記憶なき殺人 (Mr.White's Confession) |
講談社 文庫 |
初版2000年9月15日 |
あらすじ |
MWA賞最優秀長篇賞受賞作。美貌のダンサーが絞殺された。捜査の途中で第二の美女殺人が。連続殺人の容疑で挙げられたホワイトは、曖昧な記憶のまま自白を強要され終身刑に。同僚の尋問に疑念を抱いたホーナー警部補は、ホワイトの日記を丹念に検分しだすと、恐るべき真相が…。
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感想 |
これ・・・評価が真っ二つに割れる作品だと思います。というのも本作はミステリじゃなくて、限りなく普通小説に近い作品なのですよね。謎解き重視の方やどんでん返しを重視される方は読まない方が賢明です。ワタクシは愉しく読了いたしましたが(笑)。あらすじには『恐るべき真相が・・・』と書かれていますが、そういう結末は迎えません。殺人事件が二件起き、行方不明の若い女性が二名出ますが〜サイコでもミステリでも無い物語です(笑)。それと版元は『傑作ハードボイルド』と謳っておりますが、ハードボイルドでもありませんので念のため。
主人公(?)のハーバートは35歳独身男性。彼は生まれつき、記憶と筋肉に障がいを持っているのですよね。歩く姿は不恰好な上、記憶障がいがあるので数日前に起きた事さえ覚えていられない。それが為に、彼は失う記憶を補う為に新聞のスクラップと克明な日記を記す事が趣味(日課?)になっている。それともう一つの趣味は写真撮影。ダンスホールのダンサー達を撮影するのがただ一つの楽しみの彼なのだが・・・そのダンスホールの女性が絞殺される。その現場付近では歩き方のおかしな男が目撃されていた。そして、もう一人ダンサーが殺されるのだが、彼女はハーバートが懇意にしていた女性で、最後に彼女と会っていたのはハーバートだったのだ。で、彼は警察に拘束されるが・・・という展開です。障がいを持った青年が犯人と目され不当逮捕されるなんて展開は在り来たりで、最初の100pくらいは『う〜〜〜ん、このまま退屈で終わるのか?』と怯えたのですが〜この作家、描写も人物造詣も小説作法もなかなか巧いのですよ。物語全体は三人称で淡々と描いておいて、障がいを持つこの青年の語り部分だけ、彼が書いた日記をそのまま載せるという手法を採っているので、その日記部分だけが一人称で描かれているのですよね。で、この一人称の語りを読んでいると『この男が犯人では有り得ない』という印象を読者に抱かせるわけです。この主人公の青年の人物像も寂しくて(?)良いのですが、この事件を捜査している中年刑事ホーナー警部補もまた良いのですよね〜。子供は行方不明、嫁は癌で死亡。一人で鬱々としているんだけど、ひょんなことから16歳の家出少女と出逢い、惹かれあっていくのですよね。ハーバートが事件に巻き込まれ、流されていく様とホーナー警部補が少女との出逢いによって再生されていく様(刹那的)が同時に描かれていて、この辺りの描写では胸が苦しくなるほどでした(笑)。これ以上、書くとネタバレになるので止めますが、ミステリは謎解きだけじゃないぞって方にだけお勧めです。
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