ラスコの死角/罪の段階/子供の眼/最後の審判/サイレント・ゲーム/ダーク・レディ/野望への階段

リチャード・ノース・パタースン(Richard North Patterson)作家略歴&感想
    
作家名 R・N・パタースン(Richard North Patterson)
生年月日 1947年
生誕地  アメリカ カリフォルニア州バークレー  
処女作  ラスコの死角(絶版)
デビュー年 1979年
公式サイト

作家紹介

1979年度にMWA新人賞を受賞した”ラスコの死角”が彼の著作との出会いとなった。
これが非常に面白くて虜になったのだ。
現役弁護士だった著者は”ウォーターゲート事件”を検察側弁護士として体験していて『ラスコの死角』は、それが元になったような内容だったのだ。
その後、日本でも邦訳され続けるが駄作の連発で、”ラスコ”に見たキレが無い。後で知ったのだがこの頃は売れっ子弁護士として活躍中で、夏休みなどの長い休暇を利用して書く二束のワラジだったそうな。 そして本業が忙しいので筆を折ることになったパタースン氏。(七年間、休止した)日本では、いつもの様に絶版の仲間入りを果たす事になる。 その後、この作家を忘れかけた頃再度日本での邦訳が始まる。前の版元はハヤカワ&扶桑社だったが今度は新潮から出てきたのだ。
小躍りして読んだが、これがまた”ラスコ”の切れが戻っているのだ。静かな描写・巧みな人物造形、張り巡らされた伏線などラスコを超える出来だった。
リーガルスリラー(法廷ミステリ)なのだが、探偵物と言っても良い内容だろう。
勿論、法廷シーンはお手の物だし、それ以外の描写も格段に巧い。リーガル物の人気作家S・トゥロー氏より非常に読み易いし巧いと個人的には思っている。 2002年、2003年の”コノミス”や”文春TOP10”にもランクインするほどの人気となり非常に喜ばしい。
新潮から出ているシリーズの登場人物はラスコの死角に出てくる人物とかぶる。 シリーズとは言っても内容は全くの別物なので、続けて読む必要は感じないが、もし、知っていれば2倍・3倍楽しめるだろう。 これだけ、人気が出てきたのに復刊しないハヤカワ書房・・・。せめてラスコだけでも復刊してくれよ!。版元さん!。現在は弁護士業を辞め、作家に専念しておられるそうだ。だが、この作家を翻訳している某翻訳家はどうも仕事が遅いようだ。アメリカで上梓されている著書が一向に日本で上梓されない。頼むから急いでくれ!。読む前に死んだらどうするんだ?!。

  

著作リスト


シリーズ物(Series)
Christopher Paget シリーズ
1. The Lasko Tangent (1979)『ラスコの死角』
2. Degree of Guilt (1992)『罪の段階』
3. Eyes of a Child (1994)『子供の眼』
4. Conviction (2005)
The Lasko Tangent / Degree of Guilt (omnibus) (2005)

Tony Lord シリーズ
Private Screening (1985)『サイレント・スクリーン』
Silent Witness (1996)

Kerry Kilcannon シリーズ
1. No Safe Place (1998)
2. Protect and Defend (2000)
3. Balance of Power (2003)
シリーズ外・単発作品(Novels)
The Outside Man (1981)『アウトサイド・マン』
Escape the Night (1983)『ケアリ家の黒い遺産』
The Final Judgement (1995)『最後の審判』
aka Caroline Masters
Dark Lady (1999)『ダーク・レディ(2004)』
The Race (2007)『野望への階段(2008)』*2009年1月現在最新刊
Exile (2007)
Eclipse (2009)
The Spire (2009)
Omnibus
Degree of Guilt / The Final Judgment (2003)

ラスコの死角 早川書房 文庫 初版:昭和59年5月10日
あらすじ 事件は、ウィリアム・ラスコが経営するアメリカ屈指の大企業の株価操作に端を発する。ラスコは大統領の親しい友人であり、ローマ法王とも会食するほどの大物だが、実業家としての評判はかんばしくない。経済犯罪対策委員会の特別捜査官パジェットは、ひそかにラスコの身辺を洗い始めた。だが、その矢先に情報提供者の経理部長が、パジェットの目の前で何者かにひき逃げされてしまった。しかも、被害者の残したメモを頼りに調査を続けるパジェットまで命を狙われ始めたのだ!株価操作、殺人、謎のメモと政治の壁に守られたラスコを結ぶ糸を手繰る。 

