ダイヤモンド警視シリーズ
ヘン・マリン警部シリーズ
ピーター・ラヴゼイ(PETER LOVESEY)作家略歴&著作の感想 |
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作家名 | ピーター・ラヴゼイ(Peter Harmer Lovesey (ピーター・リアー名義を使っている場合もあるそうな) |
生年月日 | 1936年 |
生誕地 | 英国ミドルセックス州ウィットン生まれ |
処女作 | 『死の競争』 |
デビュー年 | 1970年 |
公式サイト | http://peterlovesey.com/ |
ピーター・ダイヤモンド警視シリーズ |
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最後の刑事 (THE LAST DETECTIVE) |
早川書房文庫 | 初版1996年11月10日 |
あらすじ | 湖に浮かんだ女の全裸死体―手がかりのない難事件にバースきっての頑固刑事、ダイヤモンドは俄然張り切った。やがて大学教授ジャックマンが妻の失踪を届け出たため、死体の身元は判明。だが犯人像はつかめず、焦るダイヤモンドは強引な捜査が原因で辞職に追い込まれてしまう…英国ミステリ界の巨匠が、昔ながらの捜査方法を頑なにまもる、誇り高き無骨な刑事の活躍を情趣豊かに描く新シリーズ。アンソニー賞最優秀長篇賞受賞作。
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感想 | 主人公のダイヤモンド警視はデブでハゲで不恰好な上に、ぶきっちょで頑固で人使いが荒く厚かましく、これといって何の魅力も無い男なんだけど〜いざ捜査となると猟犬のようにひたすらに犯人を追いかける昔気質の刑事。で、そのダイヤモンドが、全裸で湖に浮いていた身元不明の女は誰か?誰に殺されたのかという難事件を担当することになる。やがて、大学教授ジャックマンが妻の失踪を届け出たため死体の身元は判明したのだが、死人は有名女優で、交友関係が広く捜査は難航・・・といった展開です。
先に二作目の『単独捜査』を読んじゃってたので、この作品でダイヤモンド警視が仕事をクビになってしまうと分かっていたんですが〜それでも面白かったです(笑)。何が面白いかというと、この作品、正統派の警察小説なんですよね。昔懐かしい英国産本格ミステリの匂いを残しつつ警察小説の醍醐味みたいなものも感じられるお得な(?)作品に仕上がってます。2作目の『単独捜査』はどっちかというと主人公の人情味で読ませるといった作風だったので、このギャップには驚きました。考えてみれば本作では主人公は警察の偉いさんで、2作目では主人公はただの民間人。だからこそ、この作風の違いが生まれたのかも知れませんが、作者はなかなかの筆巧者だという印象を受けました。そんでもって書き方というか構成が面白いんですよ。物語は3人称で進んでいくのですが、途中途中で事件の渦中にいる容疑者たちの語りが入るんですよね。容疑者たちの語りの部分だけ1人称で描かれているもんだから、物語の要所要所で、読者は容疑者の視点から物語を見つめることになるわけです。この辺りの手法が芥川著『藪の中』風というか〜黒澤明監督作『羅生門』風でで、作者は意図的に、物語が完結するのを(読者が推理するのを)じゃましているんじゃないかと思うんですが、この辺りの焦らし方が巧いなぁ〜と感心いたしまして(笑)。この作品の不思議な面白さは、きっとミステリ読み巧者受けする作品なんじゃないかと思います。ワタクシは2作目の『単独捜査』を読んで、この作家はミステリ入門者に良いなと思ったんですが、この作品で認識が変わりました。それだけ、作家の間口が広いってことでしょうね。
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単独捜査 (Diamond Solitaire) |
早川書房文庫 | 初版1999年8月10日 |
あらすじ | 強引な捜査が原因で警察を辞職したダイヤモンド。
デパートの警備員として雇われたものの、再び失職してしまった。
