リドリー・ピアスン名義 螺線上の殺意/深層海流/臓器狩り/異物混入/炎の記憶

ウェンデル・マコール名義手負いの狩人/禁猟区


リドリー ピアスン(RIDLEY PEARSON)作家略歴&著作の感想
作家名 リドリー ピアスン RIDLEY PEARSON(版元によってはピアソン)
別名ウェンデル マコール
生年月日 1953年
生誕地  アメリカ コネティカット州
処女作  『百の顔を持つスパイ』
デビュー年 1985年
公式サイト http://www.ridleypearson.com/

作家略歴

 1953年にコネティカット州リヴァーサイド市で生まれ育つ。カンザス大学に入学、医学部へ進む希望を持っていたが、親友が癌に冒され、人の命の儚さを知り、学業を放棄。死の恐怖に取り憑かれた友人の求めに応じてその故郷へ出掛け、彼と一緒にフォーク・ロックのバンドを組んで短い演奏旅行をする内に、ピアスンはますます音楽にのめり込み、後にはアルバムまで出すまでになる。が、経済的に苦しい上に、元々文筆業に興味があった彼は脚本家の兄に手伝いを頼まれた事を切っ掛けにサンバレーに移り住み、『Dr刑事クインシー』や『刑事コロンボ』流のテレビドラマ向けの脚本の習作に打ち込む。シナリオライターとしては日の目を浴びぬままミステリーのジャンルに転じ、著作に励む事ちょうど10年目に第一作『NEVER LOOK BACK』が刊行される。

彼は週に六日、一日12時間執筆しているそうな。

  早川書房『手負いの森』の作者メッセージから引用。

『クリス・クリックと同様(手負いの森の主人公の名)、私もはじめはロック・ミュージシャンで、10年以上に亘っておもにアメリカ東部の大学やナイトクラブで演奏する様々なバンドのために、作詞作曲をしてきました。そのうち、趣味で書いていた映画脚本の買い手を捜していた時に、ふとした切っ掛けで、1980年に最初の小説を書く事になりました。この小説は七回書き直し(原稿用紙三千枚!)結局、売れずじまいでした。そこで、二作目を書き始め、こちらは運良く出版にこぎつけました。1985年に出た『百の顔を持つスパイ』です。(中略)ウェンデル・マコールの名で書き始めたのは1986年です。ジョン・D・マクドナルドのトラヴィス・マッキーものが大好きなのと、”シリーズ主人公”を創造してみたい、というのが動機でした』だそうです。

ボールト部長刑事&ダフネ・マシューズ シリーズ 未訳の作品
THE PIED PIPER(1998)
THE FIRST VICTIM(1999)
MIDDLE OF NOWHERE(2000)
THE ART OF DECEPTION(2002)
THE BODY OF DAVID HAYES(2004)

5作品も未訳があります。どこぞの版元様、お願いです。翻訳して下さいましっ
リドリー・ピアスン名義 著作の感想
螺線上の殺意
(CHAIN OF EVIDENCE)
角川書店 文庫 初版1997年5月25日
あらすじ  アメリカ東部のハートフォードで、暑い夏の夜、一人の男が投身自殺した。現場に駆けつけたダート刑事は、三年前の自殺事件を思い出していた。殺人と確信しながら、上司ゼラーをかばうために自殺と断定さぜるを得なかった苦い過去…。しかし、今また新たな犠牲者が出た。彼らの血液からは、同じ血液異常が認められたのだ。ダートは極秘調査を開始した。

 
感想  読み進みながら『ロビン・クックみたいな(B級)医学ネタだったらどうしよう?!』と心配したのですが、杞憂に終わりました(笑)。テーマが遺伝子治療ではあるけれど、立派なミステリというかスリラーです。
 この作家、何が上手いって人物造詣でしょうね。主人公のダート刑事は幼い頃にアル中の母親から虐待を受けていて、その後遺症でまともな人間関係が築けない男なのですよね。その主人公がただ一人、心を許した元上司であるゼラーが、自殺と見せかけられた連続殺人事件に関係があると知り極秘捜査を始める主人公・・・というストーリーなのですが、ストーリーで読ませるというよりは人物像を追う内に物語が進むといった感じで読み易いです。ただ一つ、難があるとすれば結末、解決法でしょうか。ハッカーに任せて終わりってのはちょっと不満でした。 作家名INDEXホームへ戻る



