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ジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)作家略歴&著作の感想
作家名 ジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)
生年月日 1950年
生誕地  アメリカ シカゴ郊外
処女作  **
デビュー年 不明
公式サイト http://www.jefferydeaver.com/


ジェフリー ディーヴァー 略歴

初めて小説を書いたのはなんと11歳だったらしい。弁護士資格を持ち、1990年までウォール街にお勤めしていたそうな(専門は会社法)。その後、専業作家となる。
ウィリアム・ジェフリズなる別名で上梓された本もある(ジョン・ペラム物)。離婚されていて、現在はシェパードとワシントンDC郊外とカリフォルニアに住む。最初に出版された本は現在、絶版で二度と復刊はしないそうだ。 題名は「VOODOO(超自然現象を扱った本)」と「ALWAYS A THIEF(美術品窃盗犯の犯罪を扱った本)」。 コナン・ドイル著「バスカヴィル家の犬」やイアン・フレミング著「007シリーズ」が愛読書だそうです。 公式サイトにファンからの質問に答えたQ&Aコーナーがあります。プライベートな内容が満載で愉しめます。

  世界的なベストセラー作家で、世界25カ国で翻訳されており、日本でも人気の高い作家です。
殆どの作品が(殆ど全て)三人称多視点で描かれているのが特徴で、映画の場面が変わるかのような章割りのお陰でスピード感のある作品が多いです。『眠れぬイヴのために』以降の作品からこの傾向が強くなっている気がします。

著作に、ジョン・ペラムシリーズ(早川書房)、リンカーン・ライムシリーズ(文芸春秋社) 「悪魔の涙」(文芸春秋社)、「青い虚空」(文芸春秋社)、「死の教訓」(講談社)等があります。
また、初期の作品は早川書房から出版されています。
他著作:「静寂の叫び」「監禁」「ヘルズキッチン」「ブラディーリバーブルース」
「ボーンコレクター」「エンプティーチェア」「死の教訓」「石の猿」 等多数。
2004年春に本国で短編集が上梓された模様。待ち遠しい。

注・日本ではジョン・ペラム シリーズをジェフリー・ディーヴァー名義で出版していますが実際にはウィリアム・ジェフリズ名で上梓されたものです。作風が異なりますので(ペーパーバック風)現在のディーバーを好まれる方にはイマイチかもしれません。

監禁
(SPEAKING IN TONGUES)
早川書房 ハード初版1998年2月20日
あらすじ 復讐―アーロン・マシューズの頭を渦巻いているのは、その一語だけだった。それもたんなる復讐ではない。すべては正義の裁きであり、神の意思なのだ。綿密な計画を練り上げたアーロンは、ミーガンという名の17歳の少女を誘拐、人里離れた教会に監禁する。彼女を十字架に磔にして、二日後に殺害するために…。一方、弁護士のテイトは、突然姿を消した娘のミーガンの行方を案じていた。彼女は泥酔して事件を起こし、警察に補導されたばかりだったうえに、部屋には両親へ宛てた書き置きを残していた。家出であることははっきりしているかに見える。しかし、テイトには納得できなかった。悪い予感にとらわれた彼は、友人の刑事に協力をあおいで捜索を開始するが。狂気に満ちた謎の誘拐犯と、それを必死で追う者たち―。同時進行する二つの物語が交錯するとき、そこには思いもかけぬ真実が浮かび上がる。
 
感想 『ボーン・コレクター』以降のスピード感のある作品を好まれる方にはちょっと物足りないかもしれませんが、楽しめる作品です。
ディーヴァー作品にはどんでん返しのある作品が多いのですが、本作にも『おっ』と思わせてくれる手法が取られています。叙述とまでは行かないのだけれど読者の勝手な思い込みを利用すると言うか相変わらず巧いです。
ちょっと難があるといえばラストの犯人との対峙でしょうか。ちょっと『あまりにもうまく行きすぎだな』とは思いますが作者の成長の過程を見るのだと思えばこれも楽しみの一つです。
本作の主人公は弁護士とその娘。ディーヴァー自身が弁護士だったのに弁護士が主人公の作品ってこれだけじゃないかな?。
それと・・・訳がごにょごにょです・・・。

