わたしのなかのあなた/すべては遠い幻/偽りをかさねて/19分間/二人だけの約束


ジョディ・ピコー(JODI PICOULT)作家略歴&著作の感想
作家名 ジョディ・ピコー(JODI PICOULT)
生年月日 1966年
生誕地  ニューヨーク州生まれ
処女作  『Songs of the Humpback Whale』
デビュー年 1992年
公式サイト http://www.jodipicoult.com/

作家略歴

1966年ニューヨーク州生まれ。プリンストン大学、ハーヴァード大学大学院に学ぶ。1992年、Songs of the Humpback Whaleで作家としてデビュー。衝撃的なテーマと繊細な語り口を併せ持つ、力ある作品を書きつづけていたが、その名声を一気に高めたのは、第11作の『わたしのなかのあなた』(2004年)であった。難病の姉とドナーの役目を課された妹をめぐる家族の葛藤の物語は、全米の反響を呼び、日本でも話題となった。邦訳はほかに『偽りをかさねて』がある。高校の銃乱射事件を題材とした最新作Nineteen Minutesも早川書房より刊行予定。 本国では14作、上梓している。


判る範囲で著作リスト(2009年12月現在)
Novels
Songs of the Humpback Whale: A Novel in Five Voices (1992)
Harvesting the Heart (1993)
Picture Perfect (1995)
Mercy (1996)
The Pact (1998)『二人だけの約束』
Keeping Faith (1999)
Plain Truth (2000)
Salem Falls (2001)
Perfect Match (2002)
Second Glance (2003)
My Sister's Keeper (2004)『わたしのなかのあなた』
Vanishing Acts (2005)『すべては遠い幻』
The Tenth Circle (2006)『偽りをかさねて』
Nineteen Minutes (2007)『19分間』
Change of Heart (2008)
Handle with Care (2009)
House Rules (2010)

わたしのなかのあなた
(MY SISTER'S KEEPER)
早川書房単行本(ソフトカバー) 初版2006年9月30日
あらすじ  アナ・フィッツジェラルドは13歳。白血病を患う姉ケイトのドナーとなるべく、遺伝子操作によってデザイナー・ベイビーとして生まれてきた。それ以来彼女は、臍帯血の提供にはじまって、輸血や骨髄移植など姉の治療のためにさまざまな犠牲を強いられてきた。ケイトの病状は一進一退を繰り返し、両親はついに残された最後の手段である腎臓移植を決意する。だが、アナはこれを拒み、弁護士を雇い両親を相手取って訴訟を起こす。「もうこれ以上、姉の犠牲にはなりたくない。自分の体に対する権利は自分で守りたいの」と。突然の娘の反乱に戸惑う両親。しかし、アナの決意は変わらない。はたして前代未聞の裁判の行方は?そしてケイトとアナの姉妹の運命は…!?。

 
感想  ラストに驚愕のオチが用意されていて〜この作家、巧いけど あざといなぁ〜って(笑)。キャロル・オコンネルの「クリスマスに少女は還る」っぽいと言えば分かるでしょうか?(謎。
ストーリーはいたって簡単で・・・フィッツジェラルド夫妻は、白血病になった娘を助けるために遺伝子操作して子供を作る。姉と全く同じ遺伝子を持つ子供アナは、生まれた瞬間からドナーとして生きていく宿命を背負っている。アナは、幼い頃から健康体にもかかわらず、姉のために入院、施術を繰り返され〜最後には腎臓を一個提供しろと両親に言われる。当然のように腎臓を提供すると思われていることに、姉の為だけに生きているように扱われることに嫌気が差したアナは弁護士を雇い、裁判を起こす・・・といった展開です。アナが裁判に勝ち腎臓の提供を拒めるなら、それはイコール姉の死を意味するので、両親は何としてもアナを翻意させようとするのですよね。なんせ、アナの母は元弁護士なので、弁護士を雇わずに裁判に臨むんだけど〜一つ屋根の下に弁護士と原告が一緒に住んでいて、そんでもって親子なんだから揉めに揉めます(笑)。
この物語の進行は主要登場人物の語りで(一人称)進んで行くのですが〜この作品は登場人物の内、誰に感情移入出来るかで、評価が変わってくると思います。わたしはというと、『この母親がどうしても許せない、これは一種の虐待だ』と思いつつ読み進みましたので、ラストには憤りというか〜納得できない・・・ってか、これ以上はネタバレになるので書けませんが(笑)。ただ、巧いなぁ〜と思いつつ、子供を主人公に据える作品はケチィなと思うワタクシは「すべては遠い幻」の方が物語的には好みでした。 作家名INDEXホームへ戻る



