チャイルド44/グラーグ57


トム・ロブ・スミス(TOM ROB SMITH)作家略歴&著作の感想
作家名 トム・ロブ・スミス(TOM ROB SMITH)
生年月日 1979年
生誕地  英国ロンドン生まれ
処女作  『チャイルド44』
デビュー年 2008年
公式サイト

作家略歴

 1979年、ロンドン生れ。英国人の父とスウェーデン人の母を持つ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手がける。処女小説『チャイルド44』は刊行1年前から世界的注目を浴びたのち、2008年度CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞を受賞。

Novels(著作)
Child 44 (2008)『チャイルド44(新潮文庫上下巻)』
Secret Speech (2009)『グラーグ57(新潮文庫上下巻)』

チャイルド44
(Child 44)
新潮社 文庫 初版2008年9月1日
あらすじ  スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた……。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作!

 
感想  久々に手に汗握る冒険小説を読んだなぁ〜って喜んでおります(笑)。この作品の舞台は1950年代のソビエト連邦でして、やっぱこういうハラハラドキドキさせる冒険小説ってのは現代が舞台では成り立たないんだなと妙に納得してしまいました。で、物語はというと・・・
スターリン体制下のソ連。モスクワで雪合戦をしていた男の子が行方不明になり、その後 遺体となって発見される。公には列車に轢かれたことによる轢死として事故処理されるが、遺体には不明な点が多々あった。少年は発見時全裸で、口には泥団子が詰められ、腹部は切り裂かれたいたのだ。子供の両親は遺体と対面すら出来なかったのだが発見者から異様な状況だったことを聞き、これは殺人事件だと強く主張する。が、偉大な革命を成し遂げた理想国家ソビエト連邦には「犯罪は存在しない」ことになっていた。貧困も欠乏も無い、民がすべて等しく平等な国では奪い合いも殺し合いも無いというのが国家の建前なので、殺人事件が起こるなどという出来事は、共産社会を揺るがす大失態となるのだ。で、これは殺人事件だと言い張る両親に、事件は事故だったと納得させ、穏便に収める任務を仰せつかったのが父親の上司であるレオ・デミドフ捜査官。レオは無事に事件をもみ消し、通常の任務に戻るのだが〜この機に乗じた直属の部下にはめられ、妻ともども片田舎の民警へ追放される。が、追放された先で出くわした子供の惨殺体は、かつて自分がもみ消した少年の遺体と酷似しており・・・という展開です。
冒頭で二人の少年が出てくるんですよね。ウクライナの片田舎の町で餓死するものかと必死で食べ物を探していた兄弟が猫を発見し、食料にするために森に追っていく場面から始まるのですよね。で、彼らは猫を無事に仕留め、家で待つ母親の元に獲物を持って帰ろうとするのですが〜お兄ちゃんが何者かに殴られ獲物と共に連れ去られてしまうんだよね。お兄ちゃんは誰かの『食料』として捕まってしまうわけです。で、その20年後。モスクワでやっぱり兄弟のうち一人が殺されてしまい・・・読み手としては冒頭の50ページでグググッと物語に引き込まれてしまうんですよ(笑)。で、この主人公レオが良いんですよね。物語の最初では彼はただの共産主義の番犬でしかないんだけど、愛する妻を守るために体制に反発し、で片田舎に飛ばされちゃってから彼は自分自身というものを見つめ始めるんですよ。自分がもみ消した殺人事件が実は連続殺人事件だとしり、国が犯罪を認めないというだけで全国の子供たちが標的になっているのを見逃しておれなくなるんですよね。共産社会で殺人事件などを起こすのは、ナチの残党か知的障がい者、または西側諸国のスパイでしかないという建前の中、殺人犯を追うなどというのは流刑または処刑覚悟。だけどもレオは命をかけて連続幼児殺害犯を追うんですよね〜。途中、体制側に追われるのですが、レオと妻は出会う人々の力を借りて結末へと向かっていきます。この辺りの逃亡劇は『あ〜冒険小説っていいなぁ〜」と感動を覚えました。お勧め作品です。 作家名INDEXホームへ戻る



グラーグ57
新潮社文庫上下巻 初版2009年9月 1日
あらすじ  運命の対決から3年―。レオ・デミドフは念願のモスクワ殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しも、フルシチョフは激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る…。世界を震撼させた『チャイルド44』の続編。

 
感想  物語は・・・前作のラストで殺人課への配属が決まったレオ・ドミトフは養女ゾーヤが心を開かないことに手を焼いていたが、それでも民警時代とは比べ物にならないほど穏やかな生活を送っていた。が、フルシチョフが激烈なスターリン批判を展開し始め、政治犯として投獄されていた者達は続々と釈放されていった。そして、かつて政治犯たちを取り調べ強制収容所に送る側であった捜査官が一人、また一人と死へと追い込まれて行く・・・といった展開です。
感想が難しい作品です。なんと言えば良いのか難しいんですけど、奇想天外と荒唐無稽の間を綱渡りしているような作品なのですよね(笑)。前作は実際にあった事件を素地に着想されたというだけあって、圧倒的なリアリティーでもって読者を物語りに引っ張り込むような勢いがあったんですよね。ところが、本作ではチラホラと無理のある箇所が出て来てまして、正直に言うと前作の方が出来は良かったかなという気がします。この作品は3部作の2部目だそうなので、3部でもってこのモヤモヤした感じを払拭してくれるのかもしれませんので、次作に期待したいと思います。前作があまりにも良かったので感想がチト辛口になってしまったのかもしれませんが。
ちなみに、この題名の『グラーグ57』って何だろうかと思ってましたらば『第56強制労働収容所』のことなんだそうです。それと、間を置かずして邦訳してくださった新潮社と訳者の田口俊樹さんに感謝をば(笑)。



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