ワイルド・ソウル/ゆりかごで眠れ

垣根涼介作家紹介&作品紹介
作家名 垣根涼介
生年月日 1966年
生誕地  長崎県
処女作  午前三時のルースター
デビュー年 2000年

ワイルド・ソウル 幻冬舎 ハードカバー初版2003年8月25日
あらすじ 高度成長期が始まった1961年、23歳の若者・衛藤は、外務省移民課の推奨するアマゾン移民の一員として、ブラジルの赤い大地に降り立つ。開墾済みの広い土地で誰しもが豊かな生活を営むことができると聞かされてきた衛藤たちだが、彼らが長旅に末に眼にしたのは、アマゾンの奥地、人を受け入れない熱帯雨林の未開の地だった

 
感想  私がポッと出の新人のハードカバーを購入するなんて滅多に無いのにこの本を読んだのは、友人某Pさんのお勧めだったからだ。(それに「サントリーミステリー大賞」を受賞しているなんて聞いていたら、いくら某Pさんのお勧めでも読まなかったかもしれない。サントリー賞には大分痛い目に遭った)本作は大薮賞をとったと聞いていたのでハードボイルドかと思っていたら純然たるエンタメ小説だった。某Pさんが手放しで褒めないのであまり期待しないで読んだのが良かったのか非常に楽しめた。ここから先はかなり突っ込んで書いているので未読の方はご注意ください。
 舞台はブラジル・コロンビア、そして日本。作品は過去と現在を行き来しつつ進んでいく。冒頭は外務省に、そして日本国に騙されて南米に送り込まれた移民団の方々が舐めた辛酸がこれでもかと描かれている。前半部の主人公(?)衛藤は家族を風土病で亡くし自らも死を選ぼうとするが野口という人物に助けられる。死を思い止まった衛藤は成功し、再びここに戻ると約束しアマゾンの奥地を脱出する。そして知る現実の厳しさ。現実の厳しさと同時に日本は、そして外務省は自分たち移民団を南米に捨てたという現実をも知る衛藤。そして10年後、衛藤がささやかながらも成功しアマゾンの奥地へ戻った時には全ての人間は死に絶えていた。たった一人を残して・・・。生き残りは命の恩人野口の一粒種だったのだが、彼は1年半もの間一人で過ごしていた為に言葉さえも不明瞭でまるで野生児。そして遠いコロンビアで、もう一人生き残っている子供がいた。衛藤と同じ移民船に乗ってきた松尾の子供だ。松尾一家もアマゾンから脱出していたのだが両親は殺されていた。この「日本に騙されて人生を狂わされた人」が日本に舞い戻り国家に復讐を・・・というストーリーだ。
本作の特徴は「棄民」という重いテーマを材にしている割には非常に明るい事だろうか。生き残った衛藤の子供ケイはアマゾンで育ち、ブラジル人気質の為、純粋な日本人であるはずなのに底抜けに明るいのだよね。このケイなる人物の人物造詣だけでここまで楽しいエンタメに仕上がったのではないかと思う。唯一つ残念だったのは登場人物たちが日本に帰ってきた事かも知れない。ブラジルを舞台にしたままでも復讐劇に仕上がったのではないかと思うからだ。その理由は作品の後半部の復讐劇の詰めが甘かったからなのだが、エンタメ小説なのだからこれもありなのかな?。個人的な感想だがブラジルでの移民団の描写をもっとしつこく書いて欲しかった。でも本作が三作目との事なので新人でこれだけ楽しませてくれれば御の字なのかもだな。
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ゆりかごで眠れ
中央公論新社 ハードカバー 初版2006年4月10日
あらすじ  凄絶な少年時代を過ごしながらも、コロンビア・マフィアのボスにまで上りつめた日系二世のリキ・コバヤシ・ガルシア。この日常に馴染めずも生きる、元刑事・若槻妙子。リキなしには生きていけない元浮浪児・カーサ。組織の中で歪み、すり潰されていく刑事・武田。ラティーノの殺し屋・パパリトとパト―。

 
感想  日系二世のリキ・コバヤシは幼い頃、反政府ゲリラに両親を惨殺され孤児となるのだが、日系移民の村近くに住んでいた2人の子持ちの女性ベロニカに引き取られる。貧乏のどん底で親子三人暮らしていくのだが、ベロニカの息子ホルヘはギャング団の頭となり、コカの販売や殺しの請負に手を染め生活は上向いてくるのだが、反目するギャング団がホルヘとベロニカを惨殺。 生き残ったリキはベロニカとホルヘの仇を討つため、ギャング団のTOPに就き、いつしかリキは〜〜〜というストーリー展開です。で、感想ですが〜最後の〆が惜しいです(笑)。なんかね、急いだって気がするのですよね。この作家、子供の使い方は巧いし手馴れた感じもあるんだけど、いつも何かが後ちょっとだけ足りない気がする〜。駄作じゃないけど秀作じゃない、普通の作品という印象です。





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