僕の心臓を盗まないで/中間生命体/外科医/白い首の誘惑/聖なる罪びと




テス・ジェリッツェン(Tess Gerritsen) 作家略歴&著作の感想
作家名 テス・ジェリッツェン(Tess Gerritsen)
生年月日 19??年
生誕地  カリフォルニア
処女作  Call After Midnight(Romantic Thrillerだそうな)
デビュー年 1987年
公式サイト http://www.tessgerritsen.com/


作家略歴

中国系アメリカ人(二世)で、カリフォルニアで育つ。スタンフィード大学を卒業後、カリフォルニア大学に進み1979年、Medical Doctorとなる。ホノルルで医師として働いた経験を持つ。産休中に気まぐれでHONOLULU MAGAZINEの州全体のフィクションコンテストに短編を応募し、見事一等賞を獲得する。その後、育児と執筆に専念するために医師を引退。(医学スリラーでの処女作は『HARVEST』だが、その前にロマンティック・スリラーを9作品上梓されているらしい。詳細は不明)
1996年、はじめての医学サスペンス、医療サスペンスの『HARVEST』を執筆。この作品は20の言語に翻訳された。現在は夫と二人の子供と共にメイン州に在住。



僕の心臓を盗まないで
(『命の収穫』を改題
HARVEST)
角川書房 文庫 初版2001年1月25日
あらすじ  モスクワのうらぶれたアパートで体を売って生きる少年、ヤーコフ。客は皆、その魅力的な金髪、決してたじろがない青い瞳に夢中になる。11歳にして既に何もかも経験してしまった彼には家族もなく、希望もない。しかしある日、新しい親が待っていると告げられ、仲間とともに船に乗せられる。明るい未来を約束されて―。アメリカの大病院で、外科研修医のアビーは苦渋の選択を強いられていた。患者が遺した臓器は一つ。移植希望者は二人。貴重な臓器は誰に行くべきなのか?売られてゆく子供、移植する医師、二人の運命は一つの点で重なり、驚愕の結末を迎える―。

 
感想  久々に医療サスペンスで面白い作品に当たりました♪。医学物は当たり外れが激しいのでビクビクしながら読んだのですが読後は大満足です。
 モスクワのうらぶれたアパートの一室から物語は始まります。孤児の少年を里子に出すためにという名目で、アメリカに連れて行かれる数人の子供たち。で、舞台は変わりアメリカはボストン郊外のベイサイド病院へ。主人公のアビー・ディマティオは研修二年目の外科医で前途洋々なのだが、ある日交通事故で担ぎこまれた女性の担当となる事から事件に巻き込まれる。この女性は脳死状態で心臓移植のドナーとなるのだが、病院内には心臓を病み移植を希望している人が二人いた。一人は貧しい家庭に生まれた少年で、もう一人は大富豪の夫人。病院は大富豪の夫人へ心臓を移植しようとするがアビーと仲間の医師は正当な移植待機者である少年への移植を強行する。手術は成功するのだが、アビーは医師生命を絶たれる事になり命の危険も迫り・・・というストーリーです。
発展途上国での臓器売買はすでに色々な作家が書いているけれど、充分愉しめました。この作家はプロットの巧さよりも人物造詣の巧さが際立っているので物語に深みを感じます。主人公のアビーを含め脇役(悪役を含め)のキャラクターが良いので物語の暗さ、重さの割には読後感も良いです。それと題名を改題したのが良かったのかもですね。装丁と題名がマッチしていて衝動買いしました(笑)。

野沢尚氏の著作『リミット』を思い出させる内容です。(『リミット』は誘拐された子供を奪い返そうとする母親が主人公)あの作品を好きな方や最近のロビン・クック(医学物の大御所作家)に呆れている方にお勧めしたいです。

版元、角川へのぼやき・・・訳者は浅羽サヤ子さんです。この訳者の文体が気になって仕方が無いんですよね。例えば『何す(る)んだ』『他のと一緒にはしとけない(しておけない)』『あたしがやるべき事全部やったか(”を”が無い)』『見てく(いorお が無い)必要(が)あるんですか?』・・・。全編に亘ってこんな感じで『〜が、〜を』が抜けた日本語で、外国人が話す日本語のようなのですよ。まるで管理人の日記のようじゃないですか?!。英語を日本語に直すのは英語が出来る方に限られるのは分かりますが、読者はお金を出して翻訳本を買っているワケですから、せめて(最低でも)日本語がまともな方の翻訳を望みます。この本がコージーミステリなら気にもならなかったと思います。ジャンルと訳者の相性ってあると思うんですがね。
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中間生命体
(LIFE SUPPORT)
角川書店 ハードカバー 初版1999年2月28日
あらすじ  ある静かな夜、一人の老人がER(緊急救命室)の女医トービィのもとへ運び込まれた。患者は錯乱していたが、彼女が別の危篤患者を処置しているすきに、ERから姿を消してしまう。その後同じ症状で運び込まれた患者を調べたトービィは、脳に共通の病症があることをつかむ。事件の核心に迫るトービィに、組織の魔の手が迫る…。