閉店後、日本人の少女が隠れていたのを見落として馘にされたのだ。
少女は自閉症らしく、まったく口をきかなかった。
身内が名乗りでない少女に同情したダイヤモンドは親捜しに乗り出すが、やがて少女は謎の女性に誘拐されてしまった
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感想 | なぜか本作では刑事を辞めていて、ハロッズデパートの警備員をしていたダイヤモンド。だが、閉店後のデパート内に、小さな日本人の女の子が入り込んでいたのを見落としたとして、クビになってしまうのだ。仕事もなくアパートのペンキ塗りなんかで時間を潰すダイヤモンドだが〜自分がクビになった原因の少女は障がいを持っているらしく一言も喋れず、そんでもって身元も判明しないままだと知る。で、ダイヤモンドは少女が保護されている施設に足繁く通い、少女の身元を知る手助けをしようとするのだが〜なぜか少女は謎の日本人女性に拉致されてしまう。ダイヤモンドは少女を守るべく追うのだが誘拐犯と少女はアメリカへ、そして東京へと・・・という展開です。 で、感想ですが〜面白かったんです〜。まずね、このダイヤモンドが好いんですよ。デブで不恰好でドジで見掛けが悪い上に、押しが強くて厚かましくて人使いが荒く短気ときては、良いところなんて無さそうに見えるんだけど〜すべての欠点を補えるほどの善人なんですよね。周囲の人はみなダイヤモンドに迷惑しているんだけど、ダイヤモンドは『少女を守るため』なら平気で、自分は警視だと嘘をつくし、平気でどこへでも入り込みついにはアメリカの刑事たちと協力して捜査に入り込んでしまう。もう、この愛すべきとしか評せない主人公に、ノックアウトされてしまいました(笑)。それとね、物語のラストは日本の東京ってことになっているのですが〜やっぱりガイジンさんが書いた日本ってのはおかしな所がいっぱいなんですよね。で、このおかしな部分を、ワタクシがもしもこの本が邦訳されてすぐの若い頃に読んでいたなら『つまんない』ってな評だったかもしれない。自分がちょっと(?)大人になっているので、笑って読み逃せたということは・・・やっぱり、今遅れて手にしたのは良かったんだと思います。 それと、実は恥ずかしながら「初ラヴゼイ」だったんですが〜非常に楽しめたので嬉しいんだけど、今まで避けてきて勿体無かったなと思うんだけど手放しで喜べない複雑な心境で・・・。この作家の作品が、大変な高評価を受けていたのを知っていながら今まで1作も読んでいなかったのは、多作作家だから(笑)。万が一、面白かった場合 全作品制覇したくなるのが分かっていたので避けてたのに(プロンジーニやフランシスの全巻制覇で苦労したので懲りた(汗)・・・活字中毒者仲間の某さまが読まれて、そんでもって『さすがに面白い』と評されたので矢も盾も溜まらず読んだんですけど、ずっぽりと罠にはまった気分です(笑)。ダイヤモンドシリーズだけでかなりの作品があるのに、全作品となると震えが来る。。。ので、とりあえずダイヤモンドから攻めようかと思ってます。 ![]() ![]() |
バースへの帰還 (THE SUMMONS) |
早川書房単行本 | 初版1996年7月10日 |
あらすじ | 呼び出しは深夜に来た。二人の刑事が失業中の元警視ピーター・ダイヤモンドをロンドンのフラットのベッドから引っ張り出したのだ。連れて行かれた先はダイヤモンドのかつての職場、バースのエイヴォン・アンド・サマセット署だった。かつて彼を辞職に追い込んだ上司たちが、深刻な顔で迎えた。殺人犯マウントジョイが脱獄し、副署長の娘を誘拐し交渉相手にダイヤモンドを指名しているという。4年前、女性ジャーナリストが口に赤いバラを詰め込まれて刺殺された事件があり、彼がマウントジョイを逮捕していた。頼み込まれてダイヤモンドは渋々、しかし内心では大好きな捜査活動が出来ることにほくほくして、マウントジョイとの会見に臨む。そこで要求されたのは4年前のジャーナリスト殺し事件の洗い直しだった。もしマウントジョイが無実だったとすると、真犯人は誰だったのか?。被害者のボーイフレンド、家主、取材対象の不法占拠者たち・・・?。調べていくうちに、当時は埋もれていた事実が次々と明るみに出、ダイヤモンドの不屈の刑事魂が過去と現在とを鮮やかに結び付けていく。…英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞作品。
