感想 |
私がポッと出の新人のハードカバーを購入するなんて滅多に無いのにこの本を読んだのは、友人某Pさんのお勧めだったからだ。(それに「サントリーミステリー大賞」を受賞しているなんて聞いていたら、いくら某Pさんのお勧めでも読まなかったかもしれない。サントリー賞には大分痛い目に遭った)本作は大薮賞をとったと聞いていたのでハードボイルドかと思っていたら純然たるエンタメ小説だった。某Pさんが手放しで褒めないのであまり期待しないで読んだのが良かったのか非常に楽しめた。ここから先はかなり突っ込んで書いているので未読の方はご注意ください。
舞台はブラジル・コロンビア、そして日本。作品は過去と現在を行き来しつつ進んでいく。冒頭は外務省に、そして日本国に騙されて南米に送り込まれた移民団の方々が舐めた辛酸がこれでもかと描かれている。前半部の主人公(?)衛藤は家族を風土病で亡くし自らも死を選ぼうとするが野口という人物に助けられる。死を思い止まった衛藤は成功し、再びここに戻ると約束しアマゾンの奥地を脱出する。そして知る現実の厳しさ。現実の厳しさと同時に日本は、そして外務省は自分たち移民団を南米に捨てたという現実をも知る衛藤。そして10年後、衛藤がささやかながらも成功しアマゾンの奥地へ戻った時には全ての人間は死に絶えていた。たった一人を残して・・・。生き残りは命の恩人野口の一粒種だったのだが、彼は1年半もの間一人で過ごしていた為に言葉さえも不明瞭でまるで野生児。そして遠いコロンビアで、もう一人生き残っている子供がいた。衛藤と同じ移民船に乗ってきた松尾の子供だ。松尾一家もアマゾンから脱出していたのだが両親は殺されていた。この「日本に騙されて人生を狂わされた人」が日本に舞い戻り国家に復讐を・・・というストーリーだ。
本作の特徴は「棄民」という重いテーマを材にしている割には非常に明るい事だろうか。生き残った衛藤の子供ケイはアマゾンで育ち、ブラジル人気質の為、純粋な日本人であるはずなのに底抜けに明るいのだよね。このケイなる人物の人物造詣だけでここまで楽しいエンタメに仕上がったのではないかと思う。唯一つ残念だったのは登場人物たちが日本に帰ってきた事かも知れない。ブラジルを舞台にしたままでも復讐劇に仕上がったのではないかと思うからだ。その理由は作品の後半部の復讐劇の詰めが甘かったからなのだが、エンタメ小説なのだからこれもありなのかな?。個人的な感想だがブラジルでの移民団の描写をもっとしつこく書いて欲しかった。でも本作が三作目との事なので新人でこれだけ楽しませてくれれば御の字なのかもだな。

|