 
感想  前作より楽しめました。が、ニ作品とも似通ったストーリーです。前作も本作も、女医が主人公。そんでもってその女医が見て見ぬふりが出来ない性格の上に好奇心旺盛なワケですよ。おかしいと思った事をとことん嗅ぎ回るのですよね。それで事件に巻き込まれ、医師としての信頼を失いかけた上に、命さえ狙われるという・・・似ていますよね。似ているというかこれがこの作家のカラーなのかもですがね。
 ERに担ぎ込まれた不思議な病状を呈していた老人が忽然と姿を消す。その老人は金持ちが入る老人ホームに入所していたのだが、その老人ホームの他の入所者も同じ症状を呈し死亡。感染症か?と疑問を持った女医トービィが検死を行ったところ、老人はクロイツフェルト・ヤコブ病患者だった事を知る。そしてトービィに手を貸していた老人ホームの医師が射殺され・・・というストーリーです。今回のテーマは遺伝子操作によって作り出した究極の「延命装置」。普通の医療じゃなくて人為的に脳に手を加え若返りを図るという近未来に実際に起こりそうな事がネタになっているのですよね。メディカル・サスペンスを好んで読まれる方は、きっと未知の世界を覗く、知る事が楽しくて読まれるのだろうと思うのですが、この作家はそういう方にピッタリです。人物造詣も優れているし、薀蓄も分かりやすく書かれているので読み易い作家だと思います。100点満点じゃ無いけれど充分に楽しめる内容でした。
追記・・・2005年1月現在、在庫切れ状態です(入手不可)。文庫落ちするのかもですが、今の所、その予定も無さそうです。そして訳者は前作と一緒の方でした・・・。がるるる。
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外科医
(THE SURGEON)
文芸春秋社 文庫 初版2003年8月10日
あらすじ  生きた女性の腹を切開して子宮を摘出し、その後に喉を掻き切ってとどめを刺すという猟奇的というにも残忍すぎる手口。明らかに医学的な専門知識と技術を持った男だというので、犯人はマスコミに『外科医』とあだ名されるようになる。警察の捜査の結果、数年前にサヴァナで同様の事件が起きていた事が判明する。犯行の手口は酷似しているのだが、サヴァナの犯人は二年前に死亡。最後の被害者にして美貌の外科医コーデルに射殺されたのだ。ところが事件後ボストンに移り住んだコーデルを、なぜか『外科医』が付け狙いはじめる・・・。

 
感想  この作家は大きな一歩を踏み出したという感じがします。本作のジャンルは警察小説&医学サスペンス&サイコ サスペンスの融合でしょうか。今までの著作は純粋な医療サスペンスでしたが、今度は医者から見た視点だけではなくて警察官側から見た捜査状況も出てくるので、視点が広がり物語に深みとスピードが増しています。非常に愉しめました。医学サスペンスファンにもサイコサスペンス ファンにも楽しめる内容だと思います。テーマがレイプという重いものですが、思ったほど読後感が悪くないのはちょっとだけロマンスが含まれるからかもしれません。この手の作品にロマンスは要らないという方はダメかもですね。それと警察を登場させたのはネタに困る事が無いからかもですね。シリーズ化も出来そうだしね。
 殺人鬼を追う警察官なんてありふれたストーリーですが、本作は元医者が書いたミステリなので他の作品とはちょっと違うんですよね。狙われるコーデルは外科医なので、被害者を救命するシーンなんかが出てきて非常にリアルです。犯行がどれだけ残虐な手口なのかという描写は警察官の見た目、コーデルが見た医師としての目と、両方向から描写されていて、ぞくぞくするほど気持ちが悪い。あと、ちょっとだけ気になったのはヒロインが美人の医師で警察官は見た目の良い男という事。主人公が美男美女だなんてあまりにも都合が良すぎるけれど、準主人公の女性警察官を不細工で性格の悪い女にする事でとりあえずはバランスが取れている気がします。それとテーマのレイプについての描写が深いなと思いました。女性の目から見たレイプ被害者についての描写では、読んでいて苦しくなるほどでした。こういうのは著者が女性ならではといった感があります。それとジリアン・ホフマンやトマス・ハリス、パトリシア・コーンウェルが描く雰囲気を好まれる方に特にお勧めです。

追記・・・前二作とは版元が違います。なので訳者も違うのだよね。フフフ・・・。今度は安原和見さんです。今度の作品がとても気に入ったのは訳が変わった所為もあるのかもしれません♪。
管理人の個人的感想・・・ジリアン・ホフマンの処女作『報復』が売れていますよね。この『外科医』も負けていないと思うのですが、あちらほど売れていないのは題名の差という気がします。『外科医』が題名じゃ医者の話かと思いますよね。これ、改題したら売れると思うんだけどな〜。 作家名INDEXホームへ戻る