 
静寂の叫び 早川文庫(上下巻) 文庫初版:2000年2月
あらすじ 聾学校の生徒と教員を乗せたスクールバスが、カンザス州を走行中に3人の脱獄囚に乗っ取られた。彼らは食肉加工場に、生徒たちを監禁してたてこもる。人質解放交渉の知られざる実態を描いた新感覚サスペンス。

感想 面白い事にディーバー ファンには二種類が存在するんだよね。この”静寂の叫び”や”監禁””眠れぬイヴのために”等の初期作品を面白いと評価しないファンと、初期作品の雰囲気が好きだという人がいる。初期作品は、ライムシリーズが好きでファンになった人にはお気に召さないのだろうか。私は初期作品も大好きなのだが。
  ノンストップ サスペンスの秀作。やっと結末が見えたと思ったらどんでん返しが用意されていて、最後まで息抜く暇なく一気読み出来た。
今現在のディーバーはキャラクターの造形にも力を入れているが、本作はその辺がちょっと違う。特別に感情移入できるような主人公は出てこないが、それが被害者全員の像を浮かび上がらせる結果を生んでいるのかも・・・。プロットの上手さは職人技♪。
余談・・・日本でディーヴァーが脚光を浴びだしたのは『静寂の叫び』からだと思う。初めてディーヴァーに挑戦される方には特にお勧めだ。

 
眠れぬイヴのために 早川書房 ハードカバー初版1996年5月20日
あらすじ 記録的な嵐の近づく夜、精神病院から一人の男が脱走する。彼の名前はマイケル・ルーベック。数ヶ月前、さる女性の証言によって殺人事件の犯人と判決を下された男だ。脱走の目的は彼を有罪に追い込んだ証言者リズへの復讐の為とみられる。彼女を脱走犯から守るため3人の男が立ち上がる。ことごとく3人の裏をかき次第にリズ住む家との距離を縮める脱走犯。やがて彼の本当の目的が明らかにされていく。

 
感想 脱走犯のマイケルを追うのは、主治医のコーラー・元警官で賞金稼ぎのヘック・そしてリズの夫コーエン。生きて捕らえようとするコーラー、ヘック。最初からマイケルを射殺する目的で追うのはコーエン。それぞれの思惑で繰り広げられる追跡劇(おっかけっこ?)は、中々の読み応えでした。よくあるサイコ・サスペンスと思って読み進んだ私は最後のどんでん返しで度肝をぬかれ、まさに「やられた」という心地よい読後感を味わいました。2作目にしてこの出来栄えとは驚きでした。実は出版当時に読んだのですが、ディーバーの作品の中で今でも一番のお気に入りです。
ディーヴァー作品は一貫して三人称多視点で描かれているのですが、この作品からその手法に磨きが掛かったような気がします。まるで映画を見ているような章割りが見事。
 不倫・殺人・うそ・裏切りと様々な人間の行為と思いが交錯する秀作です。ディーバーの著作を読んでいつも思う事は「プロットに命をかけているなぁ、読者を驚かす事を愉しんでいるなぁ」です。押しも押されぬ有名作家になったディーバーの初期作品です。 

    


 
蒼い虚空 文春文庫 初版:2002年11月10日
あらすじ アメリカ国防総省の暗号化ソフトを破壊したとして、服役中のハッカー、ジレットはインターネットを利用したと思われる殺人事件への捜査協力を、カリフォルニア警察に要請される。  犯人はあらゆるサーバーにアクセスし、捜査の妨害・データの破壊を行う。犯人は警察とジレットの(PCによる)追及をかわしながらも、次々と新しい被害者をおびき寄せてゆく。(インターネットを使って。)  世界中のハッカー達にその世界で最高レベルの技術者だと認められ、WIZARDと称されるジレットは被害者達のパソコンに残された犯人の足跡(痕跡)を追って、犯人を追いつめてゆく。