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感想 | ここまでの3作品を読んで来て、どれが一番好きかと訊かれたら本作『バースへの帰還』と答えます(笑)。警察小説として見るなら第1作『最後の刑事』が一番、主人公の好さを1冊で理解するなら2作目『単独捜査』、そしてミステリとして面白いのが3作目の『バースへの帰還』なんですよね。失業中でスーパーの警備員の仕事やクリスマスにサンタの扮装でアルバイトやらで糊口をしのいでいる民間人のダイヤモンドが、警察に頼まれて誘拐犯と交渉し民間人でありながら捜査に加わるという、異色の(?)展開の面白さってのもあるけど、物語全体がよく出来ているんですよね。ダイヤモンドが警視だった時代に逮捕し無期懲役で投獄されていた男が脱獄、そんでもって警察副署長の娘を人質に取り『再捜査をし無罪を証明しろ』とダイヤモンドに迫るんだけど、ダイヤモンドがその再捜査に着手し真犯人を探すということは、自らの過ちを証明することにもなるんですよね。普通、自分の過ちを確かめるために真剣になる人などいないだろうけど、ダイヤモンドは正直でありたいから必死で真相を知ろうとするんだよね〜。副署長の娘を無事に取り返し事件が丸く収まったなら、自分を刑事に戻らせてくれと署長に条件を出したダイヤモンドがコツコツと捜査を続け、クライマックスに向かっていく過程では、読み終わるのが惜しくなるほどワクワクドキドキいたしました。それと、本作は主人公以外の登場人物について丁寧に人物造詣されているので、ラストの真犯人が分かる場面では・・・これ以上はネタバレになるので止め(笑)。ココまでの3作品で一番、謎の部分がしっかりしたお勧め作品です。
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猟犬クラブ (BLOODHOUNDS) |
早川書房単行本 | 初版1997年7月31日 |
あらすじ | 世界最古とされる切手「ペニー・ブラック」が、郵便博物館から盗まれた。数日後、ミステリ愛好会「猟犬クラブ」の会合では、会員のマイロがジョン・ディクスン・カーの密室講義を読み上げようとしていた。ところが、開かれた『三つの棺』には、盗まれたはずの切手がはさまれていたのだった。窃盗容疑をかけられたマイロが疑いをはらし、ようやく運河に停泊させているナロウボートの自宅に戻ると、船室内には「猟犬クラブ」の会員の死体が置きざりにされていた。南京錠のかかった、まったくの密室状態での殺人事件。エイヴォン・アンド・サマセット警察の警視の座に返り咲いたピーター・ダイヤモンドは、「猟犬クラブ」の推理中毒者たちを相手に、独自の推理で密室トリックに挑んだ―。ミステリの蘊蓄をたっぷりと盛り込み、すべてのミステリ・ファンに捧げる、英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞の、シリーズ第4作。
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感想 | 楽しめました〜(万歳)。この作品は、ミステリを新旧問わずたくさん読み込んである方へのご褒美だと言える作品でした。物語は密室殺人の謎を解くという懐古主義的な作品で、もちろん 筋立てでも楽しめるし、フーダニットありハウダニットありな謎解きでも楽しめたんですけど、筋立て以上に物語の主要登場人物たちの会話が楽しいんですよね。主要登場人物たちは「猟犬クラブ」というミステリ同好会の会員で、全員がミステリオタクなんだけど〜みなミステリの好みが違うためそれぞれが自分の贔屓の作家の作品を推す・・・だもんだから、会合では作家名や作品名・シリーズ名が飛び交うんだよね。