マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー(Maj Sjowall&Per Wahloo)作家略歴&著作の感想 |
---|
作家名 | マイ・シューヴァル(1935−) ペール・ヴァールー(1926-1975) |
生誕地 | スウェーデン |
処女作 | ロゼアンナ |
デビュー年 | 1965年 |
公式サイト |
ロゼアンナ (Roseanna) |
角川書店文庫 | 初版1975年3月1日 |
あらすじ | 燦々と照る夏の日の午後、うら若い女性の死体が、遊覧船の行きかう運河から上がった。何一つ身に纏わぬ無残な姿。被害者の身元は?犯行現場は?。綿密な手配にも拘わらず、僅かな手掛かりもなく時は過ぎていく。やがて事件発生後3ヶ月、憔悴したマルティン・ベックの下に1通の電報が届く。”名前はロゼアンア、アメリカ人・・・”。遥か海を隔てたアメリカの刑事の協力を得て、マルティン・ベックは被害者の異常な性格が自ら死を招いたことを知る・・・。
|
|
感想 | わたくし、この作家の作品で一番最初に手に取った作品『笑う警官』を地味な作品だと評しましたが・・・この作品の方が格段に地味で御座いました(驚。 ストーリーはというと〜運河で全裸の女性の死体が発見されるのですが、身元不明。で、やっと3ヵ月後に身元が知れるのですが、被害者はアメリカ人で、一人旅中に事件に巻き込まれたのだと知れ・・・これだけが物語の骨子です(笑)。何が驚いたかというと、たった一人の被害者を物語の中心に据え、読者を飽きさせず最後まで引っ張り続ける筆者の筆力!。だってね、英米の作品ならあり得ないストーリーだと思うんですよね。たった一人の女性を殺した犯人を、署の刑事課の人間が全員で数ヶ月追い、でもって刑事たちが捜査の難航を愁い、犯人を逮捕できない自分たちの捜査能力を疑い、で〜事件が長期化するに及んでは刑事たちが憔悴しきっていくなんて、日常的に凶悪犯罪犯を追う欧米の作品ではあり得ない展開なのですよ。で〜それが心に沁みるんですよね〜(笑)。そして、マルティン・ベック シリーズの良さは、登場人物全員が生きて動いているかのようなリアル感ですね。刑事たち一人一人について丁寧に性格づけしてあるので、どの作品を手にとっても、主要登場人物たちの人物像が頭にすっと入ってくる、この筆力はほんと凄いですよ〜。 ですが!非常に地味な作品だし、犯人像が今読むと無理があるというか(犯人はサイコキラーなんですけど、この当時 異常者の犯罪ってのが珍しかったのでしょうね?)・・・まぁ、描かれた時代が1960年代なので、それを念頭に入れて読まれる方じゃないと楽しめない作品だと思います。入門編として選ばれるなら『バルコニーの男』か『笑う警官』がお奨めです。(2007年11月27日読了) ![]() ![]() |
バルコニーの男 (The Man on the Balcony) |
角川書店文庫 | 初版1971年8月10日 |
あらすじ | 淡い陰鬱な曙光が立ち並ぶアパートの上をはいずり始める頃、バルコニーの上からストックホルムの街路を見下ろしている男がいた・・・。
|
|
感想 | ストーリーはというと・・・公園を一人歩きしている老人を狙った悪質な強奪事件が頻発しており、警察が総力を挙げ捜査に当たっていたその時、無惨に暴行され絞殺された少女の遺体が公園内で発見されたとの一報が入る。現場の公園はほんの数時間前に強奪事件のあった現場と同じで、もしかすると強奪事件の犯人が少女誘拐殺人事件の容疑者を目撃しているかもしれない・・・という物語です。 この作品、欲をいえば犯人をもうちょっと書き込んで欲しかったと思うけれども(この時代にはこれで良かったのでしょうけど)、それ以外は本当によく出来たストーリーだと思います。