キングの死/川は静かに流れ/ラスト・チャイルド


ジョン・ハート(John Hart)作家略歴&著作の感想
作家名 ジョン・ハート(John Hart)
生年月日 1965年
生誕地  米国ノース・カロライナ州ダラム
処女作  『The King of Lies(キングの死)』
デビュー年 2006年
公式サイト http://www.johnhartfiction.com/

作家略歴

 1965年、ノース・カロライナ州ダラムに生まれ、現在も同州に在住。幼少期を本書の舞台となったローワン郡で過ごす。デイヴィッドソン・カレッジでフランス文学、その後大学院にて会計学と法学の学位を取得した。会計、株式仲買人、刑事弁護などさまざまな分野で活躍したが、やがて職を辞し、作家を志す。一年間図書館にこもって執筆した『キングの死』が、デビュー作とは思えない高いクオリティが多くの出版社に注目され、争奪戦が勃発。発売後も全米各紙誌で絶賛され、新人としては異例のセールスを記録した。

Awards
Macavity Awards First Novel nominee (2007) : The King of Lies『キングの死』
Barry Awards First Novel nominee (2007) : The King of Lies『キングの死』
Edgar Awards First Novel nominee (2007) : The King of Lies『キングの死』
Edgar Awards Best Novel winner (2008) : Down River『川は静かに流れ』アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

Novels 著作リスト
The King of Lies (2006)『キングの死』
Down River (2007)『川は静かに流れ』
The Last Child (2009『ラスト・チャイルド』
The Iron House (2010)

キングの死
(The King of Lies)
早川書房文庫 初版2006年12月
あらすじ  失踪中の辣腕弁護士が射殺死体で発見された。被害者の息子ワークは、傲慢で暴力的だった父の死に深い悲しみを覚えることは無かったが、ただ一点の不安が。父と不仲だった妹が、まさか…。愛する妹を護るため、ワークは捜査への協力を拒んだ。だがその結果、警察は莫大な遺産の相続人である彼を犯人だと疑う。アリバイを証明できないワークは、次第に追いつめられ…。デビュー作。  

 
感想  いやぁ〜。これがとてもデビュー作とは思えないってほど、よくまとまった作品です。どこが巧いのかと考えてみると、やっぱりキャラクター造形に秀でているんだろうと思います。というのも・・・主人公の弁護士ワークが物凄く嫌なやつなんですよね。やり手で郡で一番稼ぐ弁護士の子である主人公は父親の言うまま弁護士になり、父親の言うまま名家の子女を嫁に迎えるんですよね。親の言う相手と結婚するために付き合っていた女性と別れちゃったんだけど、結婚後、上流家庭で生まれ育った我侭な嫁と巧く行かず、分かれた彼女と不倫関係を結ぶような自分勝手な男なわけです。そんでね、男尊女卑の父親とワークの妹は揉めていたんだけど、その親子喧嘩の最中に止めに入った母親が事故死しちゃうわけです。母親の加勢をすれば父親に逆らうことになるからと黙ってみていたワークに妹は敵意を抱き、家族関係はボロボロになっちゃうんですよね。でね、この事故の直後に主人公の父親が失踪し後に射殺体で発見されるんだけど、この主人公は妹の犯行と勝手に思い込み証拠やらを隠してしまい、その挙句 自身が犯人と疑われ・・・という展開なのですが、この主人公の嫌な男加減が鼻についてね〜(爆)。父親に支配され、自身が気付かぬまま周りの人間を傷つけて来た主人公が、父親の死を契機に、家族の再生に挑む物語といった雰囲気の作品で、どっちかというとミステリ味は薄いかもしれません。それと〜読んでいて作風が全く違うのにもかかわらず、なぜかT・J・パーカーを髣髴とさせる作家です。パーカーも家族がテーマの作品が多いので似て見えるのかもしれませんが、このジョン・ハートもパーカーのように大化けするのかも?しれません。期待大の新人作家で、お勧めです。

版元の粗筋に「スコット・トゥローの再来と激賞されたデビュー」とありますが、法廷物・リーガルサスペンスではありませんので、リーガルだと思って手に取られると拍子抜けされるかも。 作家名INDEXホームへ戻る



川は静かに流れ
(Down River)
早川書房文庫 初版2009年2月10日
あらすじ  僕という人間を形作った出来事は、すべてその川の近くで起こった。川が見える場所で母を失い、川のほとりで恋に落ちた。父に家から追い出された日の、川のにおいすら覚えている」殺人の濡れ衣を着せられ故郷を追われたアダム。苦境に陥った親友のために数年ぶりに川辺の町に戻ったが、待ち受けていたのは自分を勘当した父、不機嫌な昔の恋人、そして新たなる殺人事件だった。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