次から次へと作家名や作品名が出てくるもんだから、読んでいて もうずーーーっとニヤニヤしっ放しでした。ディクスン・カーに心酔している男、クライムノヴェルにのめり込んでいる男、エーコの『薔薇の名前』が最高傑作のミステリだと信じている女、女性探偵物に詳しい女、そしてジャンルを問わず乱読する女・・・などの面々がクラブの会員たちなんだけど、どこにでもいそうなミステリオタクが事件に巻き込まれるっていうので妙に親近感(笑)。でね、登場人物の中にマイロというゲイの男が出てくるんだけど〜これジョナサン・ケラーマンのアレックスシリーズからとったんじゃないかと思うんですよね(登場人物にマイロというゲイの刑事が出てくる)。そんでもって登場人物の住んでいる建物の名がスタイルズ荘で、密室殺人が行われた船の名が「ミセス・ハドソン号(ホームズの下宿のおかみさん)って笑うでしょう?!。こんな風に物語り全体にミステリ好きへの仕掛けが施されていて、正直言って犯人が誰だとかその動機だとかは全く度外視して読んでしまいました。おすすめ作だけど、これを読むと、表紙裏に地図が載ったような昔懐かしいミステリを読み返したくなるかもですぞ。
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暗い迷宮 (UPON A DARK NIGHT) |
早川書房単行本 | 初版1998年12月31日 |
あらすじ | 病院の駐車場で倒れているところを発見された若い女は、記憶をすっかり失っていた。身元もわからぬまま、とりあえず無料宿泊所へ収容された彼女は、そこで大女のホームレスと知り合い、彼女の励ましと協力を得て、自らの失われた過去を捜しはじめる。わずかな手がかりを追い、自分が記憶を失った経緯を辿るうち、二人の身辺に怪しげな人物がうろつきはじめた…。「花の街」バースは平和だった。殺人捜査班を率いるダイヤモンド警視も、あまりの退屈さに体調を崩す始末。見かねた上司は、本来は管轄外の自殺事件の調査をダイヤモンドに割り振った。自分の農場で、ショットガンで頭を吹き飛ばした老農夫の事件。市内の由緒あるアパートから身を投げた、身元不明の女の事件。どちらも平凡な仕事に見えたが、百戦錬磨のダイヤモンドの目は、ある事実に引きつけられた。これは、ひょっとすると…。ダイヤモンド警視の刑事魂をくすぐる怪事件続々発生!快刀乱麻の名推理が解き明かす、驚天動地の真相とは。
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感想 | 病院の駐車場で若い女性が発見され、病院で治療を受けるのだが、意識が戻った彼女には記憶がなかった。で、外傷は大したことがないからと病院を叩き出された彼女は、ローズという仮の名をもらい社会福祉事務所の計らいでホームレス用の無料宿舎に収まる。で、そこのエイダという女性と懇意になり、エイダと一緒にローズの記憶を取り戻すため、手掛かりを追うが〜ローズの妹と名乗る女が現れる。で、ローズは妹と名乗る女が本当に自分の妹なのか確信が持てぬままだったのだが、施設を追い出されたので行く場所がなく仕方なしに彼女について行くが・・・。一方、事件など滅多に起こらない花の街バースでは、珍しく自殺事件が頻発するのだが、一見自殺に見えた飛び降り自殺が実は殺人事件で、そんでもってローズが宿泊していた無料施設の住人で・・・という展開です。 ワタクシ、恥ずかしながらミステリでも好きなパターンってのがあるんですよね。それは”記憶喪失物”。未だに記憶喪失物が好きなんですよね〜(あと地下世界物と怪奇幻想含みに弱い)。で、本作は久々に出逢った記憶喪失物で、まさに『邂逅』ともいえる作品でして大変に楽しめました(笑)。前作の『猟犬クラブ』は今時珍しい本格物だったし、今度は今時珍しい記憶喪失物で、この作者は本当に巧者ですね。ストーリーテラーでありなが、人物造詣も巧く、といって妙にダラダラと物語を引っ張るでもなく文庫500ページくらいで収めちゃうんだから、もう何も文句はありません(笑)。 ![]() ![]() |
地下墓地 (THE VAULT) |
早川書房単行本 | 初版1999年12月15日 |