か弱い老人を狙う悪質な辻強盗の犯人が、少女を強姦し絞殺した犯人を目撃していて、連続少女誘拐事件を止めるためには辻強盗の犯人を何としても逮捕しなければならないなんていう、この設定がニクイです(笑)。で、このシリーズの全作にいえる事なんだけれど、刑事たちが良いんですよね〜。正義感に突き動かされて、寝る間も惜しみ、かーちゃんにグダグダ文句を言われても黙って耐え、朝も昼も晩も総力を挙げて捜査に当たる刑事たちがリアルで良いんですよね。この警察小説になぜこれほどのめり込んでいるのかというと、単に登場人物たちに逢いたいからだと言えるほど魅力的な人物が多く出て来ます。今風の二転三転するジェットコースター物語ではないけれど、極上の警察小説といえるんじゃないかな。1970年に著された物語なので、それを念頭に入れて読まれる方じゃないと物足りない箇所もあるでしょうけれど、ミステリを数多く読まれた方ならきっと楽しめる出来だと思います。(2007年11月30日読了) ![]() ![]() |
笑う警官 (The Laughing Policeman) |
角川書店文庫 | 初版1972年7月20日 |
あらすじ | ベトナム反戦デモが荒れた夜、ストックホルムは雨だった。騒ぎが静まり街にいっとき静けさが戻ったとき、街はずれの荷役場の鉄柵に赤い市内循環バスが突っ込んだ。運転手以下、乗客の死体を満載して。大量殺人。二階建てバス内で狂気の軽機関銃乱射事件発生。 悪夢の第一報に現場に急行する殺人課主任マルティン・ベックの胸は騒ぐ。しかも死体の中には部下が一人、含まれているとの報も。屠殺場同然の血の海の中には、はたして拳銃を手に絶命している気鋭の若手刑事の顔があった。犠牲者はすべて偶然そのバスに乗り合わせた者ばかり。狂気の犯行説が圧倒的な中で、死んだ刑事の生前の行動を洗うぺっくの前に意外、故人の異様な私生活が浮かび上がってくる・・・。 |
|
感想 | 雨の夜、ストックホルムを走る市内循環バスの中で軽機関銃を乱射し、運転手と乗客8名が射殺されるという無差別大量殺人事件が起きる。いったい誰が何のために大量殺人を犯したのか?・・・というストーリーです。 で、感想ですが驚きましたの一言ですね(笑)。この作品、1970年にMWA賞を受賞したらしいのですが、この年代といえばディック・フランシスやドナルド・E・ウェストレイク、フレデリック・フォーサイスなどなど挙げたらきりが無いくらい、数多くの大御所作家が全盛だった時代で、まさにミステリ作家の宝庫といえる年代。その年代に、米国や英国の作家ではなくスウェーデン作家の作品が選ばれた理由は読了して納得。読み終わって驚いたんですが〜恐ろしく完成度が高い、その中でもプロットが突出して良いのですよね。プロットを綿密に練って練って練り上げた上で著されたのでなければ、こういう物語は生まれないだろうと思います。で、マルティン・ベック シリーズというからには、ベック警視が活躍して事件を解決するのかと思いきや、予想に反しベック警視とその部下全員が街に繰り出したりデスクワークをしたりして、一個一個データを集め容疑者を消して行き、チーム全員で一歩一歩物語の核心に迫っていく警察小説で、一人の刑事が突出して能力があるという物語よりも圧倒的なリアル感でもって読者に迫ってきます。で、この刑事たち一人一人が非常に個性的なのですよね。わたくし、このシリーズをはじめて読んでいるにもかかわらず、旧知の登場人物に再会したかのような錯覚を覚えました。旧知だと錯覚させるくらい人物造形が丁寧なので、主要登場人物の性格や個性や特技が簡単に頭に入り、シリーズの途中から読んでいるのに違和感を感じませんでした。で、この主要登場人物全員の個性と特技が・・・事件の解決へと結びついていくのですが、ほんとこの作家 巧いです。