 
感想 流石はディーバーだと思わせる出来でした。単純なストーリーだなと思いつつ読んだのですが、章ごとにどんでん返しが用意されていて、ジェット コースターに乗せられた気分でした。
 電脳世界と連続殺人事件というかけ離れた世界を、ここまで違和感無く融合させる手腕には脱帽です。PCオンチの私にも楽しめたって事が凄い!!!PCに詳しい方が読まれて楽しめるのかは不明ですが・・・。  この人の著作は10年ほど前から追っかけているんですが、読むたびに至福の時へと誘ってくれます。この作品はいきなり文庫で出たのでハードカバーは存在しません。お買い得♪。

 

 
死の教訓 講談社文庫 文庫初版2002年3月
あらすじ 半月の夜、暴行を受けた女子大生の死体が池の畔(ほとり)で発見された。現場に残された書き置きは捜査主任ビル・コードを名指しで次の犯行を示唆しており、血で描かれた半月が町の建物6ヵ所に一夜にして出現した。“ムーン・キラー”の凶行を恐れ、町はパニックに陥る。
 
感想 この作品は最近日本で邦訳されたのですが、実際は1993年に発表されたものです。なので現在の作品を読んでファンになられた方が読むと肩透かしを食らうかも・・・。 保安官コードが犯人からの挑戦を受け捜査に当たるのですが、このコードは家庭に問題を抱えている。娘の登校拒否で悩んでいるのですが、その娘が何者かから謎のメッセージを受け取ってしまう。勿論、パパには内緒で・・・。そして、次なる殺人が起こり、魔手はコードの家庭へも伸びてゆくというストーリーです。様々な要素が盛り込まれ結末へと結び付いていく過程はさすがディーヴァーですが、今見るキレはありません。最初にこの本を読むのはお薦めしません。
 


 
ボーン コレクター 文芸春秋社 ハードカバー初版2000年5月
あらすじ 金曜日の夜、ケネディ国際空港からタクシーに乗った出張帰りの男女が忽然と消えた。翌朝、警察への匿名の通報で、駆けつけたアメリア・サックス巡査が発見したのは、生き埋めにされ地面から突き出した男性被害者の腕だった。地面に突き出た薬指の肉はすっかり削ぎ落とされ、女物の指輪が光っていた…女はどこに!?NY市警は科学捜査専門家リンカーン・ライムに協力を要請する。彼は四肢麻痺でベッドから一歩も動けないのだが…。リンカーン・ライム シリーズ第一作。

 
感想 この作品はデンゼル・ワシントン主演で映画化されているのでご存知の方も多いだろうが、是非!原作を読んで欲しい。映画は駄作だったが、本は良いんだよっ。
  主人公はリンカーン・ライム。元NY市警の科学鑑識の第一人者だった男だ。捜査中の事故により四肢麻痺となり、動かせるのは頭と指一本だけ。犯人からの挑戦状ともとれる、死体発見によりライムへの分析依頼が来るのだが、ベッドから動けぬライムは自分の手足の代わりにアメリア巡査を助手に起用する。集まってくるデータを元に犯人の居場所を推理し、追い詰めるライム。   おどろおどろしい事件ばかりでは無く、ライムが四肢の自由を奪われた事に苦しみ、もがく姿が痛々しい。彼は寝たきりになったがベッド上で犯人と対峙する事により、少しづつ自分を取り戻していく。息つく間も無く読了出来る秀作だ。
 


 
コフィンダンサー 文芸春秋 ハードカバー初版2000年10月
あらすじ ボーンコレクター事件から一年半後。再びFBIがライムの元を訪れた。ベッドから一歩も動かずスーパーコンピュータなみの頭脳で犯人を追い詰めていく異色捜査官リンカーン・ライムの新たなる敵は、その刺青から「コフィン・ダンサー(棺桶の前で踊る死神)」と呼ばれる殺し屋。大陪審で大物武器密売人に不利な証言をする予定の証人を消すために雇われた彼によって、民間航空運輸会社の社長兼パイロットがその毒牙にかかり、彼の妻が次の標的に。大陪審まであと2日。追う者と追われる者の息詰まる勝負の行方は…。
 