すべては遠い幻
(VANISHING ACTS)
早川書房単行本(ソフトカバー) 初版2007年7月25日
あらすじ ディーリア・ホプキンズ、32歳。幼いときに母親を亡くし、以来父親の手ひとつで育てられた。父の深い愛情に包まれ、何不自由ない少女時代ではあったが、やはり母のいない寂しさは埋めようがなかった。母が生きていてくれたら、とことあるごとに夢見ながらおとなになった。ところがある日、衝撃的な出来事が起こる。父の逮捕。容疑は28年まえの幼児誘拐。被害者はなんと、当時4歳だったディーリア自身。離婚した妻のもとから彼女を連れ出して、28年間、身分を偽り、真実をひた隠しにして生きてきたのだった。ディーリアは激しく動揺する。愛する父が犯罪者? 母は生きているの? わたしはほんとうは誰なの? 幻のように消えてしまった自分の過去を探る彼女は、やがて苛酷な真実と向き合うことに……。(2008年1月24日読了)

 
感想  この作品を手にしたのは題名と装丁が良かったから(笑)。という事で、何の前知識も持たずに読んだのですが〜驚きました。文章に癖があるというか独特のスタイルがあって、それに慣れるまで違和感を感じましたが、それを吹っ飛ばすくらい物語の動かし方が好いのですよね。章立てといい、文章といい、技巧派だなという印象です。新人さんにしては巧い作家だなぁ〜と感心しつつ読んだのですが、読後に公式ホムペを見て納得。すでに本国では14作品も上梓されているのだそうです。一人称で描かれているのですが、その視点が章毎に変わり、主要登場人物たちの見た目で物語が進んでいきます。この辺が良いんですよね〜。語り手が変わることによって、物語を多視点から見せられるというか、奥行きを感じるというか、とにかく巧いです(笑)。テーマは誘拐、アルコール依存症、親子の確執と暗く重いのですが、魅力的な脇役にコミカルさを持たせる事によって難なく暗さを消しています。本の感想を詳しく書くと、ラストのお楽しみを邪魔してしまうので触れません。お奨め作品ですし、私自身もピコーの他の作品が気になる♥。ファンになりそうな予感がします。14作品全ての邦訳を待ちたいと思います。(2008年1月21日読了) 作家名INDEXホームへ戻る




偽りをかさねて
(THE TENTH CIRCLE)
早川書房ソフトカバー 初版2007年4月27日
あらすじ  漫画家で家庭的な父親ダニエルと、優秀な学者の母親ローラ、そして二人に愛されて育った娘トリクシィ。平凡な一家の穏やかな生活は、ある日突然崩れ去った。14歳のトリクシィがボーイフレンドから暴行を受け、心に深い傷を負ったのだ。世間の冷たい視線にさらされ、彼女の苦しみは頂点に達する。娘をなんとか守ろうとする両親だったが、現実は容赦なかった。事件をきっかけに、一家は思いもよらない真実に次々と直面することとなる。ローラは不貞を告白せざるをえなくなり、一方ダニエルの内部では、遠い昔に葬った荒々しい人格が呼び覚まされる。そして被害者のトリクシィ自身の供述にも、ほころびが生じてくる。三人三様に身にまとっていた偽りがひとつずつ剥がされ、やがて最悪の事態が一家を……。