 
感想  作者自身も冒頭の謝辞で述べているけれど、本作も前作と同じく家族の物語です。で、作者は2作目にして大化けしてます(笑)。前作は、主人公の男性が自分本位で嫌なやつのくせに被害者意識の強い男で、個人的に好きになれなかったので「この作家巧いぞ」と思いつつ、シリーズ化して欲しいというまで好みでは無かったのですよね。が、本作は主人公が好いので感情移入出来、読み終わるのが勿体無い感じでした。
で、物語はというと・・・主人公アダム・チェイスは5年ぶりに故郷に戻る。5年前、アダムは19歳の少年を撲殺したとして裁判にかけられるのだが証拠不十分で無罪となる。だが、町の住民だけではなく家族までチェイスの無罪を信じず、彼は故郷を追われるように出て行ったのだ。その彼が故郷に戻ったのは幼馴染のダニーが手を貸して欲しいと電話を掛けて来たからなのだが、5年ぶりの故郷は原子力発電所の誘致で賛成派と反対派が揉めに揉めていた。そして、アダムが戻った途端、事件が多発し・・・という展開です。アダムが故郷に舞い戻ったところから物語は始まるのですが、なぜアダムが逃げるように出て行ったのか、なぜアダムが逮捕されたのかといった過去が読者に明かされていくのですが、この現在と過去を重ねて進んで行く過程が良いんですよね。過去が明かされる事によって、登場人物たちの現在の関係や家族間の軋轢の理由などが自然に読み手の頭に入って来て、大変に読み易い物語です。この点は前作も一緒だったんですけど、ハートの描く物語は交通整理(?)されていて、自然に頭にしみ込んでいくといった感じなんですよね。そして、ラストが好いんですよね。こういう、ラストに救いのある物語はたとえ物語自体が重く暗くとも「次もまた読みたいなぁ」と思わせてくれます。お勧め作ですけど、作者の成長を見る意味で、前作から入られる事をお勧めします♪。 作家名INDEXホームへ戻る



ラスト・チャイルド
(The Last Child)
早川書房PB 初版2010年4月10日
あらすじ  十三歳の少年ジョニーは、犯罪歴のある近隣の住人たちを日々監視していた。彼は、一年前に誘拐された双子の妹アリッサの行方を探しているのだ。美しい少女だった妹は何者かに連れ去られたが、警察はいまだ何の手がかりも発見できずにいた。ジョニーの父親も、娘が誘拐されてまもなく謎の失踪を遂げていた。母親は薬物に溺れるようになり、少年の家族は完全に崩壊していた。ジョニーは学校を頻繁にさぼり、昼夜を問わない危険な調査にのめり込んだ。ただひたすら、妹の無事と家族の再生を願って―英国推理作家協会賞最優秀スリラー賞受賞作。

 
感想  感動しました(笑)。これを、ミステリという狭い範疇に入れていいのか?ってほど出来の良い物語で、多くの人に読んで欲しいなと思います。普段、ミステリを手に取られない方にもお勧めしたい。で、内容はと言うと・・・。
13歳のジョニーは学校へも行かず、妹の写真と地図を手に日々妹の捜索をし、近隣に住む性犯罪者達の住む家を訪ね歩き、住人たちを監視していた。ジョニーの双子の妹アリッサは、1年前に男が運転する車に乗り込んだ姿を目撃されたのを最後に、行方不明になっていたのだ。父親も事件直後に家を出て行方をくらましており、ジョニーは母親と二人っきりで生活していた。だが、父親の失踪後、母親は薬物に溺れ、家には美人の母親目当ての町の有力者ケンが入り浸るようになり、ジョニーの家庭は完全に崩壊していた。ジョニーは幸せだった日々を取り戻そうと、ただひたすら妹を探し求め捜索を続けるのだが・・・という展開です。
ま、一言で言うなら、13歳の少年ジョニーが妹のアリッサを探すという単純なストーリーなんですよね。この、少年が必死で妹を探し求め、捜査をする過程が描かれているんだけど、捜査の過程で重大な転機に出くわすわけです。ジョニーは目の前で殺人事件を目撃してしまうんだけど、死に際の被害者が「あの子を見つけた。連れ去られた少女」というダイイング・メッセージを残すんですよね。ここから物語は真相へ向かって突っ走るんだけど〜もう圧巻の結末です。そして、物語自体も良いんだけど、それ以上に登場人物が好いんですよね。必ずや、主人公の少年や、少年を助けてやりたいと思っているハント刑事に感情移入できること、間違いありません。これ以上はバラせませんので終わりますが、四の五の言わずに読め!買え!と言いたい(笑)。予想ですが、今年読んだ本の中のベスト3に、必ずや入るだろうなと思ってます。



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