感想 伏線という横糸と、最先端の科学捜査という縦糸が綿密に計算された上に張り巡らされていて、全てが結末で結び付きます。この手腕には驚きます。四十五時間の追跡劇が物語の骨子なのですが最後まで息をつく暇が無いほどにスピーディーな展開で、ページを一度も閉じる事無く読み終わりました。 前作では殆どベッドの上から動かなかったライムですが、本作では科学の髄を集めた未来型車椅子(?)に乗って色んな場所にお出掛けします。前作で四肢麻痺患者になった苦悩をこれでもかと見せ付けられ、読んでいる方も苦しかったのですが、少し前向きになったライムに救われた気がします。今の所4作あるライムシリーズですがこの作品が一番のお気に入りです。
 

 
エンプティーチェア 文芸春秋 初版2001年10月
あらすじ 四肢麻痺であるライムが脊髄再生手術のために訪れたノースカロライナ州の病院で、突然、捜査協力を求められる。 2人の女性が誘拐されたというのだ。容疑者は16歳の少年ギャレット・ハンロン。拉致現場に居合わせた青年を殺して逃走したとみられる。通常「婦女誘拐の場合、発生から24時間が勝負」だ。「それを過ぎると、誘拐犯の目に被害者は物として映るようになり、殺すことに抵抗を感じなくなる」。事件発生からすでに4時間が経過している。少年が逃げ込んだのは広大な森の中の湿地帯。タイムリミットが刻々と迫る。

 
感想 ライムとアメリアの手助けで首尾よく”町の問題児・昆虫好きの少年”を捕らえる事が出来るのだが、アメリアは彼が真犯人ではないと直感する。で、一路逃避行。科学捜査、証拠分析を真髄とするライムと、直感を信じるアメリアとの頭脳戦が始まる。事件も二転三転し相変わらずのジェット・コースター・ストーリー。お約束のどんでん返しでは身悶え♪。
 

 
石の猿 文芸春秋 ハードカバー初版:2003年5月30日
あらすじ 嵐に見舞われた夏の早朝、N・Y郊外ロングアイランド沖で一隻の貨物船が爆破された。船を爆破したのは国際指名手配犯の蛇頭”ゴースト”だった。ゴーストはアメリカ沿岸警備隊の追跡に気づき、貨物船ごと(不法移民と乗組員もろとも)海に沈めた。船から脱出した何人かを殺し、姿を消したゴースト!  証拠隠滅の為に、逃げ延びた移民を探すゴーストとライムとの戦いが始まる!

 
感想 この本はシリーズ物です。1作置きに出版されています。主人公は”元警察官(鑑識の天才)”リンカーン・ライム。  鑑識中の事故により脊髄を損傷し、動かせる部位は頭と指一本だけ。ライムは、最新の介護機器と美形の介護士トムに助けられながら市警の顧問を務めている。ライムの目となり手足となって現場に赴くアメリア・サックスとの鑑識シーンは(電話で会話しながら)、相変わらずサイコー♪   新しいキャラクターも配されています。中国の公安警察官ソニー・リー。  マンネリを恐れたのでしょうか?主人公達を食ってしまうほどの活躍ぶりです。お気に入りのシリーズですので、マンネリもまた楽しいのですが(笑)  人物造形では右に出るものがいないほどの職人作家ディーバーにしては、ちょっと詰めが甘いなぁーという印象が残りますが(貨物船の船長と逃げ延びた移民の息子のこと)・・・もうちょっと描き込んで欲しかった!  政治的な事や民族についてあまり触れない作者が、”蛇頭”を扱ったことには、驚きました。アメリカの偵察機が中国に不時着し(乗組員が拘束された・日付がこの本の書かれた時期と合う)、一時期、緊迫していた米中関係にも関係があるのかもしれませんね。

  [嬉しいお知らせ♪]  1作置にしか出版されないライムシリーズが、もう既にアメリカで出版されています。「どうしてもライムに解決させたい事件を思いついたから」という作者の気まぐれに拍手♪  日本での邦訳予定は2004年だそうです。