 
感想 ウォーターゲート事件を連想させられる内容だ。それもそのはず著者は当時、大統領の犯罪を追求する検察官の下で実際に働いていたのだ。(弁護士としてもかなりの腕らしい・・) まるで、ノンフィクションを読んでいるような現実感、緊迫感を味わえる。作品に関しては一言の文句も無い。身悶えしながら読み進んだのだ。 静かな出だしから最後のクライマックスまで、鷲づかみにされる事請合いだ。抑制の効いた文体、会話、細部まで想像できるほどの描写、人物造形 どれをとっても一級品。 しかしながら、この作品は絶版になっている・・・。(早川のばかやろぉー)著者が弁護士の仕事が忙しくて7年間、筆を折っていたからだろうか?。この著作に登場する人物が、そっくりそのまま出てくるシリーズ本が、新潮社から現在出版されている!(でかした!!!!版元!!!) もちろん、最高の出来であるシリーズ本をもっと楽しむ為には、図書館や古本屋でこの本を探して欲しい!。
チャンドラー、ロス・マクドナルドの後継者と呼ばれた作家なのだよ。ファンの方!是非読んでみて欲しい。
この作品でMWA新人賞も受賞している。これが処女作だなんて驚くだろう。
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罪の段階 新潮社 ハードカバー初版1995年10月
あらすじ 弁護士クリスにテレビ・インタビュアーのメアリから電話が入った。有名作家からレイプされそうになり、誤って 射殺したというのだ。かつてクリスと関係を持ったメアリは、その後、息子カーロをもうけたが、別れて長い間没交渉だった。 女性弁護士テリーザとともにクリスは正当防衛の線で弁護を引きうけるが、事件には多くの秘密が隠されていた。 全米を沸かせた法廷ミステリーの最高傑作。
 
感想 クリスもメアリも前作「ラスコの死角」の登場人物です。で、この作品には二人の過去が大きく係わってくるのだよね。 勿論、前作を読んでいなくても楽しめるのですが、探して読みたくなるでしょう。だって、本作が最高に面白いんですよ。かつての恋人から弁護の依頼を受け、 動き出すクリスですが、弁護する為には自分自身と息子の私生活まで暴かなければならない。裁判の過程で自分が弁護しているメアリの不審な行動が見え隠れし、本当に無罪なのかと悩むクリス。ジャンルは法廷物ですが、親子の絆や男女の葛藤など細やかに書き込まれています。 裁判で登場するキャロラインは後の「子供の眼」と「最後の審判」にも登場するし、テリは「子供の眼」に出てくるので、パタースン作品の要とも言える作品だ。
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子供の眼 新潮社 ハードカバー初版2000年9月
あらすじ 複雑な家庭に育ち、生活力のない夫と幼い娘を養うために苦闘してきたテリ。ようやく弁護士の資格を取得し離婚を望む彼女とその恋人である辣腕弁護士クリスに卑劣ないやがらせを仕掛けてきた夫が、不審な死を遂げた。検察はクリスを逮捕、公判が始まるが、重要な事実を隠しているらしい彼の態度にテリやクリスの息子カールの心にはしだいに不信感が芽生えはじめる。
 
感想 ストーリーは至って単純なのですが、読ませます。巧いです。陪審員制に興味を持たれている方には特にお勧めです。ダメ夫と離婚し、子供の養育権を勝ち取ろうとするテリ。最低の旦那と別れようと裁判中に突然、夫が殺害される。で、よくある話だが新たなる恋人クリスが真犯人として逮捕されてしまう。そこで前作『罪の段階』で裁判官だったキャロラインがクリスの弁護士として辣腕を振るうというストーリーです。 この作家の特徴ですが、ただの法廷物で終らせないんですよね。まず人物造形が良い、プロットが良い、どんでん返しもある、辛い内容も含まれるが読後感が良いんですよ。主人公のクリス・パジェットは早川から出ていた「ラスコの死角」に出ていた人物なので、もし手に入ったらラスコから読んで欲しい。もし、無理ならせめて前作の「罪の段階」を読んでからの方が数倍楽しめると思います。
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最後の審判
(The Final Judgement)
新潮社 ハードカバー初版2002年9月
あらすじ ある夏の夜、22歳のブレットはデート先の湖畔で酒とマリファナに酔い、気がつくと恋人の刺殺体を目の前にしていた。23年ぶりに帰郷した弁護士キャロライン・マスターズは、姪の殺人容疑を晴らそうとするが、家族へのある疑惑が彼女を待ち受けていた――。『罪の段階』『子供の眼』に続く、法廷サスペンス三部作の完結編。