 
感想  ん〜。確かに巧いなと納得できる出来なのですが、好きか嫌いかと問われたら・・・嫌いだと答えるかもしれない作品です。作品の出来不出来で判断しているのではなくて、ただ単に登場人物へ感情移入出来ず、理解も出来なかった・・・ただそれだけが原因です。その理由は日記にも書いたのでここには書きませんが。それと、もう一つ気になったのは、作中に漫画が挿入されているんですよね。主人公の父親が漫画家という設定で、その父親が書いた漫画が章が終わる毎に挟まれているんですが〜この漫画が必要だったのかどうか疑問です。40数ページも紙を費やした割には何のインパクトも無いし、その存在意義がわたくしには分かりませんでした。まぁ、分かるはずも無いんですよね。漫画を見て漫画の良さを感じられるのなら、わたしは活字好き、小説好きにはなっていないでしょうから。
それと、わたしがこの主人公の少女に感情移入できなかったのは、ひょっとすると自分の周りに子供の存在が無いから理解できなかっただけかもしれません。今日日、14歳でドラッグを使い性交もありなんていうのは普通なのかもしれないので、そういう事がストーリーの骨子になるのは理解できますが・・・本作はその少女の自分勝手さで他人を殺してしまうという展開なんですよね。で、どっちかというと、主人公である少女とその家族が加害者であるように、最初から見えてしまったんですよね。少女とその家族に感情移入できなかったのは、わたくしに子がいないせいかもしれませんので〜わたくしの感想は当てにはならないのかもですね(笑)。ただ、ピコーを初めて読まれる方に本作はお奨めしません。 作家名INDEXホームへ戻る

19分間
(Nineteen Minutes)
早川 イソラ文庫上下巻 初版2009年11月10日
あらすじ  スターリングは平穏な町だった―。3月のある日、高校で銃乱射事件が起こり、多数の生徒の未来が損なわれるまでは。校内で人気の女子生徒ジョージーは、目の前で恋人を殺され、事件が起きていた19分間の記憶を失う。犯人は、幼少時にはジョージーと親友だった同級生のピーター。なぜ彼は凶行におよんだのか?どうしてジョージーは銃を向けられながらも射殺されなかったのか?。町中が悲嘆に沈むなか、裁判がはじまり、事件の背景が明らかになってゆく。

 
感想  米国コロラド州のコロンバイン高校内で起きた銃乱射事件が物語の下敷きになっているんだろうなとすぐに分かる内容です。マイケル・ムーア監督の手によるドキュメンタリー映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」をご覧になった方も多いのではないかと思うのですが。で、物語の方はというと・・・
助産師レイシー・ホートンの息子ピーターは幼稚園の初登校の日から酷いいじめに遭っていた。判事のアレックス・コーミアの娘ジョージーはそんなピーターを幼い頃から庇い続けていた。アレックスとレイシーがとある事件を境に付き合いが途絶えても、ジョージーとピーターは仲良しのままだった。ピーターは幼稚園時代から続く虐めに耐え続け、ジョージーはそんなピーターを庇うという生活は高校にあがっても変わらなかったのだが、幼馴染の二人にもひずみが生じ関係が疎遠になっていく。美しく成長したジョージーはいじめグループのリーダーマットのガールフレンドとなり生徒の羨望の的となるが、ピーターは学校の虐められっ子のまま・・・。そんなある日、学校前で爆発音がした。何事かとざわめく食堂内の生徒たちが目にしたのは、銃を片手に乱射しつつ飛び込んできたピーターだった。彼は銃を乱射しつつ逃げる生徒たちを追走。警官が学校に駆けつけたときには校内には累々と横たわる遺体と重傷者の血で真っ赤に染まり・・・という展開です。コロンバインの事件と違うのは、犯人のピーターは射殺されずに生き残るんですよね。生き残ったもんだから、彼は10人を射殺し19人を殺し損なったという罪で裁かれることになるんだけど、ピコーの描く物語がただの裁判物で終わるはずも無く、ピーターとジョージーの幼少時から現在までが読者の前に姿を現します。でね、こういう重いテーマを扱う作品となると社会派で硬い物語なのかなと思われるでしょうが、ピコーが手掛けると個人の物語に仕上がってくるんですよね。銃を乱射した少年、なぜかただ一人だけ無傷ですんだ犯人の幼馴染、そして犯人の親や被害者の親、幼馴染の親などなどそれぞれの現在や過去が複雑に絡み合い、物語は進んでいくのですが〜お勧め作です。前作『偽りをかさねて』はピコーファンのワタクシでも感情移入しにくい作品でしたが、本作は文句なしにお勧め出来る作品です。が・・・ミステリとして読むというよりは、普通小説と捉えて読まれた方が良いかもです。子供さんを持つ方持たない方、それぞれが考えさせられる作品だと思います。