白い首の誘惑
(THE APPRENTICE)
文芸春秋社 文庫 初版2007年3月10日
あらすじ  猟奇連続殺人犯「外科医」を逮捕し、有能な女刑事としてボストン市警の仲間から一目置かれるリゾーリだが、「外科医」に殺されかけた恐怖の記憶からは立ち直れずにいた。そんななか「外科医」の再来かと思われる殺人事件が発生。なぜかFBI捜査官が捜査に口出しし、リゾーリとぶつかる。戦慄のロマンティック・サスペンス。

 
感想  前作『外科医』を読んで「これはシリーズ化するつもりだな?!』と思っていたのですが〜案の定、シリーズ化され、そんでもって無事邦訳された事を嬉しく思います(笑)。ただし、前作を読んだ時は、主人公だった女医&男性刑事がシリーズの主人公になるのだろうと想像したのですが、読みは外れてシリーズの主人公は女性刑事リゾーリの方で驚きました。
この作家、ロマンティック・サスペンスを書くと評されていますが、ロマンス味は薄いのですよね。それに、初期の作品は医学サスペンスって感じでしたが、この作品は普通のスリラーで、作家が成長というか変わっていっているのが見えて面白いです。
で〜感想。連続猟奇殺人犯『外科医』の再来を思わせる残忍な殺人事件が起こり、リゾーリは捜査の最前線に立つ。が・・・絶対に脱獄出来ないはずの重警備の刑務所から『外科医』が脱獄したという知らせが入り・・・という展開で、正直言ってストーリーはありふれています。ですが〜ただ単なる好みの問題だと思われますが、わたしはなぜかこの作家の人物像形が好きなんですよね〜(笑)。良くあるストーリー展開や、なぜか男女共に美男美女ばかりが出てくるうそ臭さも、人物像形の上手さで帳消しにしているって感じです。 次作も邦訳されるそうなので楽しみに待ちたいと思います。 作家名INDEXホームへ戻る 

聖なる罪びと
(THE SINNER)
文芸春秋社 文庫 初版2007年9月10日
あらすじ  ボストンの古い修道院で若い修道女が殺され、年老いた修道女も重症を負う。同じころ、別の場所で、手足を切られ顔の皮を剥がされた女性の射殺体が見つかる。最初は無関係に見えた二つの事件だったが、女性検死官アイルズと女性刑事リゾーリは、意外な共通点を探し出す。それは予想をはるかに超えた巨悪に結びついていた……。

 
感想  修道院の礼拝堂で20才の修道女一人が惨殺され、一人が瀕死の重傷という事件が起きる。女性検視官アイルズと女性刑事リゾーリが事件を担当するが〜検視結果から意外な事実が判明。殺された修道女は出産直後だったのだ。男性との接触が全く無い修道女を妊娠させたのは誰?この妊娠が殺人事件の引き金となったのか?。同じ頃、空き家で惨殺された射殺体が見つかる。被害者の女性は死後に手足を切断され無残にも顔の皮を剥がれていた。一見、無関係に見えた二つの事件だが意外な共通項が・・・というストーリー展開です。
で、感想。
今回の主人公は前作にも登場していた検視官アイルズです。このシリーズ、巧いなぁ〜って思うのは1作ごとに主人公が代わる(というか視点が変わる)んですよね。前作の主人公リゾーリが何となく苦手だったワタクシからすると嬉しい展開でした(笑)。そんでもって、ちょっとネタバレですが、前作の主人公リゾーリが本作では妊娠してるんですよね。で、産もうか産むまいか悩んでいるわけなんですが(未婚なので)腹の子をどうしようか悩みつつ、出産直後に惨殺された修道女殺人事件の捜査を行うワケですよ。で、リゾーリはいつも以上に熱を入れて捜査に当たるんだけど、それを検察官の視点で描いているので、ヒステリックになったり不安定だったりするリゾーリの心境も受け入れやすいというか、読み易かったです。ただね・・・ただ一つ難点が。この作家、ロマンティック・ミステリ作家から出発したせいか、登場人物の男性陣を全て色男、ハンサムにしちゃうんですよね。リゾーリの相手も、検視官の元夫も、リゾーリの相棒も、修道院に出入りしていた神父も、ぜんいんぜんいんぜんいんハンサムだと言うんですよね。この世の中、美男美女ばかりだなんてあり得ませんっ(笑)。この、登場人物全てが美男美女ってのが、このシリーズのリアリティーを損なっている原因だと思うんですけど、他の読者はどうなんでしょうか???。(2007年9月28日読了)





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