは殺人事件と考え、ついに被疑者を拘留する。死体なき裁判が始まった…。

 
感想  今まで読んだマクダーミド作品の中で一番のお気に入りです。冒頭部は地味なんだけど、徐々に物語りに引き込まれ、二転三転するプロットに身悶えいたしました(笑)。最初の100頁くらいは退屈ですが、どうか投げ出さないで読了して下さいませ。イチオシですぞ。
 家が9件しかない小さな集落から、犬の散歩に出た13歳の少女が忽然と消えうせた。少女が連れて出ていた犬は、口をテープで縛られ吼えないようにした上で木に繋がれていたのを発見される。見つかった証拠物件は少女が着ていた衣服と(精子と血液が付着)、銃弾だけ。誰かに連れ去られたのか?生きているのか死んでいるのか手掛かりは掴めぬまま捜査は空転する。警部ジョージ・ベネットは生まれて初めて手掛ける大掛かりな事件に全身全霊を注ぎ、捜査を続け一人の被疑者を勾留するが被疑者は全面否認する。死体なき殺人事件は立証されるのか?裁判を維持できるのか?犯人を死刑に処す事が出来るのか?・・・というストーリーなのですが、ここから物語りは大きく動くのですよね。書いちゃうとネタバレになるので書けませんが、ここからが良いのですよね。犯人は誰かという謎解き自体も素晴らしいのですが、真実に迫っていく過程で、登場人物たちの心の動きというか感情の波が細やかに描かれていて、のめり込んで読める出来です。マクダーミド作品をはじめて読まれる方に、是非、この作品から入って欲しいです。
あと、構成が巧いのですよね。これ、作者はかなり力を入れて書いたんだろうなぁって思います(笑)。それと、この作品に出てくる警察官の二人がとても良いのに、シリーズ化されていないのが残念でなりません。もう一冊、書いて欲しいなぁ。 作家名INDEXホームへ戻る



過去からの殺意
(THE DISTANT ECHO)
集英社 文庫 初版2005年3月25日
あらすじ  スコットランドの小村で、4人の大学生が血まみれの若い女性を発見した。女性は死亡し、警察はすぐに調査を開始。疑惑の目は第1発見者の4人に向けられた。幼なじみ4人は固い絆で結ばれていたけれど、周囲の冷たい視線のなかで、互いを疑う気持ちが少しずつ生まれていた。だが真犯人は上がらず、事件は未解決のまま時がたった。そして25年後、事件の見直しが始まり、驚くべき真実が……。バリー賞最優秀英国ミステリー賞受賞作。

 
感想  マクダーミドは、イギリス人作家の割には導入部から動きのある軽快な作品を著すのだけれど・・・本作は珍しくイギリスミステリだなぁって感じの作品でした。はっきりいうと、第一部が(252頁)退屈でしょうがなかったのですよね(笑)。
ひょんなことから瀕死の女性を発見した4人の学生が、必死で女性を助けようと尽力したんだけど、その女性は死亡。死んだ女性は刺された上にレイプされていた事から若い4人組は警察に疑われ、最重要容疑者と目されていく。第一部では、その捜査の過程が延々と描かれていくワケですよね。必死で疑いを解こうとする4人だけど、小さな町なので村八分のような状態に置かれ、憔悴して・・・もう、本当に退屈でした(笑)。なんせね、4人の学生に其々あだ名(呼び名)が付いていて、それが本名とはかけ離れた名前なのですよね。例えば『シグムンド・マーキウィツ君』は『ジギー』という呼び名で呼ばれていて、本の中ではシグムンド&マーキヴッッツ&ジギーと三つの名前で呼ばれるんですよ。登場人物の学生4人が三通りの名前で表記されるワケだから3×4=12通り・・・。もう、混乱します(爆笑)。で結局、犯人を特定出来ぬまま、迎えた25年後。再捜査が始まり、新たなる殺人事件が起こり・・・というストーリーなんですが、この作品を読まれる貴方に注意です!。第一部で退屈だからといって投げ出してはいけません。第二部からは俄然、動きが早くなり、元の(?)マクダーミド作品に戻りますので、頑張って読み進みましょう。マクダーミドお得意のどんでん返しも用意してありますので、是非、最後まで読んで欲しい作品です。こんな事、書いちゃいけないんだろうけど、第一部は軽く読み流しちゃっても第二部に差し障りはありません(汗。





作家名INDEXホームへ戻る