柔らかな頬/ダーク/グロテスク/残虐記/I'm sorry,mama./魂萌え

桐野 夏生作家紹介&作品紹介
作家名 桐野 夏生  
生年月日 1951年
生誕地  金沢  
処女作  顔に降りかかる雨(乱歩賞 受賞作)
デビュー年 19年
公式サイト http://www.kirino-natsuo.com/


作家紹介

1993年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞を受賞。
1998年「OUT」で日本推理作家協会賞を受賞。
1999年「柔らかな頬」で直木賞を受賞。
2003年「グロテスク」で泉鏡花賞を受賞。
2004年「OUT」翻訳本がアメリカMWA賞の候補作となる。

桐野女史は江戸川乱歩賞を受賞する以前にはロマンス小説・ジュニア小説を書いていた。レディースコミックの原作も手がけていた。その当時のペンネームは不明。
桐野女史の作品は初期と今とでは全く違う。直木賞をとった頃から作風が変わってきた気がするが、賞を取る事により自分の書きたい事を自由に書けるようになったのかもしれない。
毎回、新刊が出る度に新しい事にチャレンジしておられる意欲的な作家だ。(同じ桐野ファンでも好みが割れるのはこの所為だろう)推理作家と評される女史だが、ご本人はジャンルには全く拘らずに書かれているようだ。
彼女が描く何か歪な(怪物的な?)登場人物に嫌悪を抱きながらも魅了される。



  
柔らかな頬 講談社 ハードカバー初版1999年4月15日
あらすじ 友人家族の北海道の別荘に夫、子供と共に出かけた主人公カスミ。 その友人はカスミの不倫相手。夫と子供を捨てても構わないと決心したその朝、5歳の娘が忽然と姿を消す。 何の手がかりも無いまま4年の月日が過ぎ、事件が風化してゆく中、カスミは一人娘の行方を追い求め事件現場の北海道へと飛ぶ。

 
感想 この作品を境にして桐野作品はジャンルを超えたんじゃないかと思う。この作品以前は普通のミステリ、サスペンス作家だったがこれ以降、微妙に変化し続けている。好き嫌いは別にして現在のミステリーには、謎解きそのものよりも犯罪に関った人々の心理描写に重きを置く作品が少なくありません。(欧米では主流かも?)
ミステリーといえば『最後に必ず結末(解決)を』という方や、『本格推理小説が読みたい方』にはお勧めできません。(これ以上はネタバレ)作者は意図的にミステリーの謎解きを拒絶しているようにも思える本作は、読み手によって評価が分れる事と思います。拒絶と言うよりは、読者に委ねていると言った方が近いかも知れませんが。私個人は非常に気に入っている作品です。他の方の感想も聞きたいと思う1冊でした。


 
ダーク 講談社 ハードカバー初版2002年10月28日
あらすじ 40歳になったら死のうと思っている。現在38歳と2ヶ月だから、後2年足らずだ。」  女探偵村野ミロの語りから物語は始まる。(乱歩賞受賞作から6年後に、ついに4作目が刊行されました。)  東京・北海道・福岡・韓国、プサン・ソウルへとめまぐるしく舞台を移しながら、追跡劇となる。ミロのもつ最悪の部分(個性?)が、周りの人々の心の奥底をえぐりだしながら。

 
感想 男運の悪い女 ミロの壮絶な物語です。シリーズの最初は普通の探偵小説だったのですが、この作品で大転換を遂げています。この著作はシリーズの前作を読まれていない方にはお勧め出来ません。(是非、前作を御一読される事を切に願います。)  ミロの変貌ぶりには驚かされました。(益々性格が悪くなっていた)この作家は酷い女を書かせると天下一品(?)なんだよね。あまりにも簡単に関係者がミロの側に集結するところなど、多少の違和感はあるものの、それを相殺するくらいのスピード感です。一気読みできました。(何と厚さ4.5cm520p)まだまだ、続編が出そうな予感!

 

グロテスク
文芸春秋社 ハードカバー初版2003年6月27日
あらすじ 主人公の「わたし」には、自分と似ても似つかない絶世の美女の妹ユリコがいた。「わたし」は幼いころからそんな妹を激しく憎み、彼女から離れるために名門校のQ女子高に入学する。そこは一部のエリートが支配する階級社会だった。ふとしたことで、「わたし」は佐藤和恵と知り合う。彼女はエリートたちに認められようと滑稽なまでに孤軍奮闘していた。やがて、同じ学校にユリコが転校してくる。
 エリート社会に何とか食い込もうとする和恵、その美貌とエロスゆえに男性遍歴を重ねるユリコ、そしてだれからも距離を置き自分だけの世界に引きこもる主人公「わたし」。彼らが卒業して20年後、ユリコと和恵は渋谷で、娼婦として殺されるのだった。