 
感想 この作品が三部作の完結編になります。が、実際は早川書房から出ていた『ラスコの死角』を含む四部作といえます。今回の主人公はキャロライン・マスターズ。『子供の目』や『罪の段階』では脇役だった人物です。彼女は20数年前に故郷を捨て、家族を捨て、法律家への道を歩み続けてきたわけですが、その彼女の過去が今回の事件に密接に絡み合います。自分の姪が殺人事件に巻き込まれ裁判にかけられるのですが、弁護するキャロラインの敏腕ぶりは相変わらず読ませます。息詰まる法廷劇と絡み合う、キャロラインの家族関係に身悶えします。パタースンはストーリーテラーだけれど、それだけで終わらないんですよね。相変わらずどんでん返しもあるし堪能した作品です。 作家名INDEXホームへ戻る 
単発作品(シリーズ外)
サイレント・ゲーム
(SILENT WITNESS)
新潮社 ハードカバー 初版2003年3月25日
あらすじ  辣腕弁護士トニーのもとに持ち込まれた依頼は、高校時代の親友でスポーツ競技のライバルでもあったサムの弁護だった。いまやレイクシティ高校の教頭となっているサムは、教え子の女子高生マーシーと関係を持った挙句、殺害した疑いをかけられていたのだ。トニーの脳裏に甦ったのは、彼自身が28年前に恋人アリスンを殺したとして、無実の罪を着せられ、苦悩した悪夢のような日々。苦い思いを噛み締めつつ、故郷の町に舞い戻ったトニーは、絶対不利な裁判を水際立った弁護で強引に評決不能へと持ち込もうとする。だが、裁判が進行するにつれ、パンドラの匣のように封印された彼自身の過去の悪夢が事件に重く圧し掛かってくるのだった。

 
感想  この作品を発売当時に読んでいたのですが、この感想ページには載せていなかったのですよね。で、なぜ、読み直したのかというと北海道の友人Nさんから『とにかく、登場人物の心の動きや葛藤が本当に巧に表現されていて、思わず入り込んでしまう。人物像を巧く表現出来ない作者が同じように試みたとしたら、多分、作品自体を壊してしまいかねない所を、この作者は実に巧く読み手を(私を)ひきつけてしまう。凄く淡々と語られているんです。読んでいて、終盤はもしかしてこんな風になるのでは?なんて勘ぐれるほどストーリー的にはもしかしたら、何処にでもある話なのかもしれない。でも、終盤は本を持つ手が冷たくなるほど、入り込んでいました。飽きさせないですよね?(中略)法廷シーンも臨場感があり、気がつくと私は13人目の陪審員になっていました。
私が一番感動したのは、主人公トニー.ロードの心の動きです。友人を弁護する自分自身が、仕事を全うするだけの弁護士になりきれない歯がゆさやどこかで、依頼人を100%信じ切れない心の動き。友人を助けたいのか、友人の妻を助けたいのか分からなくなる自分自身。そして、昔の自分自身に起きたことに引き戻される瞬間。本当に、見事に書かれていたと思います。これは、私の年間トップ1になる作品です(年間って、今まだ1月です(笑))本当に、良い本に巡り会えたときは、幸せ〜〜〜〜〜って声を大にして叫びたくなる! そして、誰かに教えてあげたくなりますよね!!』という、巧い感想メールを戴いたからなのです(笑)。
まさにその通りの作品なのですよね。ひょっとして・・・と物語の先が見えてしまうような展開にも関わらず、手に汗握り読ませる筆力はさすがです(笑)。

Nさま!勝手に引用してごめんね(笑)。私一人が読むには勿体無い書評でしたので、使わせて頂きました♥。 作家名INDEXホームへ戻る



ダーク・レディ
(DARK LADY)
新潮文庫 上下巻 文庫初版:2004年9月1日
あらすじ 中西部の都市スティールトンでは、球場建設の是非を焦点に、現職市長と郡検事ブライトとの熾烈な市長選が繰り広げられていた。法廷で無敗を誇り、“ダーク・レディ”の異名をとる検事補ステラはブライトの命を受けて、性倒錯と麻薬のからむ変死事件を手がける。だが、被害者の一人は、かつての恋人ノヴァクだった――。