読了後、手放しで褒め称えることが出来るなんて、読者冥利に尽きますね(笑)。 読んでいる間、不思議と87分署シリーズが頭の中に浮かんできて、確かに警察小説ではあるけれど作風も違うのになぜなのかなと悩んでおったのですが、あとがきを読んで納得。このご夫婦、87分署シリーズの訳をされていたんだそうです。きっと、意識下に87分署があったのでしょうね?(笑)。87分署シリーズみたいに刑事たちの軽口はないけれど、なぜか似た印象を受けました。刑事たちが生きて動いているようなリアルさが、そう感じさせるのかもしれません。地味な作品ですが、今までたくさんのミステリを読んでこられた方や、派手さに誤魔化されない方にお奨めしたい、玄人受けする作品だと思います。 ![]() ![]() |
消えた消防車 |
角川書店文庫 | 初版1973年12月20日 |
あらすじ | 凍てつくように寒い夜、突然ラーソン警部の目の前で監視中のアパートが爆発炎上した。猛火に閉じ込められた11人の男女を救おうと孤軍奮闘するラーソン。だが、なぜかとうに出動したはずの消防車は現れない。再度の督促でやっと消防車が到着したとき、アパートはすでに焼け落ちていた。4人の焼死者の中には重要事件の容疑者マルムの顔も。 同日の朝、たった一語『マルティン・ベック』と書いたメモを残して自殺した孤独な中年男性がいた。この自殺者と火事の関係は?消防車はなぜ消えてしまったのか?失火説放火説の対立する中で行われた現場検証は失火説を裏付けたのだが・・・。 |
|
感想 | とある事件の容疑者を監視していたラーソン警部の目の前で、監視者の住むアパートが爆発炎上!ラーソンは必死で救助に当るのだが4人が焼死。監視していた男はガス自殺を遂げたかに見えるのだが、実は殺人で・・・というストーリーです。とある事件というのは車の窃盗横流しで、車の窃盗犯くらいを数日かけて監視するなんて、スウェーデンって犯罪の少ない国なのかなと思ったのですが、あとがきに1960年代〜70年代にかけて、自動車盗難の発生件数はヨーロッパ一で、一日に200台も盗まれていたと書いてあり、なるほど〜と納得(笑)。この作者は10年をかけて10作品を著すと公言してあったそうなんですが、この10作品=がスウェーデンの10年の犯罪史とも言えるような内容で、北欧を全く知らない私には、ミステリを読みつつ同時に北欧の国民性や習慣を学習しているような、そんな感じです。 で、この作品 グンヴァルド・ラーソンが大活躍するんですよね。今までの作品の中でラーソンは、腕力だけが取り柄の粗暴な男のように描かれていたけれど、実は推理力も並大抵ではないってことがこの作品で分かります。このラーソンの抱いた『なぜ消防車は消えたのか?』という疑問から物語が進んでいくのですが〜この構成というか展開が、計算されてるって感じますね。どの作品もそうなんですけど、登場人物の刑事たちの個性なり特技なり欠点やなんかが絡まりあって、事件の核心へ、終結へと向かっていくのですよね。といって、プロットだけが突出して良いってわけではなくて、人物造形にも気を配られている本シリーズのレベルは非常に高いと思います。ただ、この作品は結末がちょっと乱暴なんですよね。犯人へと辿り着く過程がとても良かっただけに結末の物足りなさが目に付くけれど、平均点は充分に超えている作品です。 『笑う警官』に出てきたペール・モーンソンというマルメ警察の刑事が良い味を出していて気に入った登場人物だったんですけど、この作品でも大活躍で楽しめました。モーンソンがとある女性の尋問を行い、その尋問が超一流だと仲間の刑事たちから賞賛を受ける場面があるのですが〜実は作中でモーンソンは尋問する前にこの女性と寝ちゃってるんですよね(笑)。寝ちゃってるもんだから女性も気安く喋るんですけど〜モーンソンの活躍場面が楽しい作品でした。(2007年12月6日読了) |