天使が震える夜明け/沈黙の虫たち/闇に浮かぶ牛/埋葬


P.J.トレイシー(P.J.TRACY)作家略歴&著作の感想
作家名 P.J.トレイシー(P.J.TRACY)
生年月日 ×××年
生誕地 
処女作  『天使が震える夜明け(Monkeewrench)』
デビュー年 2003年
公式サイト http://www.pjtracy.net/content/index.asp

作家略歴

この作家名は、お母さんと娘さんとの共著で〜ペンネームです。詳しいことが分かりましたら書き足します。

天使が震える夜明け
(Monkeewrench)
ヴィレッジブックス 文庫 初版2006年9月20日
あらすじ  ウィスコンシンの田舎町、肌寒い秋の夜明けに、教会で老夫妻の惨殺死体が見つかった。夫妻の周辺を調べると、彼らが身元を隠して各地を転々としていたことがわかる。一方、隣の州のミネアポリスの凍えるような早朝にも、あるPCゲームを正確に模した殺人事件が次々と発覚していた。そのゲームを作成したのは“モンキーレンチ”という個性的な5人のメンバーで運営されている会社で、彼らもまた過去を抹消して生きていた。一見まるで関係のない2カ所の事件が交差したとき、共通する驚愕の事実が明らかになってくる・・・。

 
感想  犯人は、読んでいる間に何となく目星がついていて、その目星は当たるんだけど半分当たりで半分ハズレ(謎)。犯人捜しに関しては作者が巧いというよりか〜卑怯な手を使ったって感じでしょうか?(笑)。ですがこの作品、謎解き以外の部分が良いのですよね。遠く離れた二箇所で殺人事件が起こり、それでこの二つの事件に繋がりが見えてきて、一気に結末へ突っ走っていくという展開なので、場所が二箇所に別れた分、登場人物も二倍なのですよね。で、登場人物が多い割には脇役から主役、そして容疑者の面々にいたるまで丁寧に人物が描かれているのですよ〜。この作家、プロットは大した事が無いけれども(失礼)文章が巧いんだと思います。例えば、登場人物の女性の一人が取調室を出た後、戻ってくる場面があるのですよね。で、戻ってきた事に驚いた刑事は口をあんぐりと開けるんだけど『口を開けている』と描写せずに『「それで蝿でも捕まえるつもり、ハニー?」彼女は長いオレンジ色の爪を刑事の顎の下にあてて彼の口を閉じ(略』ってな感じで、刑事が驚いている事を描写しつつ女性の雰囲気まで読者に分からせるのです。全体でこういう描写を多用しているので、読者の頭の中には自然に登場人物像が出来上がっていて、登場人物が多いけれど混乱無く読み進めます。謎解きを重視されない読み手にお薦めしたい作品です。処女作でこれだけ書けていれば御の字、先が楽しみです。
この作品、シリーズ化されているらしいです。是非、次作も読んでみたいですね。本作ではちょっと展開が在り来たりだと思ったけれど二作目、三作目と進化を遂げているハズっ(笑)。特に登場していた二人の刑事と三人の保安官が良い感じだったので、また逢いたいなぁ〜と思いました。版元さん、次作も宜しくです(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る



沈黙の虫たち
(LIVE BAIT)
集英社 文庫 初版2007年11月25日
あらすじ  アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス。都市の忙しなさと田舎のマイペースさを併せ持つこの土地で連続して起きた奇怪な老人の死。一人が線路に縛り付けられてショック死したと思ったら、今度は次々と老人たちが射殺されていく。一見、無関係な事件が予期せぬ方向に急展開して・・・。ミネアポリス警察署殺人課シリーズ。

 
感想  これ、前作からのシリーズ物なんですが・・・ワタクシ、前作を丸っきり思い出せないまま読み終わっちゃいまして(汗。ですが楽しめました〜。前をすっ飛ばして読まれても楽しめる作品ってことですね(笑)。
で、物語はというと・・・2〜3ヶ月も殺人事件がおきないノンビリしたミネアポリスで、老人が連続して殺されるという事件が起こる。で、殺された老人は普通の人ばかりで被害者同士の繋がりも見えないのだが、この殺された老人たちは全員がユダヤ人で、そんでもって全員がホロコーストを生き延びた人々で・・・という展開です。物語を謎解きの部分だけ見るなら〜前作と同じくよくある物語なのですが〜ミネアポリス警察署の面々が好いんですよね♥。サイコ サスペンスなので陰惨な描写も多いのですが、それを帳消しに出来るくらい登場人物たちが愛らしい(?)。事件の根幹にはホロコーストがあるし、そんでもって老人たちが陰惨な殺され方をしているので描写は怖いんですが、サイコサスペンスを読んだという実感がないくらい登場人物たちが愉快です。お勧め作品です。

 「天使が震える夜明け」を読んで次作も読みたいと思っていたんですが、やっぱりヴィレッジブックスからは出ず、第2作からは集英社へと版元が変わってます。ヴィレッジブックスって新人作家の発掘は上手いと思うんですど・・・この版元、シリーズを連続して邦訳することに熱意がないように感じるんですよね。シリーズ化された作品を1作のみ紹介して終わったり、出しても前作から数年も経っていて読者は綺麗さっぱり忘れちゃってたり・・・ってのが多いので、面白そうでも迂闊に手を出せない。版権料が上がったら出さないっていうんであればシリーズ作品に手を出すなと言いたいところですが、こういう風に他の版元で読める場合もあるしなぁ〜。それもこれも洋物ミステリ本が売れないせいなんだろうけど、読み手としては「シリーズ1作だけ読まされ悶々とするくらいなら端から読ませないでくれっ」てな気分なんですよね。ということで集英社!天晴れっ!さすがっ! 作家名INDEXホームへ戻る