あらすじ | 観光地として賑わう、古代遺跡のローマ浴場の地下室で、白骨化した人間の手が発見された。一報を聞きつけた警視ピーター・ダイヤモンドは、骨の身元を特定すべく捜査を開始する。だが、くだんの地下室の番地に、『フランケンシュタイン』の作者メアリ・シェリーの自宅がかつてあったという事実が浮上し、捜査は混乱に陥った。この偶然の一致にマスコミが飛びつき、「人骨は怪物の犠牲者なのか?」などとバースの町に流言飛語が飛びかう実態となってしまったのだ。時同じくして、女性の骨董商が他殺とおぼしき水死体となって発見された。事件担当の主任警部ウィグフルは、容疑者の尾行を単独で開始するが、何者かに殴打され、生死の境をさまよう意識不明の重体に!同僚に代わってこの事件の捜査も担うことになったダイヤモンドは骨董商の身辺を探り、幻想的な画風の絵画が殺人事件当夜に取り引きされていたことを突きとめる。しかも、その不気味な絵のモチーフは『フランケンシュタイン』の一場面を意味していた…。不可解な繋がりをみせる二つの事件から、ダイヤモンドが辿りついた犯人像とは?ゴシック的な香り漂う怪奇な事件に、ピーター・ダイヤモンド警視が熱き刑事魂で立ち向かうシリーズ第六弾。
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感想 | これも月並みな感想で申し訳ないんだけど〜楽しめました(笑)。今回は怪奇小説『フランケンシュタイン』にまつわる、というかフランケンシュタインが実はバースのとある家で執筆されたことに端を発する物語でして〜その作者が住んでいた家の地下室からコンクリで固められた人の手が出てくるんですよね。で、手は1980年代当時のものだと分かったんだけど、フランケンシュタインの作者の家から人骨が出たというのでマスコミが大騒ぎ。だもんで、上司になんとしてもこの人骨の謎を解けと言われたダイヤモンドが奮闘するという展開です。読んでいて犯人は物語り半ばで察しがついちゃうんだけど、そんなことをぶっ飛ばしちゃうくらい勢いのある作品で、一気読みいたしました。どの作品でもいえることなんだけど、幾つもの謎がパズルのピースがハマるかのごとく、ラストでピタッと収まるんですよね。ラヴゼイ作品は読後が爽快です。
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最期の声 (DIAMOND DUST) |
早川書房単行本 | 初版2004年1月15日 |
あらすじ | 頭部を撃ち抜かれ息絶えた、愛する妻ステファニーの無惨な姿。それが現場に急行したバース署殺人捜査班ピーター・ダイヤモンド警視が直面したものだった。一体なぜ、彼女が殺されなければならないのか?長年連れ添ってきた妻を襲った、あまりに突然の悲劇に絶句し、立ちすくむダイヤモンド。同僚たちはただ遠巻きに見守ることしかできなかった。やがて葬儀も終わり、犯人逮捕に全力を尽くす決意をしたダイヤモンドだったが、被害者の夫が正式な捜査に参加を許されるはずもなく、たった一人で調査を開始する。だがそんな時、ダイヤモンドは、警察の捜査を統括するマガーヴィ主任警部に呼び出され、取調室へと連行される。彼に妻殺しの嫌疑がかけられているのだ。アリバイを追及されたダイヤモンドは激昂し、席を立つ。だが、殺害に使われた可能性のあるスミス&ウェッスンが自宅の庭から発見され、彼の立場は急速に悪化していく…。報復のための罠か?陰謀なのか?哀しみに震えるピーター・ダイヤモンド警視は一人の男として、最悪の事件に立ち向かう。衝撃のシリーズ第7弾。