深層海流
(UNDERCURRENTS)
新潮社 文庫 初版1991年9月25日
あらすじ  シアトル市内で八件の連続殺人事件が発生した。独身の若い女性ばかりで、目はテープで見開かされたまま、腹部を十字架の形に切り刻まれて。その残忍な手口から異常者の仕様と思われたが、捜査を嘲笑うかのように、新たな犠牲者が出て、当初の犯人のほかに模倣犯が加わった線も強まる。幾重にも隠された謎を解く鍵は、果たして何処に?。ボールト部長刑事&ダフネ・マシューズ シリーズ第1作。

 
感想  題名から、勝手に『冒険小説だろうか?』と思っていたのですが、実際は違いました(笑)。純粋な(?)サイコ・サスペンスで御座いました。
 場所はシアトル。半年に亘って猟奇殺人事件が8件起こっていた。狙われるのは若い女性で皆が一人住まいだった。恋人なりボーイフレンドがいる女性ばかりなのだが、一人の時を狙って襲われていた。被害者は全員全裸にされベッドの上で絞殺されている。胸には大きく十字架が斬り刻まれている。その内、手口は非常によく似ているのだが殺しの手口に差がある事件が二件起こる。模倣犯か?。連続猟奇殺人者が二人いるのだろうか?。犯人はどうやって独身女性たちを選び出しているのか手掛かりが掴めず、捜査が空転する中、目撃者が見つかる。目撃者は9番目の被害者の近所に住む少年で、日頃から女性の部屋を望遠鏡で覗き見していたのだが、偶然にも犯罪日当日に覗きをしていて犯人を目撃していたのだ。署内では捜査情報がマスコミに漏れるという不手際が続いていたのだが、ついに目撃者の少年がいる事が新聞にすっぱ抜かれてしまう。そして、目撃者の少年の両親が惨殺され、少年は拉致される・・・というストーリーです。で、感想。ピアスンは巧いですね(笑)。ストーリー展開が速くて読み易いっていうのもあるけど、子供の使い方が巧いのですよね。『螺旋上の殺意』『炎の記憶』でも、事件の鍵となる少年が作品に良い味を出していたのですが、本作でも少年の使い方が巧い。プロットの良さと人物造詣の良さが絡み合ってラストまで一気読み出来ました。このシリーズは物語の展開が速い作品を好まれる方にお薦めです。 作家名INDEXホームへ戻る



臓器狩り
(THE ANGEL MAKER)
新潮社 文庫 初版1995年10月1日
あらすじ  シアトル警察の部長刑事ルー・ボールトは、休職中の日々を心静かに送っていた。そんな彼のもとに、かつて彼を愛した心理学者ダフネ・マシューズが訪れる。彼女がボランティアを務める更生施設に、レイプされて電気ショックで記憶を消されたうえ、腎臓を摘出された家出少女がやってきたのだ。刑事魂を刺激されたボールトは、捜査に舞い戻る。ボールト部長刑事&ダフネ・マシューズ シリーズ第2作。

 
感想  今回の主人公は心理学者のダフネ・マシューズ。ダフネがボランティア活動をしている、若い家出人たちの為のシェルターを訪れた若い女性は、24時間以内の記憶を失くしていた。体には手術痕があり、内出血をしているのか顔色は真っ青。杜撰な手術痕は腎臓を摘出されていた所為だったのだ。犯罪の匂いを嗅ぎ付けたダフネは郡の検視官に相談を持ち掛ける。すると、路上で死亡した家出人の過去の解剖例の中にも、類似の手術中の癖が認められる例が三件あった。高値で売れる『臓器』を狩っている人物がいる事を確信するダフネ。休職中のボールト部長刑事を引っ張り出し、密かに捜査活動が始まる。犠牲者に共通する点は何か?手術の傷痕、縫合法を手掛かりに捜査を進めていく捜査陣はある手掛かりを掴む。犠牲者の血液中から、人間には通常使用されない動物用の麻酔薬ケタミンが検出されたのだ・・・というストーリーです。  綿密に調べ上げて書き上げられたのだろうなぁと思わせるほど、作品の出来が良い、というかプロットに瑕がない作品です。事件の鍵となる動物用の麻酔薬ケタミンは、日本でも麻薬扱いされたりしている薬品なので、身近な薬品だし(犬猫の避妊手術によく使われているので)事件全体が有り得そうな話で恐ろしさが倍増です。一つ残念な事があるのですよね。これ、発表年度は1993年なのですよ。で、私が読んでいるのは2006年。この作品を発表当時に読んでいたならば、五倍は愉しめただろうなと残念です。今、臓器移植をネタに使う作家は山ほどいるし、邦訳された作品も多いので(特に、私自身が臓器提供に興味があり、自分でもドナーカードを携帯しているので、臓器移植についてのミステリを数多く読んでいる)他の同じ路線のミステリを読む前にこの作品に出逢いたかったなぁと残念でなりません。
この物語は他のシリーズ作品と違って、純然たる医学サスペンスです。それと、犯人が早い段階で読者に分かるので(というか、最初から読者には犯人が分かるので)、犯人探しを好まれる方には不向きかもしれません。 作家名INDEXホームへ戻る