闇に浮かぶ牛
(DEAD RAN)
集英社 文庫 初版2008年5月25日
あらすじ  異様な静けさに包まれた町に迷い込んだ3人の女達。グレースとアニーは天才サイバー集団「モンキーレンチ」のメンバー、シャロンはFBI心理捜査官−−−は、そこで恐ろしい事に気付く。携帯電話さえ「圏外」のこの場所で、命を狙われることになった3人の決死の脱出劇が始まった。一方、彼女らを案じる男達も捜索に出るが・・・。ミネアポリス警察署殺人課シリーズ。

 
感想  面白いんですが・・・ワタクシ 個人的には前作のほうが好みでして、その理由はというとお気に入りのミネアポリス警察の二名と保安官達が主人公じゃないから(汗)。今回の物語の中心人物は女性陣なんですよね。で、このシリーズは、どっちかというと物語のプロットで読ませるというよりは登場人物たちの良さで引っ張られるという作品なので、好みの登場人物の登場場面が少ないのはネックなんですよね(笑)。まぁ、面白かったから良いんですけどね。ですが・・・この作品は最低でも前作を読んでいないと面白さが理解できないかもしれません。
で、物語はというと・・・ウィスコンシン州北部の田舎町の保安官に手助けを乞われ、グレースとアニーとケリーは女3人で車で向かう事にしたのだが、途中で道に迷い、目的地とは遠く離れた山の中に迷い込む。で、やっと見つけた小さな町で電話を借りようとするのだが、なぜか村人が一人もいない。電話を探すが村中の電話の配線は断ち切られていて使用不能。女性3人は「おかしい、怪しい」と身を潜めて様子を見るのだが、そこに謎の軍人集団が。彼らはグレース達が見ている前で、村へ入ってきた住民を射殺。携帯の中継点さえない陸の孤島で孤立無援の3人は逃げおおせるのか?・・・といった展開です。冒頭で村の住民達がみな死んでしまう場面があり、その後、別の場所で3人の惨殺体が見つかるんですが〜この辺がノタノタしてもどかしいというか下手というか・・・。この作家 巧いんですけど導入部がイマイチなんですよね。ミステリで導入部というのは重要なので。この点が改善されたらもっともっと楽しめるのになと思います。共著って難しいんでしょうね?。ですが、物語は100ページを越えた辺りから俄然スピードが増しますので楽しめます。前作を読まれて、登場人物が気に入ったら、お勧めです。次回作はマゴッツィとジーノの出番が多いと、なお良いんだけど(笑)。

前作は『虫』で今度は『牛』だって。ほんと、題名を何とかした方が良いと思いますよ。牛ってね、漏れでた神経ガスで死んだ牛のことだろうと思うんだけど・・・作品中で牛のインパクトなんてこれっぽっちも無いのになぜ題名に出てくる?。不思議だよなぁ。原題のままの方がよほどいいと思うけど・・・。 作家名INDEXホームへ戻る



埋葬
(SNOW BLIND)
集英社文庫 初版2009年4月25日
あらすじ  アメリカの地方都市ミネアポリス。この街を護る刑事コンビのマゴッツィとロルセスは偶然、雪だるまにされた男の死体を発見する。やがて似たような雪だるま発見の報告を受けて二人は、新人女性保安官アイリスが待つダンダス郡へと向かうが…。これは連続殺人事件なのか!?捜査線上に浮かんだ、秘密めいた共同体「ビタールート」とは?。

 
感想  この作品、今までのシリーズ物とはちょっと違いまして〜どっちかというとジーノとマゴッツィが主役の番外編とでも言えばいいのかな。モンンキーレンチの面々も出てくるのですが、それもほんのちょっとなのですよね。だもんで、ジーノとマゴッツィファンのワタクシには楽しめた作品でしたが、いつものノリが好みの方にはちょっと物足りないかも?です。で、物語はというと・・・
殺人課刑事のジーノとマゴッツィのコンビは雪祭りのイベントである雪だるまコンテスト会場で他殺体を発見してしまう。死体は雪だるまの中に入れられており、現場にはほかにも沢山の雪だるまが。で、現場にある雪だるまをすべて破壊し捜索した結果、もう一人の他殺体も雪だるまの中から発見された。そして、この殺された二人はミネアポリス警察署の警官だったことが分かる。やがて、別の場所でも雪だるまに仕込まれた他殺体が見つかるが、この郡の保安官は就任したばっかりのど素人の女性で前途多難・・・という展開です。雪祭りの会場で雪だるまの中に死体を仕込んで誰にも見られていないなんて不自然だし、他にもいろいろと突っ込みどころも多いです。厳密にミステリとして評するなら、犯人は誰かという謎の部分が弱いので、このシリーズを未読の方にはお勧めし難い作品かもしれません。まぁ、ぶっちゃけますと〜このシリーズの良さは、登場人物のキャラクターの良さに尽きると思うんですよね。なので、このシリーズを初めて読まれる方は、まず『沈黙の虫たち』か『闇に浮かぶ牛』で試されてからが良いかもです〜。管理人は、大好きなシリーズです。(それと、きちんと1年に1冊出してくれる版元に感謝です〜)



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