魔術師
イリュージョニスト

(The Vanished Man)
文芸春秋 ハード初版2004年10月15日
あらすじ 今回のリンカーン・ライムとアメリア・サックスの対決相手はプロの魔術師(イリュージョニスト)。まるで見立て殺人のようにイリュージョンになぞらえた殺人事件が数時間おきに起こって行く。警察はその都度、魔術師のそば近くまで追い詰めるのだが衆人環視の中で忽然と姿を消す犯人。一方で、マンハッタン地方検事の暗殺未遂事件が起こる。シリーズ第5作。

 
感想
2004.10.17読了
 いや〜♪。一年間、指折り数えて待った甲斐があったよ〜。二転三転どころか五転六転するプロットに身悶えしながらあっという間に読み終わってしまった。前作の『石の猿』では政治的な問題が絡んだり、新しい脇役が活躍したりでこの先、このシリーズは何処へ向かうのかと気を揉んだのですが、本作『魔術師』では本来のライムシリーズに戻っていました。『コフィンダンサー』を気に入っている方に特にお勧めです。やっぱり、ライムシリーズはエンタメ色が濃い方が愉しめるなぁ。
ただし、パズラー的な要素を求める本格ファンにはお勧めしません。魔術師が犯人=何でもありなのですから物語を愉しめる方向けのような気がします。(本作を読んでいてルパン対ホームズを思い出してしまった)
シリーズ第一作目から執拗に描かれてきたライムの自殺願望も、本作では消えています。そうだよ!死なれてはシリーズが終わるのだから困るんだよね。マンネリと言われようが水戸黄門だと言われようが気にせずにこのまま突っ走って欲しい。

 そして本国ではディーヴァーの最初の歴史小説Garden Of Beastsが既に発売されています。今度の舞台は1936年、オリンピック中のベルリンでの二日間だそうです。この作品は2004年度のCWAダガー賞の候補作にノミネートされています。
 リンカーン・ライム シリーズの次回作は(第6作)2005年出版予定だそうです。(公式サイトのインタビューの中に記述してあります)日本での翻訳は2006年か。待ち遠しいっ。既に出ていた短編集の翻訳も未だだし、訳者の池田真紀子さん、急いで下さいっ。

12番目のカード
文芸春秋社 単行本 初版2006年9月30日
あらすじ  ハーレムの高校に通う十六歳の少女ジェニーヴァが博物館で調べものをしている最中、一人の男に襲われそうになるが、機転をきかせて難を逃れる。現場にはレイプのための道具のほかに、タロットカードが残されていた。単純な強姦未遂事件と思い捜査を始めたライムとサックスたちだったが、その後も執拗にジェニーヴァを付け狙う犯人をまえに、何か別の動機があることに気づく。それは米国憲法成立の根底を揺るがす百四十年前の陰謀に結びつくものだった。そこにジェニーヴァの先祖である解放奴隷チャールズ・シングルトンが関与していたのだ…。“百四十年もの”の証拠物件を最先端の科学捜査技術を駆使して解明することができるのか?

 
感想  女子高生ジェニーヴァが図書館で古い新聞記事を閲覧中、何者かに強姦されそうになるが辛くも逃げ切る。単純な強姦未遂事件だと思い、調べ始めるライムとサックスだが〜調べ始めた途端、この事件は強姦事件に見せ掛けただけだと気付く。犯人の動機はジェニーヴァの祖先である解放奴隷チャールズに端を発しているのか?。執拗にジェニーヴァを狙う犯人を追い詰める事は出来るのか?・・・というストーリー展開です。
で、感想〜。
 図書館にいる所をたまたま狙われたかに見えた女子高生が、実はプロっぽい殺人者に狙われていて、どうもその理由が140年前に起きた事件に関係があるんじゃないか?って事で、現実の事件と140年前に起きた事件との繋がりは?と物語が進んでいくのですが〜ちょっと苦しい展開でした(笑)。なんと言えば良いのかなぁ〜奇想天外と荒唐無稽の紙一重とでも表現すれば良いのかな。ちょっとやりすぎなんじゃないか?と思いつつ読ませるという点ではいつものディーヴァー作品だなと思います。まぁ、マンネリだろうが水戸黄門だろうがストーリーがぶっ飛んでいようが楽しめたんだからいいんですけどね。ファンからすると、このマンネリ感が安心して読めて良いのですよね〜(笑)。ただ思うのは・・・ディーヴァーは『石の猿』辺りから徐々に変わってきていますね。『石の猿』で、このシリーズをどういう方向へ持っていくか悩んでいて、で〜9.11同時多発テロ事件が起こり、その後のプロットに多大なる影響を受けているんじゃないか?そんな気がします。某検視官シリーズを書いている作家のように変な風に変わらない事を祈るばかりです(謎。
*管理人はディーヴァーのファンなので冷静な判断が出来ません(笑)。この作品、ディーヴァーに感情移入されないで読まれた方の感想をお聞きしたいです。