異物混入
(NO WITNESSES)
角川書店 文庫 初版1999年11月25日
あらすじ  アドラー食品社長の元に脅迫状が届く。社長が自殺するか、会社が倒産しなければ、罪なき人を殺すというのだ。会社側は半信半疑だったものの、毒入り製品を食べたと思われる犠牲者が出たことから、シアトル市警のボールトとダフネが極秘捜査に乗り出す。手がかりなし。動機も謎。捜査は初めから手詰まりだった。そんな中、犯人から金銭の要求が加わる。毎夜、キャッシュカードで金が引き出される一方、犠牲者は確実に増え続けてゆく。警察の張り込みは常に後手にまわり、犯人の姿を見た者は誰もいない…動機は怨恨なのか、金なのか。

 
感想  日本でも実際にあった事件『グリコ、森永脅迫事件』に似たようなストーリーです。とある大企業(食品会社)に脅迫状が送り続けられていたのだけれど、企業側は『本気じゃないだろう』とこれを無視する。が、原因不明の食中毒患者が二名出たとの報道を見て『ひょっとして、あの脅迫状は本物だったのでは?』と恐れを抱いた企業が警察へ相談を持ちかけた事から事件は発覚し・・・というストーリーです。缶詰のチキンスープにコレラ菌が混入されていて、それを食べた少年が命を落とす事から事件が発覚するのだけれど、これだけに終わらないのですよね。コレラ菌の次に混入された異物は、ストリキニーネ。それも子供が食べるお菓子に入れられているので、死者は子供なワケですよ。捜査するボールト刑事が子供の遺体を見て涙するシーンにはこちらまでホロリと来てしまいました。この主人公、いつも死者に感情移入してしまって、苦しむのですよね。読んでいるこちらも一緒に感情移入してしまいます。
毎度、思うのですがピアスンの描く世界は実際に起こりうる事件で(過去に起こっている)発表年度からだいぶ遅れて読む私にはストーリーが在り来たりに見えるのですよね。ですが、ストーリーに新鮮さが無くとも、このシリーズは手放しで楽しめるんだよね。不思議です。きっと、人物造詣の細やかさだけで読めているのでしょうね。 作家名INDEXホームへ戻る



炎の記憶
(BEYOND RECOGNITION)
角川書店 文庫 初版2002年5月25日
あらすじ  シアトルの街を、連続放火事件が襲う。天を貫くような爆発と、極度に高温の炎。この異常な火災に、ボールト刑事はもちろん、火災調査官たちもなす術がない。手口が高度なうえに、手掛かりが全て焼き尽くされてしまっているのだ。捜査が空転する中、容疑者とおぼしき男を目撃したという少年が現れた。継父に虐待されつづけている孤独な十二歳の少年のふとしたいたずら心が、容疑者を追い詰める。だが逆に少年は、男に身元を知られてしまう…。唯一のこの小さな目撃者を、凶悪犯から守り切れるのか!?。ボールト部長刑事&ダフネ・マシューズ シリーズ第4作。

 
感想  シアトルの街で連続放火事件が起こるが、狙われるのは離婚歴のある子持ちの独身女性だけ。骨さえも残らぬほどの『異常な高温』は何を意味するのか?。出火原因さえ掴めぬまま犠牲者だけが増え続けるのだが、捜査が空転する中、目撃者と思われる少年が現れ・・・というストーリーです。で、感想ですがこのシリーズ、良いですよ♥。短い章立てで走るように進んで行く物語にはスピード感があります。それとピアスンの特徴でもあるんだけど、人物造詣が良いですね〜。仕事に没頭するあまりに家庭が崩壊寸前のボールト部長刑事、その部長刑事に恋心を抱くダフネ警部補(心理学者)の絡みだけでも面白いのですが、目撃者の少年が良い味を出しているのですよね。この少年、母親が突然失踪し、継父に育てられているのですが・・・虐待を受けているのですよ。で、この薄幸の少年が信愛する近所の女性の歓心を買おうとして事件に巻き込まれていくのですが、手に汗握る展開の連続なのですよ〜。放火犯は誰なのか?という犯人探しと並行して描かれる『少年に未来はあるのか?』という伏線にドキドキいたしました。スザンヌ・チェイズンの『火災捜査官』を読んで面白いなぁって思われた方に特にお薦めです。
 2005年末現在、品切れという名の絶版のようです(涙。 作家名INDEXホームへ戻る