 
感想 私はこの作家の大ファンなので、本作の感想を書くのを迷ったけど書いてしまう。面白いんだけどいつものパタースンの作品とは趣が違うのだよねー。パタースンの作品は初期作品の頃から当たり外れがあると思っていたのだが・・・・以下自粛。
と言ってもパタースンの他作品を未読の方には愉しめる内容かもしれない。私はパタースンの描くリーガル物を期待しているので、扱われている題材自体が愉しめなかったのだ。汚職とかマフィアとかが出てくる話だとは思いもしなかったんだよね。人物造詣の巧さやプロットの複雑さは健在で、最初からリーガル物だと思わずに読んだなら愉しめたのかもだなぁ。惜しい事をした。
訳者の東江さんは相変わらず巧い。パタースン自身が巧いのか訳者が巧いのかは分からないが、文章の美しさはいつもの通りで大満足。 作家名INDEXホームへ戻る



野望への階段
(The Race)
PHP研究所 ハードカバー 初版2009年1月9日
あらすじ  オハイオ州選出上院議員コーリー・グレイスは、あるテロ事件をきっかけに、共和党の熾烈な大統領候補争いに参戦することになった。相手は、主流派が推す“本命”の院内総務と、キリスト教右派層を率いる超大物伝道師。湾岸戦争の英雄パイロットであるグレイスは、党の綱領より自らの良心に沿ったマニフェストを掲げ、その頑固なまでの無党派性ゆえに、気まぐれな反逆児のレッテルを貼られる。しかし、彼の心の奥底には、パイロット時代の悲劇的な判断ミスがトラウマとして横たわっていた…。

 
感想  これをミステリの範疇に入れていいのか正直悩みますが、限りなく普通小説に近いとはいえ最高の出来だったので、ジャンルなんか何だっていいやね(笑)。もう、久々にパタースンの凄さを見せつけられたって感じです。元々パタースンって大変に文章の上手い描写の巧い作家なんですが、訳者の東江さんの日本語の美しさ・語彙の豊富さが相乗効果となり、読みながら手が震えるほどの感動を覚えました。文中の数行で感動してしまい、味わって噛み締める時間が必要で先へ読み進めないってのは近年稀に見ることでした。ストーリーは至って単純で・・・
 元空軍のパイロットで大尉だったコーリー・グレイスは、湾岸戦争でイラクの将軍が乗った戦闘機を打ち落とすという快挙を成し遂げるのだが、飛行機は墜落し敵国の捕虜となり拷問を受けたという過去を持つ。グレイスはその功績で大統領に表彰された英雄で、それがきっかけで政治の世界に足を踏み入れたのだが、あるテロ事件を引き金に共和党の熾烈な大統領候補戦に出馬することに。ライバルは勝つためには何だってやる本命マロッタと、キリスト教系のテレビ伝道師クリスティ。大統領候補争いに勝てるのか否か?・・・という展開です。もうね、文章の美しさもですが描かれている内容の濃さには驚きました。今まで米の大領領選挙戦の盛り上がりを見ていて、その盛り上がりが何なのか根本を理解しないままだったので本作に描かれている内容を読んで『ほーー』『へーー』の連続で自分が如何に無知だったか思い知った次第でして(汗)。票田を握るのはキリスト教徒の右派だというのは知っていたんですが、その理由やらなんやら、なぜ有色人種が大統領になれなかったのかのその本質やら〜まぁ、たった400ページの物語に全てを詰め込んじゃう作者の手腕と筆力には驚きます。無駄に長くすれば誰にでも書き込めるんでしょうけど、これだけのスピード感を持ったままページ数を抑え、内容が濃いってのは凄いですよ。読後感も良いし文句なしの出来で手放しで褒め称えます。読まずに死ねない作品でした(笑)。
(でね・・・好奇心から本国での未訳はどれくらいあるんだろうか?と検索してみて↑の著作リストを載せてみたんですが・・・。あまりにも未訳が多すぎませんかね?。そんでもってショックなのは、クリス&テリのシリーズは3部作じゃなく4部作で、2作品も訳されてないじゃないですか?!。(最後の審判は番外編扱いだし!!!)東江さんは大好きな訳者さんで代わりの人なんて思いつかないほどファンやけども、訳者さんが忙しくて出版が遅れているのなら・・・代わりの方でも我慢するけん、至急 読ませてください〜)


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