感想 |
処女作とは思えないほど破綻のない(?)物語でした。冒頭から陰惨なシーンの連続だったので、そういうのがウリなのかなと思いつつ読んでいたんですけど、途中から様相が変わって行くのですよね。で、物語はというと・・・。
舞台はストックホルム。物語は、一家惨殺事件で始まる。まず、父親がめった刺しにされた上、切断された状態でサッカーの運動場で見つかる。現場に到着した二人組の警官のうち一人が具合を悪くするほど凄惨な現場だった。被害者の住所氏名がすぐに知れたので被害者の死を家族に知らせに行く事になったのだが相棒がショックを受けているので残りの警官が一人で向かう事に。で、彼は一人で行った事を悔やむ事になるのだが・・・被害者宅に着いた警官が呼び鈴を鳴らすが応答が無い。で、胸騒ぎを感じた警官が裏へ周り、懐中電灯で屋内を覗きこんだなら・・・血血血血血だったのだ・・・といった幕開けです。現場は血の海で、刺された個所を数える事も出来ないくらいメッタ刺しにされた母親、全身を切られた上に上半身と下半身を切り離された女の子がいるわけですよ。もちろん、見ただけで死んでいると分る状態なんですよね。そして、もう一人 血の海の中で血塗れでこと切れていた少年。がね、少年は足の裏、顔、頭、背中、胸、腹、足と、およそ切りつけられる個所は全て刺されていたにもかかわらずまだ生きていたのですよね。そんで、彼は病院へ担ぎ込まれるのだけれどもちろん意識は無いわけです。だもんで、この時点で手掛かりは一切なしなんだけど事件はこれで終わらんわけです。犯人は一家を強い意志を持って皆殺しにしようとしたのは明らかなんだけど、家族にはもう一人長女がいたのですよね。長女はすでに独立して家を出ているんだけど、警察が連絡を取ろうにも取られんわけです。ひょっとして、長女も狙われているやもしれんわけよ。
だもんで、国家警察のヨーナ・リンナ警部は催眠療法で生き残った息子から犯人の情報を得ようとするのだけど、これが大きな事件の引き金になって行くのです。ここまでが僅か50ページ程度に収められているので、かなり展開は早い方だと思われるのですが、驚く事に上巻のわりと早い段階で犯人が知れてしまうのですよね。で、その後。物語は不思議な方向へ動き出し、バルク医師の家族に危険が迫るわけです。一家惨殺事件の犯人の捜査と同時に、バルク医師の家族に迫る危険とが同時進行で描かれていて、まるでタイムリミットサスペンスを読んでいるかのようなハラハラドキドキ感を味わいました。凄惨なシーンをあえて冒頭に持って行き読者を惹きつけておいてから、物語を読者が想像する方向外へ引っ張って行く作者の手腕に驚きました。そして、文章が(描写が)良いんですよね。情景が頭にわーーーっと拡がるとでも言えば良いのか、読みながら映像が浮かびっぱなしでした。それと最後に、訳者はヘレンハルメ・美穂さんなので安心して読めますぞ。お奨めです。
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