封印された悪夢/炎の裁き

フィリップ・マーゴリン(Phillip Margolin)作家略歴&作品紹介
作家名 フィリップ・マーゴリン(Phillip Margolin)
生年月日 不明
生誕地  アメリカ ニューヨーク生まれ
処女作  封印された悪夢(早川文庫)
デビュー年 1978年
公式サイト http://www.phillipmargolin.com/


フィリップ・マーゴリン(Phillip Margolin)作家略歴

ニューヨーク市生まれ。生年月日は正確には不明だが処女作を発表した年に34歳だったそうなので1944生まれだろう。ワシントンのアメリカン大学卒業後、二年間(1965〜1966)平和部隊のボランティアに参加した後、ニューヨーク大学で法律の学位を取得し1970年に卒業。1968年にDoreenさんと結婚し二人の子供さんがいる。
オレゴン州ポートランド市で弁護士業を営み、扱った十二件の死刑訴訟全てに勝訴したそうな。1972年から1996年まで弁護士業を続けたが1996年以降はフルタイムの作家となる。
子供の頃から読書が好きだったマーゴリンだがまさか作家になれるとは夢にも思わず、E・S・ガードナーのペリイ・メイスン物(弁護士が主人公)を読んで作家にではなく弁護士になろうと思ったらしい。好きな作家のことやプライベートな事についてはフィリップ・マーゴリン公式サイトに詳しく書かれているのでご覧下さい。

デビュー作の『封印された悪夢』(1978)はアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)最優秀ペーパーバック賞の候補となる。他に『氷の男』『黒い薔薇』『暗闇の囚人』『炎の裁き』等の作品が邦訳されている。2004年現在、本国で九作品を上梓している。(日本での邦訳作品は全て早川書房から)

余談・・・友人と共に映画のシナリオを書いた事があり、最初はシナリオのつもりで『黒い薔薇』を書き始めたそうな。マーゴリンの弁によると一番文学作品として優れているのが『封印された悪夢』で、書いていて一番楽しかったのが『黒い薔薇』、そしてプロットが一番しっかりしているのが『暗闇の囚人』だそうです。
実はこの作家の名前さえも知らなくて偶然手に取った『炎の裁き』でこの作家を知った。なので追々、追加していきたいと思っています。(2004/8/16)

封印された悪夢
(HEARTSTONE)
早川書房 文庫初版1996年10月20日
あらすじ 高校生のカップルが惨殺死体となって発見された。少年はナイフで滅多刺しにされ、少女は凌辱されたうえ絞殺されていた。シンドラー刑事は同級生とその兄の二人を犯人と確身し、執拗に彼らを追いつめるが決め手が見つからない。が、数年後、迷宮入りの様相を呈していた事件は、新たな目撃者が現われ急展開する…凄惨なレイプ殺人をめぐって錯綜する証言と深まる謎。

 
感想  『炎の裁き』で初めてフィリップ・マーゴリンに出会い、本作『封印された悪夢』が二作品目となるのですがどちらか片方を読む事をお勧めしたい・・・。両作品とも非常に似ているのですよね。『炎〜』では知的障がいを持つ青年が刑事に誘導尋問され、(催眠術にかけられたかのような状態になり)刑事の言うがままに自供させられてしまうのですが、本作『封印〜』も同じ展開です。本作では裁判の鍵となるおつむの弱い女性が刑事に誘導され催眠術にかけられ洗脳された状態になります。類似点は他にもあります。死刑訴訟を引き受ける弁護士が刑事事件など手掛けた事の無い若手弁護士で、弁護を引き受ける理由が『富と名声を求めて』という所は両作品とも全く同じです。明るいノリの作品がお好きな方には『炎の裁き』を、ミステリに明るさや読後感の良さを求めないと言われる方には本作『封印された悪夢』をお勧めします。くれぐれも両方を読まないように・・・。
ただ、これが処女作だと思って読めば巧いなという印象です。一生懸命書いたのが伝わるし、どんでん返しも用意されている。
 この作家は固定ファンの多い人気作家らしい。『黒い薔薇』でベストセラー作家の仲間入りを果たしたらしいので次回読んでみるつもり・・・。ココまで二作品を読んで『普通』の印象しか無いのでどうなるか見物だな♪。


炎の裁き
(THE BURNING MAN)
早川書房 ハードカバー初版1998年6月10日
あらすじ オレゴン州の片田舎ウィタカーで公選弁護人を務めるピーター・ヘイルは、数週間前まで父が経営するポートランドの大手法律事務所で働き、経済的にも父の援助で何不自由ない生活を送っていた。ところが、自らの無知と過信が招いたミスで大切な訴訟に惨敗。怒った父から、勘当同然でウィタカー行きを命ぜられたのだった。そんなある日、地元の女子大生が惨殺され、殺人容疑で知的傷害を持つ青年ゲイリーが起訴された。世間の注目を集めるこの裁判を勝利に導けば、莫大な報酬を手にすると同時に、父に自分の実力を認めさせることができる。不純な動機からゲイリーの弁護を引き受けたピーターだったが、天衣無縫な被告の人となりに接するうちに、次第に弁護士としての自覚と誇りに目覚めていく。だが、検察側の態勢は磐石。ピーターは不利な証拠の数々を突き崩すことができるのか!?。

 
感想  冒頭は・・・読み進むのが苦しかった〜。主人公の弁護士ピーター・ヘイルは大手弁護士事務所の経営者の息子。性格は自己中心的で、弁護士としては半人前なのに親の庇護の元で贅沢な暮らしをしている、ようするに甘えん坊のお坊ちゃんという設定だ。この主人公が嫌いで読むのが苦しかったのだが、登場人物を嫌いと思わせるということは作者の人物造詣が優れているのかもしれないな。このピーターが父親に勘当され大手弁護士事務所を追い出されてから物語りは進む。被告人(依頼人)をそっちのけで自分が有名弁護士になることしか頭に無かった主人公が知的障害者であるゲイリーの弁護を引き受けるのだが、やった事も無い刑事訴訟の上に被告人は死刑になるかもしれないという大事件なのだ。本作はこの裁判を通して弁護士、そして人間として成長していく『主人公の成長譚』といえるだろう。
リーガル物ではあるのだが軽い展開(筆致)なのでペーパーバックっぽいノリがお好きな方や読後感の良い作品を好まれる方にお勧めしたい。でもね・・・ミステリとして読むなら憤慨される方もいらっしゃるかも。伏線の張り方がイマイチなので150pも読めば誰が怪しいのかどこが複線か容易に想像出来ます。ミステリは伏線の美学だと思われる方には不向きな作品かもです。
無実の罪で起訴された男が知的障害者だなんてあまりにも使い古された手だとは思うが、この作者はこれから大化けしそうな気もするので数冊は読んでみようと思っている。
ちなみにマーゴリンが手がけた実際の事件に材をとった作品だそうな。



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