ウェンデル マコール名義 著作の感想
手負いの狩人
(DEAD AIM)
早川書房 文庫 初版1990年11月20日
あらすじ  一点の曇りもない空を渡り鳥が優雅に旋回する9月のある日、元ミュージシャンのクリックのもとに一人の女が舞い込んだ。5万ドルを持って失踪した夫を探してくれ、と訴える女の美しさに心惹かれて彼は仕事を引き受けた。時おなじくしてマリファナの密売をしていた男が狩猟事故で死亡したことを知り、警察に協力を求めるが保安官は腰を上げようとはしない。やがて事件の関係者が次々と謎の死を遂げ、真実を追うクリックにも魔手が迫る。

 
感想  作者ご本人は『マコール名義ではミステリを書き、ピアソン名義ではスリラー、サスペンスを書く』のだと仰っていますが、読んでみたら、ミステリというか正統派ハードボイルドだなって感じです。昔懐かしいハードボイルドの匂いがするのですよね。マクドナルド風でしょうか(笑)。
 五万ドルを持って失踪した旦那を探し出してくれという美女の依頼で、調査を始める主人公クリックが事件に巻き込まれていく・・・という在り来たりな内容ながら、なぜか愉しめるというか引きずり込まれる。不思議です。派手さは無いし、失踪人探しから大掛かりな犯罪を暴いてしまうっていうのもよくある話なのだけれど、それだけではない『なにか』があるのですよね。これ、説明するより読んで頂いた方が早いでしょう(笑)。ハードボイルドの舞台って大都会が似合うと思い込んでいたけれど、バードウォッチング好きな探偵もなかなか良いですぞ。あと、ハードボイルドな割には読後感が良いので、暗い探偵が出てくるハードボイルドは嫌いって方にお薦めです。
本書は絶版ですが、探し出して読む価値ありです。 作家名INDEXホームへ戻る



禁猟区
(AIM FOR THE HEART)
早川書房 文庫 初版1992年2月10日
あらすじ  二人で過ごしたあの夜。思い出すたび胸がしめつけられる。朝になると彼女はいなかった…。恋人が去って以来、元ミュージシャンのクリックはアイダホで失意の日々を送っていた。バードウォッチングや釣りに心の安らぎを求めながら。ところが飛行機の墜落事故が田舎町の静寂を破り、クリックを再び錯綜した事件の渦中に巻き込んでいった。

 
感想  アイダホの山荘で休暇を過ごすクリックの目前で、着陸しようとした小型飛行機が墜落炎上する。街中にある飛行場を移転させべきかどうかで議論が沸騰している最中の事故だった。消防活動に参加しようと駆けつけたクリックは、墜落寸前に機外に飛び出して死んだパイロットを見てしまうのだが、これが純然たる事故なのか?と首を捻る。突発的な事故ならパイロットが飛び降りる間があるのだろうかと疑問を抱いたのだ。同じ頃、市役所勤務の女性が忽然と姿を消す。その女性の姉キャンディから妹を捜してくれと頼まれたクリックと親友ライエルが聞き込みを始めると、妹バートは失踪直前に大金を手にしていた事が分かる。そして、クリックが『妹は殺されているのかもしれない』と思い始めた頃、姉のキャンディが惨殺され・・・というストーリーです。前作と同じ巻き込まれ型のありきたりな探偵小説なのですが、なぜか楽しめるのですよね(笑)。ピアスン名義の作品は展開が速いのが特徴だけど、ウェンデル名義の作品はちと違うのですよね。昔懐かしいハードボイルドの匂いがするのですよね。このレトロな作風が私の好みなのでしょう。空港の移転で大金を得ようとする悪人が〜〜〜なんていうストーリーはどうかと思うけれど、登場人物が好きなので読んでいるといった感じです。


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