 ピコー作品を読む度に思うのですが、文章の一文一文が重いんですよね。意味をじっくりと考えつつ読み、意味が咀嚼できなければ繰り返して読むもんだから、読了までに非常に時間が掛かる。文章が小難しいわけじゃないのに、これが不思議でしょうがないんですよね。特に、ピコーが書く子供の感情部分が好くてさらっと流せないんですよね。文章が、あまりにも登場人物のキャラクターと合うもんだから、さらっと読み逃せない味があります。それと訳者の川副智子さんが良いですね。彼女の文章には全く癖が無くて、訳者さんの色がありません。訳者の色を消すって難しいことだとおもうんですよね。彼女のさらっとした訳文と、ピコーの描くリアリティいっぱいの物語がマッチしています。それと、原題の『Nineteen Minutes』は、物語の登場人物たち全ての運命を変えた、銃の乱射時間を指しています。 作家名INDEXホームへ戻る



二人だけの約束
(The Pact)
早川書房イソラ文庫 初版2010年5月10日
あらすじ  高校生のクリスとエミーは誰もが認める理想的なカップルだった。隣同士の家に住み、赤ん坊のころから仲良しで、お互いのためにあつらえたような幸せな二人だと思われていた―その事件が起きるまでは。通報によって駆けつけた救急隊員が発見したのは、頭を撃たれ死亡したエミリーと、負傷したクリスだった。当初は強盗かと思われたが、クリスは心中を図ったのだと説明する。しかし、警察は疑いを深める。心中は偽装で、クリスはエミリーを殺害したのではないだろうか?。

 
感想  ニューハンプシャー州郊外の裕福な住宅地に住むハート家とゴールド家はお隣同士。ハート家の長男クリスとゴールド家の長女エミリーは同い年で、小さなころから常に一緒に育ち、兄妹というよりは双子のような関係だった。幼い頃から一心同体で、互いがいないことなど考えられないような強い絆で結ばれていた。そして、二人は成長し、当然のように恋人同士になる。両親も周囲も二人の関係は結婚にまで行くだろうと露ほども疑っていなかったのだが・・・ある日。二人は心中を図り、エミリーは死亡。クリスも頭部に重傷を負い、病院へ運ばれる。二人の幸せを信じて疑わなかった両家の両親は愕然とする。そして、死んだエミリーの銃傷が自殺とは思えない創だったことから、クリスは第1級謀殺罪で逮捕され・・・という展開です。相変わらず、ピコーは人の心のひだを描くのが巧く、主要登場人物たちの苦悩が押し寄せてくるようでした。いったい真実はどこにあるのかと気になりながらも、登場人物たちに感情移入してしまい、読み進むのが苦しいほどでした。弱冠18歳のクリス青年が成人として刑務所に収監され、悪くすれば終身刑もありうるという状況なので、もしも子を持つ方が読まれたならドキドキは尋常じゃないと思われます。物語は現在と過去を行ったり来たりし、真実がなかなか見えて来ず、読者をやきもきさせるんですよね。ピコーのいつもの技なのですが、分っていてもやっぱりドキドキさせられます(笑)。 ただし・・・エミリーが自殺に至る動機というか理由付けみたいなものが、弱くて曖昧にしか描かれていないのですよね。物語の中で語られてはいるんだけど、そんな理由くらいで死を選ぶかなと疑問でして、その点が唯一、消化不良でした。その点から見ると『19分間』の方が作品としては、かなり出来が良かったのですよね。で、考えると・・・『二人だけの約束』は本国では1998年に上梓された作品なんですよね。対して『19分間』は2007年の作品で、ピコーはこの9年間の間に格段の飛躍を遂げているのだと思います。もし、版元が古い作品を邦訳してくれるのならば、出来るなら出版順に読ませてくれたらなと思います。もし、ピコーに初めて挑戦される方だったら、是非とも出版順で読まれた方が、より楽しめるんじゃないかと思います。


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