静かなる天使の叫び


R・J・エロリー(Roger Jon Ellory)作家略歴&著作の感想
作家名 ロジャー・ジョン・エロリー(Roger Jon Ellory)
生年月日 1965年6月20日
生誕地  イングランド バーミンガム
処女作  『Candlemoth』
デビュー年 2003年
公式サイト http://www.rogerjonellory.com/

作家略歴

 1965年生まれ。父親は不在、母親とは7歳のときに死別し、祖母に育てられる。17歳のとき密猟で逮捕され服役。出所後はグラフィック・デザインや写真、音楽に身を投じる。コナン・ドイルやスティーヴン・キングに魅せられ、1987年から小説を書き始める。これまでに英国推理作家協会(CWA)のスティール・ダガー賞に2回ノミネートされている。イギリス在住。
Novels 著作リスト
Candlemoth (2003)
Ghostheart (2004)
A Quiet Vendetta (2005)
City Of Lies (2006)
A Quiet Belief In Angels (2007)『静かなる天使の叫び(集英社文庫)』
A Simple Act of Violence (2008)
The Anniversary Man (2009)


静かなる天使の叫び
(A Quiet Belief In Angels)
集英社文庫上下巻 初版2009年6月30日
あらすじ  WW2前夜のアメリカ南部の田舎町オーガスタフォールズ。父親を亡くし、母親と二人暮らしの少年ジョゼフの周囲で、少女が次々と惨殺されて発見される。犯人がつかまらないまま時間だけが過ぎ・・・。戦争の影がドイツ系の良き隣人一家を暗く覆い、彼の母親もまた何かに捕らわれ、精神のバランスを崩していくなか、ジョゼフが見いだした救いとは―。

 
感想  推理小説を読み続けてきて○○年、これほど哀しくなる作品は滅多に無いなと思うほど、主人公が可哀そうになる作品でした。読み手が主人公に感情移入し、読むのが苦しくなるという事は、作者の腕が確かだと言えるのかもしれませんが、読み手を選ぶ作品だと思われます(笑)。だもんで、痛快な作品を好まれる方には不向きかもしれません。が、トマス・H・クックやトルーマン・カポーティの『冷血』のような普通小説っぽい作品が好みの方にはお勧め作です。で、物語はというと・・・
舞台はアメリカ南東部ジョージア州の田舎町オーガスタス。主人公のジョゼフ・カルヴィン・ヴォーンは1939年の6月に病で父親を失い母と二人で暮らしていた。そしてその年の初冬、ジョゼフと同じクラスの女の子が絞殺死体で見つかり、遺体には惨たらしい仕打ちが加えられていた。人が人に胸の悪くなるような残忍な仕打ちが出来るという現実は、11歳のジョゼフの心に大きな傷を残す。そして、小さな小さな田舎町の中で少女の惨殺事件は続いて行き・・・という展開です。物語はジョゼフの回想録というか自叙伝のような形で綴られているのですが、この少年が直面してきた苦難が尋常じゃないんですよね。父親を幼くして失くし母と二人の貧乏生活ってだけでも可哀そうなのに、このたった一人の肉親である母も、少女連続殺人事件を境に精神を病んで行き精神病院へ収容されてしまい、ジョセフは一人で生きていくことになるのですよね。そんでもって、3人目に殺された少女の遺体の一部を、ジョセフが発見してしまったことから、町の人々はジョゼフが事件に関与しているのでは?という疑いを持ち始め、母親が正気を失ったのも、息子が犯人だと知ってしまったからではないかという噂まで流れ出し・・・。これ以上はネタバレになるので書けませんが、この純粋無垢なるがゆえに運命に翻弄される主人公に感情移入して、共に絶望感を味わうのは必至です。連続少女殺人事件が物語の主題ではあるけれど、ジョゼフという一人の男性の数奇な運命の物語と捉えたほうが取っ付き易いかもしれません。こんなに哀しいフィクションは続けては読みたくないけれども、この作家の作品を他にも読んでみたいなと思わせる巧さでした。

 海外物のミステリから撤退気味に見えた集英社から、本作や「氷姫」が立て続けに出版されているのが嬉しいですね。この調子で他の版元が出しそうに無い作品を邦訳して下さるのを楽しみにしています。



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