狙った獣/ミランダ殺し/鉄の門

マーガレット・ミラー (Margaret Millar)作家略歴&感想
作家名 マーガレット・ミラー(Margaret・Millar)  
生年月日 1915年
没年月日 1994年
生誕地  カナダ トロント  
処女作  The Invisible Worm
デビュー年 1941年


マーガレット・ミラー 略歴

心理スリラーの名手、巨匠作家です。カナダ生まれ。
高校生のときにロス・マクドナルドと同級生で、後に夫婦となる。
夫婦共にミステリー作家で人気も絶大。1941年、軽い精神障害で床についていたマーガレット・ミラーは病床でミステリを数多く読み、医師の命令に反して自身でもミステリを書き始める。
娘の失踪事件、ロスの闘病など多くの悲劇に見舞われたが、水準の高いミステリーを書き続けた。
1994年没。(1915生)
心理サスペンス作品が多いのだが他者と比べられない味がある。
60年ほど前に書かれた作品に”精神異常者の殺人”等を登場させた事にも驚きだがその作品が今でも充分通用する事に脱帽する。
(一歩間違えば不公正になってしまう叙述物も、さらっとこなす巧者です。)この作家の凄さは”古さを微塵も感じさせない”事だろうか。

著作・狙った獣/鉄の門/別れの顔/殺す風/まるで天使のような  等多数。
(ハヤカワミステリ文庫と東京創元社から殆どが出ています。一冊のみ小学館から)
ただし、早川から出ていた本は現在絶版。古本屋で見つけたときは「買い」だ。!



狙った獣 早川ミステリ文庫 初版:1977年3月10日
あらすじ 巨万の富を有しながら孤独な生活を送ってきたオールドミス、ヘレン・クラーヴォウは、ある日奇妙な電話を受けた。
その未知の人物は「水晶球のなかに惨殺死体となったヘレンの姿を見た」と言った・・・。
単なる悪戯にしては度がすぎていた。その後も影のように忍び寄るその声に、ヘレンの不安はやがて戦慄へと姿を変えていった!

感想 サスペンス小説です。この作品は1955年に発表されたものですが、今読んでも、全く古臭さを感じさせない内容です。
見知らぬ人から、ヘレンが住んでいるホテルの一室に電話があることに端を発する不思議な事件・・・。
”探偵(依頼され事件を調べる弁護士)・殺人事件・結末の意外性 ”この三つを兼ね備えた傑作です。
現代のサスペンス小説を読んでいて”精神異常者の犯罪”で終わられて物足りなさを感じることがあります。
何故、殺したのか?という謎を精神異常だけで終わらせるのなら推理小説では無いのではないかと思われる方にお薦めの一冊です。
初めて読んだときには、この結末に度肝を抜かれました。この時代に”この手法”が使われていたなんて!(ネタバレになるので、あいまいな表現)
非常に公正な(読者に対して)作家です。だんなさんのロス・マクドナルドと比べながら読むのも面白いと思います。(この作品でMWA賞を受賞している)
備考 現在絶版です。このような”巨匠”作家の本まで絶版になるなんて・・・(悲)
古本屋さんには、かなり出回っていると思うので入手は簡単だと思います。




ミランダ殺し
(THE MURDER OF MIRANDA)
東京創元社文庫 初版:1992年2月28日
あらすじ カリフォルニアのとある高級ビーチクラブを舞台に展開する恐ろしくもユーモラスな悲劇の顛末。匿名の中傷文の執筆にいそしむ偏屈老人。マフィアにコネがあると自慢する生意気なクソガキ。老いに必死で抵抗し、美容整形に励む未亡人。常識の無い金持ちの三十路の姉妹。
ビーチクラブの風変わりな面々が入り乱れる中、突如ミランダが失踪する。

感想 私の心酔する作家の一人である”マーガレット・ミラー”。今まで沢山のサスペンスや異常心理物を読んできたけれど、この作家を超えるほどに驚かせてくれた人は今の所いない。まさに「やられた〜〜」が多いのだ。 このジャンルに限っていうなら彼女を超える作家はいないのではないかとさえ思う。 今でこそ精神に異常をきたした人物が主人公なんて普通のことだが、この時代に書いた事にこそ意義があるのだし、今読んでも何の遜色も無いことに驚きを禁じえない。
本作はミラー作品の中では一番ユーモラスだと思う。読みやすい作品でもあると思うが、どっちかというと”ミステリ上級者”に向くのではないかと思うが如何だろう?
とにかく面白いので読んで欲しい。お薦めしたい。いつか絶版になると思う。急がれたし!。(心憑かれて という作品も秀作です。一緒に探してね♪)

ネタバレ ミステリの形式を完全に外れています。推理小説を読んでいて、想像している方向に向かわないって嬉しい誤算ですよね。まず題名からして凄い。「ミランダ殺し(THE MURDER OF MIRANDA)」。
ミランダ夫人はいつ死ぬのかとドキドキしていたが一向に死なない。突然、プールの監視員のおにーちゃんと失踪し ”すわ!どっかで殺られたか?!”と思っていたら元気に美容整形に勤しんでいる。
いつになったらこの女は殺されるんだろうか?と思っていたらいつまでも元気に生きている。
やっと死人が出たーと思ったら何と別人・・・。(この時、既に終盤に近いページ)
ユーモア・ミステリー風の本作だがそれで終わらないのがミラー作品の醍醐味。
最後まで想像を覆され、身悶えいたしました。
一体誰がミランダを殺すのか?その謎は読んでからのお楽しみ〜〜♪
この読後感が味わいたくてマーガレット・ミラーを追いかけるんだよね。

ネタバレは*から*までをコピーして頂くと読めるようにしてあります。



鉄の門
(THE IRON GATES)
早川ミステリ文庫 初版:1977(S52)年10月10日
あらすじ 中年の温厚な医師を夫に持ち、先妻の残した二人の子供と義妹との五人暮らしを送るルーシー。傍目には幸福そうな家庭にありながら、彼女だけは、未だに16年前に変死を遂げた先妻の夢を見るほど不安に苛まれていた。ある冬の朝、奇妙な風体の見知らぬ男がルーシーに一つの小箱を渡して立ち去った。その後まもなくルーシーは忽然と姿を消してしまった。家人をはじめとする捜索の末、彼女はとある病院の鉄の門の中に発見される。正体なき恐怖に怯える若き後妻の心理と本格的謎が一体となった女史会心の作。

感想 この作品は1945年に発表されたものだ。私がこの作品を読んだ当時は、『ミステリとはトリックが有るもの、名探偵が必ず登場し、読者を驚かすトリックが存在するもの』だと信じていた。そしてミステリ作家の大部分は謎解きが良ければそれで良いのだと、文章の良し悪しなど考えた事が無かった。その私の考えを根底から覆してくれた作家がこのミラー女史なのだ。凝った謎解きを求められる方には物足りないだろうが、”ミラーならではのミステリー”を是非、一度味わって欲しい。そして他のミステリ作家には無い文章の美しさを味わって欲しい。ミステリを”単なる犯罪解決のお話”で終らせない手腕を味わって欲しい。今でもそうなのだが、読みながらハラハラドキドキさせてくれる数少ない作家だ。
 この作品は何の先入観も持つ事無く読まないとお楽しみが半減するので感想は書き難いのでちょっとだけ。家族に殺される、狙われていると怯え、精神を病んでいく主人公の描写にぞくぞくしますぞ。  
備考 早川から出ていた本書は絶版です。