13の凶器13の暗号

渡辺 剣次編 アンソロジー作品紹介

編者紹介

本名・渡辺健治。
元探偵作家クラブ書記長。

とても贅沢なアンソロジー集だ。戦前、戦後に発表された作品の中から選び出されている。テーマ毎に分類されていて「13の暗号」は特異な暗号を核にした短篇が13作品、「13の凶器」はおよそ殺人手段とは考えられないトリックを使った短篇が13作品収められている。
他に「13の密室」と「続・13の密室」が上梓されているが、子供の頃から密室物には興味が無かったので”密室物”の二作品が抜けているが、NETオークション等では暗号&凶器の方が 希少みたいだ。(勿論、絶版です)



13の凶器 講談社 初版昭和51年3月8日
夢遊病者の死 江戸川 乱歩 大正14年「苦楽」初出。デビューから16作品目。トリッキーな作品。昭和40年、70歳で死去。
ネクタイ難 堀 辰雄 昭和5年「新青年」初出。氏の書いた最初で最後のエンタメ作品。昭和38年、50歳で死去。
デパートの絞刑吏 大阪 圭吾 昭和7年「新青年」初出。本格推理作家。終戦の年、フィリピンで戦病死。33歳。
点眼器殺人事件 海野 十三 昭和9年「富士」初出。本作は探偵帆村荘六シリーズの一遍。ユーモラスで自由奔放な筆致。日本SF界の始祖らしい。24年、51歳で逝去。
鉄管 大下 宇陀児 昭和11年「サンデー毎日」増刊号初出。本作は密室トリックに重点を置いた作品。41年、69歳で逝去。
債権 木々 高太郎 昭和12年「探偵春秋」初出。大心池博士(神経病科の大家)シリーズの一遍。ご本人が大脳生理学者で医学博士、慶應義塾大学医学部教授だった。直木賞受賞作家。44年、72歳で逝去。
密室殺人 妹尾 アキ夫 昭和12年「新青年」初出。戦前、欧米の本格推理小説を翻訳されていた方。本作は氏には珍しい本格派作品。37年、70歳で逝去。
涅槃雪 大坪 砂男 昭和24年「宝石」初出。昭和40年、貧困のうちに60歳で逝去。高木彬光&山田風太郎&島田一男&香山滋とともに”戦後派五人男”と呼ばれた。
氷川 瓏 昭和26年「宝石」初出。江戸川乱歩氏の推薦で作家デビューを果たす。極端に寡作作家だったらしい。
氷山 狩 久 昭和26年「別冊宝石」初出。懸賞に応募した作品で、この作品のトリックを乱歩氏が絶賛されたそうだ。
凶器 松本清張 昭和33年「週刊朝日」初出。佐賀が舞台の作品。方言がたっぷりで面白い。黒い画集として発表された短編集の一篇。
九電渓 陳 舜臣 昭和37年「小説中央公論」初出。初期作品。一人の革命家の悲痛な最後を描く。
剣のつか 都筑 道夫 昭和42年「推理界」初出。「キリオン・スレイの生活と推理」の第一話。
 



13の暗号 講談社 初版昭和50年11月8日
二銭銅貨 江戸川 乱歩 大正12年「新青年」初出。本作でデビュー。作家であり、評論家であり、推理作家界のリーダーでもあった。昭和40年70歳で逝去。
アラディンのランプ 甲賀 三郎 昭和8年「新青年」初出。怪弁護士手塚竜太シリーズの一遍。乱歩のライバル作家と呼ばれた。終戦の年、旅先の岡山で急死。没年52歳。
司馬家崩壊 水谷 準 昭和10年「新青年」初出。戦前の探偵小説の檜舞台であった「新青年」の編集長を17年間つとめた。小栗、木々、久生、獅子等を発掘、育成した。
獏鸚(ばくおう) 海野 十三 昭和10年「新青年」初出。新青年編集長水谷が題を付け、これに応戦して「課題小説」として書き上げた、トーキーフィルムに暗号を絡ませた作品。昭和24年、逝去。
闖入者 大阪 圭吾 昭和11年「ぷろふいる」初出。戦前の数少ない本格派の一人。この作品のトリックには”ダイイングメッセージ”が使われている。フィリピン、ルソン島で戦病死。
虫文学 木々 高太郎 昭和11年「令女界」初出。楽譜とロシア語を媒介とする難解な暗号が中核をなす作品。慶應義塾大学医学部教授で医学博士。44年、72歳で逝去。
風車 岩田 賛 昭和23年「黒猫」初出。山田風太郎、島田一男、香山滋氏と同時期に雑誌の新人賞に入選。トリックを核とした本格物を著した。25年筆を折り、地方公務員として勤務した。
暗号海を渡る 九鬼 紫郎 昭和23年「ミステリイ」初出。甲賀三郎に師事し、創作と評論で活躍。ユーモア物、サスペンス、捕物帳、時代小説も著す。京都の同人雑誌から出発した「ぷろふいる」の編集長10年から廃刊までつとめる。
粘土の犬 仁木 悦子 昭和32年「宝石」初出。初期短篇。氏としては珍しく凄みのきいた作品。トリックは、幼い盲目の目撃者による一種のダイイングメッセージ物。
侘び証文 火野 葦平 昭和33年「宝石」初出。純文学作家として有名だが、氏は熱烈な探偵小説ファンであったらしい。江戸川乱歩が雑誌「宝石」の再建の為、氏に執筆依頼しそれに応えて書いたのが本作。昭和35年没。
三億円犯人の挑戦 佐野 洋 昭和45年「小説現代」初出。昭和43年の”三億円事件”に材をとった作品。乱歩氏の「二銭銅貨」を意識した作品のようだ。
新魚の罠 幾瀬 勝彬 昭和46年「推理文学」初出。本作は乱歩氏の「二銭銅貨」に対抗して書かれた作品。戦後20年近く放送業界で働いた後、作家となる。
砂の時計 鮎川 哲也 昭和47年「別冊小説現代」初出。クイーン好きだった氏らしい”ダイイングメッセージ物”。はじめ犯人捜し物として書かれたが、難解すぎるとして編集者から拒否されたという、いわくつきの作品。