スリーピング・ドール
(SLEEPING DOLL)
文芸春秋社 初版2008年10月10日
あらすじ  キャサリン・ダンス―カリフォルニア州捜査局捜査官。人間の所作や表情を読み解く「キネシクス」分析の天才。いかなる嘘も、彼女の眼を逃れることはできない。ある一家を惨殺したカルト指導者ダニエル・ペルが、脱獄、逃走した!捜索チームの指揮をとるのはキャサリン・ダンス捜査官。だが、狡知な頭脳を持つペルは大胆に周到に裏をかき、捜査の手を逃れつづける。鍵を握るのは惨殺事件の唯一の生き残りの少女テレサ。事件について何か秘密を隠しているらしきテレサの心を開かせることができるのは、尋問の天才ダンスしかいない…。ハイスピードで展開される逃亡と追跡。嘘を見破る天才ダンスvs他人をコントロールする天才ペルの頭脳戦。

 
感想  本作の主人公は、ライムシリーズ最新刊『ウォッチメイカー』で主役を圧倒していた脇役キャサリン・ダンスが主人公なので、ライムシリーズの番外編・スピンオフ作品とも呼べる作品なのですが、登場人物は殆どかぶりませんのでライムシリーズをご存じない方でも問題なく読めます。というか〜ディーヴァーに始めて挑戦される方だったら2004年以降のライム物を読むより、この派生作品を読まれた方が良いといえるくらいディーヴァーらしい作品だと思います。
で、物語ですが。
 ある一家を惨殺し”マンソンの息子”という異名をとったカルト指導者ダニエル・ペルは終身刑で服役していたのだが、新たに、数年前に起こった殺人事件に関与していたという証拠が浮上。再度、裁判に掛けられるために警備の厳重な刑務所から郡裁判所内の留置所へと移送されることに。が、移送された郡裁判所の留置所が爆破され、ペルは看守や刑事を次々と殺害し脱獄を果たす。脱走したペルを捕らえる為、捜索の指揮を任されたダンスは8年前の一家惨殺事件の関係者を集めて尋問を重ね、ペルの思考回路や行動を理解し、ペルの動く先を想定し逮捕に漕ぎ着けようとするのだが・・・といった展開です。もう、この作品に関しては、というかディーヴァー作品全てにいえることだけど展開が速いんですよね(笑)。ものの数ページで囚人が脱獄する冒頭ではさすがディーヴァーだなと感動すら覚えました。他の作家みたいにページを稼ぐような場面がないのが、彼の良さ・巧さなんだと思います。ディーヴァー作品とはいえ物語の出来不出来はあって好き嫌いはあるけれど、でもやっぱり物語を読み始めると並みの作家とは比べ物にならないと思えます。相変わらずどんでん返しが用意されている作品なので、ネタバレにならぬようこれくらいにしておきます。
 
ソウル・コレクター
(The Broken Window)
文芸春秋社単行本 初版2009年10月30日
あらすじ  科学捜査の天才リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人の罪で逮捕された。自分はやっていない、とアーサーは主張するも、証拠は十分、有罪は確定的に見えた。しかしライムは不審に思う・・・証拠がそろいすぎている。アーサーは罠にかかったのではないか?そうにらんだライムは、刑事アメリア・サックスらとともに独自の捜査を開始、同様の事件がいくつも発生していることを知る。そう、姿の見えぬ何者かが、証拠を捏造し、己の罪を他人になすりつけ、殺人を繰り返しているのだ。犠牲者を監視し、あやつり、その人生のすべてを奪い、収集する、史上もっとも卑劣な犯罪者。神のごとき強大な力を持つ相手に、ライムと仲間たちはかつてない苦戦を強いられる…。