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感想 | 物語は大変良い出来だけども、好くはない・・・本作は読むのが辛い作品でした。シリーズ物を追いかけていて何が一番嫌かというと、お気に入りの登場人物が死ぬことなんだよね。で、本作ではまさに登場人物の要ともいうべきダイヤモンド警視の奥さんステフが殺されちゃうんですよね。 仕事が暇だから他所の署に行って応援してこいと上司に言われたダイヤモンドは、悪いと思いつつバースで殺人事件が起きないかなぁ〜そしたら移動も出張も無しになるのになぁ〜って夢想する。で、夢想通り殺人事件が起きたのでルンルンで遺体発見現場に向かい〜ビニール袋に包まれた死体を前に軽口を叩き、そんで死体袋を覗き込んだダイヤモンドが目にしたのは、頭部に二発の銃弾を受けた最愛の妻ステフ。そして身内だからという理由で捜査から爪弾きされるダイヤモンド。で、一人こつこつと捜査を始めようとするがダイヤモンド自身に妻殺しの嫌疑がかかり・・・という展開で、読みながら胸が苦しくて堪らなかった。ダイヤモンドは必死でステフが殺された理由に迫ろうとするんだけど、警察署内からは妻殺しの嫌疑をかけられ、まさに孤立無援の状態で物語は進んでいくのだよね。ダイヤモンドにとってステフはただ一人の心のより所だったのに、その彼女がいないという孤独感が胸に迫って、物語の良し悪しをよく把握できないまま読了してしまい・・・だもんで、感想が感想になってませんね(汗)。そして、この原題が泣けますね〜(涙。 ![]() ![]() |
漂う殺人鬼 (The House Sitter) |
早川書房単行本 | 初版2005年1月31日 |
あらすじ | 家族連れや若者たちでにぎわうのどかな浜辺。その中に人目をひく赤毛の女性が独りいた。彼女はおもむろに寝そべり、くつろぎ始めた。そして、いつのまにか彼女は首を絞められて息絶えていた。周りには海水浴客が大勢いたにもかかわらず目撃情報は皆無で、犯人の手がかりは波に洗われてしまい、捜査は暗礁に乗り上げた。しかし、ダイヤモンド警視は地道な調査のすえ、女性が犯罪心理分析官(プロファイラー)だということをつきとめる。彼女は警察に協力し、殺人犯の正体を暴こうとしていた。その犯行とは、人一人を殺害し、現場に暗く情念的なコールリッジの詩の一節を残してゆくという不気味なものだった。ダイヤモンドは殺人犯の行方を追うが、まもなく次の殺人予告が…。
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感想 | この物語は今までの作品と大きく違っていて、ダイヤモンドが作品に登場するのはページがかなり進んでからになるんですよね。ページが進むまでダイヤモンド警視が出てこないのでジリジリさせられるんですが〜冒頭からスピード感があるので一気に読み進めます。ダイヤモンド警視と共に捜査に当たるヘン・マリン警部という新しい登場人物が出てくるんですが、この女性がなかなかに好くて、なんというか〜番外編っぽい感じなんですよね(笑)。この作品が切っ掛けでシリーズに入られた方は他の作品を読むと驚かれるかもしれないほどプロットも雰囲気も変わってました。 前作でステフを殺しちゃった(?)ラヴゼイは、変化を起こさないとシリーズを書き進むことが難しかったというような事を仰っているそうですが(あとがきより)、確かに前作が大きな転機になったようです。ステフのいない事を必死で受け入れようとするダイヤモンドが痛々しくて、読むのが辛かったんですが、ミステリとして見るなら大変に出来の良い作品だと思います。ラヴゼイは導入部が巧いので、いつだって最初から物語に没頭できますね。 ![]() ![]() |
処刑人の秘めごと (The Secret Hangman) |
早川書房単行本 | 初版2008年6月25日 |
あらすじ | 公園のブランコから女性の死体がぶらさがっているとの報を受け、ダイヤモンド警視は現場に急行した。自殺かと思われたが、まもなく女性が絞殺されたうえで吊るされたことが判明する。元夫、現在の恋人、レストランのヘッド・ウェイター、ビジネスマン、次々と容疑者が浮上するが、ダイヤモンド自身は捜査に集中できない状況に陥っていた。彼のもとに不可解な恋文や贈物が執拗に届いていたのだ。ダイヤモンドは今も亡き妻を愛しているというのに、誰がこんないたずらを?そんななか、失踪していた元夫が首吊り状況で死体となって発見される。それは類例を見ない首吊り処刑の連鎖だった…。