 
感想  『柔らかな頬』でミステリの枠を飛び出した桐野夏生女史は、本作『グロテスク』で全く別次元に足を踏み入れたかに見えます。ジャンル分けなど全く無意味ですが、本作はミステリやサスペンスでは無い普通小説のような気がします。
 物語は主人公『わたし』の目を通して語られていくのですが、途中から関係者の手記や裁判を通して違う視点でも読者の前に明らかにされていきます。各々の主観で語られていくにつれて「わたし」が真実を述べているのか、一体何が、誰が真実なのかと混沌としていきます。この辺の手法など相変わらず桐野氏は巧い手を使うなと感心します。 描かれているのは人間の限りない欲望や実社会に溢れている差別で、読んでいて息苦しくなるほどです。『OUT』ではストレートな怖さを味わいましたが、この作品は怪物的な女性達の恐ろしさが際立っています。怪物的ではあるけれど何処にでもいそうな人物だからこそ怖かったのかもですね。
 この作品の気に入っている所は作者の桐野さんが、娼婦=堕落だと書いていない事のような気がします。男性の作家が描くと決まって『何故、堕ちたのか?何故、身を売るのか?』という描写になりがちですが桐野氏は登場人物の視点で描くだけでその行為に対しての私情は挟まない。この女性から見た視点が男性の読者に受け入れられない一因なのかもですね。 作家名INDEXホームへ戻る

残虐記 新潮社 ハードカバー初版:2004年2月25日
あらすじ ひたすら私生活を隠し執筆活動を続けていた女流作家が失踪した。作家が残した原稿。そこには、25年前の少女誘拐・監禁事件の被害者が、自分自身であったという驚くべき事実が記してあり、刑を終え社会に出てきた犯人からの自筆の手紙も添えられていた。奔流のようにあふれ出した記憶。誘拐犯と被害者だけが知る「真実」とは・・・。

 
感想 この作品は「マガルタ」の名で週刊アスキーに連載されていたものだ。校正する直前に谷崎潤一郎著の「残虐記」を読み大谷崎から題を頂いたらしい。確かに谷崎っぽい性についての描写がある。   この小説は監禁された事に主題を置いた作品ではなく、監禁された少女が現実と向き合う事、実際にはどうして事件は起きたのかという”事件後”に主題が置かれている気がした。
「柔らかな頬」や「光源」を読まれた方にはお分かり頂けるだろうが、あの本を読んだ時に感じた不安定さを感じた。まるで作者に突き放されている気がするのだ。 描かれている登場人物の言う言葉や、主人公である作家が記した文章をそのまま読み取っていては分からない謎がそこかしこにある。 主人公自身が、自分が過去に監禁された事に折り合いが付けられずに想像の世界に逃げ込み、絶望を味わい、その後溢れ出す感情を文章にするのだが、何処までが嘘で何処までが真実なのか?。その描写が上手い。 なんとも感想が書き難い作品だが(ネタバレに繋がるので)、桐野作品を今まで読んできて一番好みの作品だったかもしれない。柔らかな頬でもそう思ったが、この作家は巧いよ。この”読者の想像に委ねる作法”ってこの人より巧い人がいるかな?。
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I'm sorry,mama.
アイムソーリー,ママ

2004.11.30読了
集英社 ハードカバー初版2004年11月30日
あらすじ 児童福祉施設の保育士だった美佐江が、自宅アパートで25歳年下の夫と共に焼死した。事件の背景に盗み、殺人、逃亡を繰り返す女、アイ子の姿が見える時、更なる事件が引き起こされる。

 
感想  本作もミステリというよりは普通小説に近い作品です。最初、主人公かと思われた人物があっけなく殺されちゃうので驚きました(笑)。
 この主人公アイ子の人物造詣が面白い。一言で言えば人格破綻者なのですが今まで描かれてきた連続殺人犯とは明らかに違うのですよね。自分の邪魔になる人間は思考する事無く、あっさり殺してしまう。黒板の文字を消すような感覚で人を殺していくのですよね。勿論、反省も悔いも無い。殺す事に快楽を味わうわけでもなく何となく邪魔だからと殺す、というか消していく。で、このアイ子の語りで物語が進んでいくワケですから描写が凄い(笑)。文章もアイ子の言葉だし情景描写もぶっ飛んでいるし、なんとも説明がし難いけど、これが桐野の巧さなのだろうなぁ。愉しめました♪。 作家名INDEXホームへ戻る



魂萌え
毎日新聞社 ハ−ドカバー初版2005年4月10日
あらすじ  夫婦ふたりで平穏な生活を送っていた関口敏子、59歳。63歳の夫・隆之が心臓麻痺で急死し、その人生は一変した。8年ぶりにあらわれ強引に同居を迫る長男・彰之。長女・美保を巻き込み持ちあがる相続問題。しかし、なによりも敏子の心を乱し、惑わせるのは、夫の遺した衝撃的な「秘密」だった。

 
感想  ここ最近の桐野女史の作品とは作風が異なります。良い意味で、桐野女史も年を重ねているんだなぁと思わせる作品でした。
 なんかね、身につまされる物語でした。夫に先立たれ、これからの生活をどうしようか思い悩む敏子に財産の分与を迫る息子と娘。そして、夫には付き合っていた女がいて、10年もの間、騙されていた事を知るのですよね。息子や娘からみたら、おばーさんの敏子だけど、本人には恋をしたい、おしゃれをしたいという欲望がまだまだ健在で、そのギャップに苦しむ主人公が丁寧に描かれているんですよね。いつか誰でも通る道なんだろうけど、読んでいて苦しかったです。桐野氏は初期作品から女性を描かせると右に出るものはいないって感じだったけど、最近、ますます拍車が掛かってますね。女の汚さとか欲を書かせたら、天下一品。
 管理人の父は、今現在癌で闘病中なので(余命二年と宣告されている)、母の事を思いながら読み進んだ所為か、面白いと純粋に楽しめませんでした。あまりにリアルすぎたのでしょうね。それだけ、桐野女史が巧いって事なんだろうけどね。