 
感想  相変わらず一分の隙もないミステリです。これだけストーリーを二転三転させると普通ならおかしい箇所が一箇所二箇所あっても不思議じゃないはずなんですが、ディーヴァー作品には破綻が無い、そこが凄いです。ですが・・・旧作に比べると説明調というか言い訳めいた文章が多くなった気がするのは気のせいでしょうか?(笑)。で、物語はというと・・・
 ライムのいとこアーサーが殺人容疑で逮捕された。アーサーは逮捕時から一貫して無罪を主張、被害者とは面識さえないと主張していた。が、数々ある物証はアーサーが真犯人であると指し示していた。それにしても、動かしがたい物証があまりにも多過ぎはしないか?という違和感を覚えたライムは事件の捜査を始める。すると、アーサーが犯人と目された発端は、匿名の目撃者による通報だということが分かる。調べを進めるうちにアーサーは何者かにはめられたんだと確信を持つライム。これほど見事に他人に罪を被せることの出来る犯人なら、事件は1件で終わるはずもないと更に調べ始めたライムとサックスは・・・という展開です。本作の被害者たちはみなプライバシーを侵害され、謎の犯人に全てを知られ人生を変えられ奪われるという、殺人以上に(?)恐ろしい内容でして、個人情報をどこまでプライバシーとして保護するかという難しい問題が筋立ての核となっています。9.11以来、ディーヴァーの関心はさまざまな方面に伸びていて、それがシリーズに生かされているのがさすがですね。ただし〜個人的にですが、ちょっとライム物に行き詰まりが見える気がします。たまには単発作品も読んでみたい今日この頃。
  
ロードサイド・クロス
(Roadside Crosses)
文芸春秋社単行本 初版2010年10月30日
あらすじ  尋問の天才キャサリン・ダンス、ネットにひそむ悪意に挑む。陰湿なネットいじめに加担した少女たちが次々に命を狙われた。いじめの被害者だった少年は姿を消した。“人間嘘発見器”キャサリン・ダンスが少年の行方を追う一方、犯行はエスカレート、ついに死者が出る。犯人は姿を消した少年なのか?だが関係者たちは何か秘密を隠している―。幾重にもめぐらされた欺瞞と嘘を見破りながら、ダンスは少しずつ真相に迫ってゆく。完全犯罪の驚愕すべき全貌へと。

 
感想  ハンドル操作を誤り車ごと崖から転落し、同乗していた少女を死なせてしまった運転手の少年トラヴィスがネット上で非難の的になるんですよね。非難だけならまだしも、少年個人を誹謗中傷するイジメへと発展していくわけです。そして、ネットの匿名性に隠れていたはずのイジメに加担していた女子高生たちが次々と命を狙われるという事件が起こり、トラヴィスは姿を眩ませてしまう。そんな折、事故現場でも何でもない道路脇に、交通事故現場に供えられる十字架が置かれているのが見つかるのですよね。が、十字架はトラヴィス苛めに参加した女子高生に捧げられたもので、犯行の予告の可能性が大で・・・犯人はトラヴィスなのか?トラヴィスはどこに?次のターゲットは誰?・・・という展開の物語です。
で、感想が非常に書き難いのですが・・・ディーヴァーを未読の読者だったら楽しめる作品なのかもしれません。というのもね、ディーヴァーの作風をよく知っている既読の読者には、犯人と疑われるトラヴィス少年が犯人じゃないと最初っから100%の確率で違うんだと解かってしまうのですよね。それは何故かというと、ディーヴァーのウリはどんでん返しなので、冒頭から犯人に見える人物は真犯人じゃないと解かっちゃうわけです。たとえ残り100ページ、残り50ページで真犯人と思われる新人物が出てこようとも「これもまだ違う」って解かっちゃってるわけですよね。だもんで、素直に物語に入りこめないんですよね。それに、この作品の主人公であるキャサリン・ダンスの良さが出てないというか〜尋問の天才が登場する意味のある作品じゃないような筋立てでね。
ディーヴァーは、今活躍しているミステリ作家の中では群を抜いて巧いけども、売りがどんでん返しである以上、予測可能なわけで・・・新鮮さが無いというかね。きっと、読者にサービスしたい、驚かせたいという気持ちが強いサービス精神旺盛な作家なのでしょうね?。ワタクシは、初期の「静寂の叫び」や「眠れぬイヴのために」のような、登場人物たちが現実に息づいているように感じられる人物造形に力を入れた作品をまた読みたいなという気持ちです。次回作はジェームズ・ボンド シリーズ「007」の新作を書くのだそうだけど〜とっても良い事だと思います。どんでん返しから解放されたディーヴァー作品を読みたいというのが、今の正直な気持ちです。(新作の仮題は「プロジェクトX(Project X)」。1964年に死去したボンドの原作者イアン・フレミング(Ian Fleming)の誕生日に合わせ、来年5月28日に発売される) )
 