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感想 | この物語ではダイヤモンドの軽口やジョークが復活していて、久々に「ダイヤモンド警視シリーズらしい」作品でした。やっぱり、ニヤッとさせてくれる場面がないと、らしくないですね(笑)。
公園のブランコに女性の死体がぶら下がっていて自殺かと思われたがこれが殺人と判明する。容疑者は次々と現れるがこれというやつが見つからない。で、やっと浮上した重要参考人である元夫は行方不明で〜捜索は続くが、発見された元夫は首吊り死体と化していた。容疑者死亡で事件は解決かと思われたが、実はこの首吊りに見せかけた殺しは2件では終わらず・・・という展開です。相変わらずラヴゼイの巧さを堪能できる出来なんですが〜じつはこの作品でダイヤモンドは恋愛しちゃうんですよね(笑)。奥さんの死から3年も経っているので、読者としても歓迎する展開で(ダイヤモンドに孤独は似合わないっ)、本筋の犯人探しよりもダイヤモンドの恋の方が気になるミーハーな読み手はドキドキハラハラする場所が普通とは違っておりました(笑)。ミステリとしてみるなら〜犯人が物語り半ばで分かってしまうので、今までの作品と比べるならミステリとしての完成度は低いかも・・・ですが〜ワタクシはダイヤモンド警視のキャラが好きで読んでいるので、これはこれで良しでした。 ![]() ![]() |
ヘン・マリン主任警部シリーズ(ダイヤモンド物のスピンオフ・番外編) |
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殺人作家同盟 (THE CIRCLE) |
早川書房単行本 | 初版2007年2月15日 |
あらすじ | 出版社を経営するエドガー・ブラッカーが放火により殺された。彼は歯に衣を着せぬ物言いで作品を批判したり、出版の約束を反故にするなどして作家たちから恨みをかっていた。容疑者は12人、アマチュア作家の集まり“チチェスター作家サークル”の面々に絞られた。無実を訴えるメンバーの身辺を、サークルの新入りであるボブ・ネイラーは調べ始めるが、まもなく第二、第三の犠牲者が…。
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感想 | 本作は、ダイヤモンド警視シリーズ第8作『漂う殺人鬼』で、ダイヤモンドを喰う活躍をしたヘン・マリン警部が主役の作品です。ですが〜140ページを超えるまでヘンは出てこないんですけどね(笑)。 で、物語はというと・・・出版社を経営するエドガー・ブラッカーは自宅に放火され殺された。自宅玄関ドアの郵便受けからガソリンを染み込ませた布切れを室内に押し込み火をつけるという手口だった。で、ブラッカーは死ぬ前日にアマチュア作家サークルの会長と出版を巡り対立していた事が判明し、会長は逮捕される。作家サークルの仲間は会長の無実を信じ真犯人探しを始める。一方、ブラッカー殺しと全く同じ手口で第二の放火事件が起こり、サークルのメンバーが焼死。勾留されていたサークル会長は釈放されることになったのだが、依然として犯人は浮かばずヘン・マリン警部が助っ人として呼ばれ・・・という展開です。 この第一の放火で殺された男というのが詐欺まがいの商売をしていたんですよね。作品を出版してやると持ち掛けておいて、出版直前に資金が足りないからと作家に金をたかるという阿漕な手を使っていたんだよね。その上、殺される前夜の講演でプライドの高いアマチュア作家連中が激怒するような批評をしていたもんだから、容疑者は詐欺の被害者だけではなく、サークルメンバー全員で、あまりの容疑者の多さに警察も苦戦するわけだけど・・・展開がクリスティっぽいんですよね(笑)。サークルのメンバーの面々がまさにクリスティ作品に出てくるような変人揃いで、いつものダイヤモンド物の雰囲気からはちょっと外れています。作中でヘン警部がクリスティの連続ドラマの事を話す場面があることを考えると、クリスティへのオマージュなのかもしれません。とはいえコテコテの本格ミステリとは違い、ラヴゼイっぽい仕掛けのある作品なので本格はちょっとと言われる方でも大丈夫な作品だと思います。物語の1ページにダイヤモンドも登場するという、ファンへのサービスもあります。 |