獣たちの庭園
(GARDEN OF BEASTS)
文芸春秋社 文庫 初版2005年9月10日
あらすじ  1936年、オリンピック開催に沸くベルリン。アメリカ選手団に混じって、ナチス高官暗殺の氏名を帯びた一人の殺し屋がニューヨークから潜入するが、現地工作員と落ち合う際に誤って人を殺し、警察に終われる身となる。暗殺を果し、無事に国外逃亡できるか・・・。

 
感想
2005.9.7読了
 がははは。非常に楽しめました。ディーバーの公式HPでは『歴史小説』と書かれていたので、あまり期待しないで買ったのですが、読んでみたら純然たる冒険小説で、嬉しい誤算でした。いつものスリラーでは無いので、読者の評価は割れるでしょうが、管理人は大満足で読了致しました。
 舞台は1936年、ベルリンでの2日間。罠にはめられ身柄を拘束された殺し屋シューマンは、米国海軍情報部から『電気椅子に座るか?それとも、ドイツへ行って政府高官であるエルンスト大佐を暗殺するか?』と選択の余地の無い提案を受ける。死ぬよりはとドイツに渡ったシューマンだが、いきなり殺人事件に巻き込まれ、終われる身に。任務は無事に遂行されるのか?暗殺が成功したとして、シューマンは生きてアメリカの地を踏めるのか?・・・というストーリーです。兎に角、驚いたのはプロットの良さですね。冒険小説でありながら、どんでん返しを用意している辺りが、さすがディーヴァーって感じです。それとディーヴァーの作品でこういうヒーローが主人公って珍しいので、結末はどうなるのかと思ったら・・・巧いです。余韻がある終わり方というか。まぁ、読んでみて下さい。お勧めです。
  
ウイリアム・ジェフリズ名義
ブラッディ・リバー・ブルース 早川文庫 初版2003年1月
あらすじ 急に開いた車のドアにぶつかり、ペラムは持っていたビールを落としてしまった。 壜は壊れ、ビールは排水溝に。だがペラムの不幸はそれで終わりではなかった。ビールを台無しにした男たちが、その直後に組織犯罪告発 の重要証人を射殺したのだ。ペラムは目撃者として、警察やFBIばかりか、殺し屋にも追われることになる。じつは何も目撃していないのに …映画ロケーション・スカウト、ジョン・ペラムを襲う危機。
 
感想 本作品はウイリアム・ジェフリズ名義で1993年に発表されたものだ。欧米の作家がよく使う手なのだが、作品の作風や文体を変える為に名義を変える事がある。この作品もその例に漏れず、いつものディーバー作品とは雰囲気が全く違う。 ヒーロー物というか、ちょっと軽めの作品だ。一見のどかな平和な町に潜む悪がテーマ。いつものサイコ・サスペンスと思って読まれたら、激怒される方もいらっしゃるかも。