ブラッククロス/神の狩人/甦る帝国/沈黙のゲーム/戦慄の眠り/魔力の女/神の足跡/血の記憶/天使は振り返る


グレッグ・アイルズ(GREG ILES)作家略歴&著作の感想
作家名 グレッグ・アイルズ(GREG ILES)
生年月日 1960年
生誕地  ドイツ
処女作  甦る帝国
デビュー年 1993年
公式サイト http://www.gregiles.com/

作家略歴

 少年時代を西ドイツで過ごした。ミシシッピ大学を卒業後、文筆活動に入る(作家になる前はバンド活動をされていて、今でも空き時間の多くを演奏時間に充てているそうな)。1993年の処女長編『甦る帝国』(上下)、1995年刊の第2作『ブラッククロス』(上下)は、ともに『ニューヨーク・タイムズ』、『パブリッシャーズ・ウィークリー』のベストセラー・リストに名を連ねた。現在は妻と二人の子供と共にナッチェズ(ミシシッピー)に住む。

 公式サイトに面白い文章を見つけました。Greg still spends much of his free time playing music. He is a member of the legendary group “The Rock Bottom Remainders” which includes authors Dave Barry, Ridley Pearson, Stephen King, Scott Turow, Amy Tan, Mitch Albom, Roy Blount, Jr., Matt Groening, Kathi Kamen Goldmark, and James McBride. The special guest for this fall’s “WannaPalooza Tour” was Roger McGuinn, co-founder of the Byrds.
著作リスト
Series Mississippi
Mortal Fear (1996)『神の狩人』
24 Hours (2000)『24時間』
aka Trapped
Dead Sleep (2001)『戦慄の眠り』
Sleep No More (2002)『魔力の女』

Penn Cage(元検事の作家ペン・ケージ シリーズ)
1. The Quiet Game (1999)『沈黙のゲーム』
2. Turning Angel (2005)『天使は振り返る』
3. The Devil's Punchbowl (2008)
4. Unwritten Laws (2010)

Novels(シリーズ外単発物)
Spandau Phoenix (1992)『甦る帝国』
Black Cross (1995)『ブラッククロス』
The Footprints of God (2003)『神の足跡』
aka Dark Matter
Blood Memory (2005)『血の記憶』
True Evil (2006)
Third Degree (2007)

Omnibus
The Quiet Game / 24 Hours / Dead Sleep (2003)


ブラッククロス
(BLACK CROSS)
講談社 文庫上下巻 初版1998年1月15日
あらすじ  第二次大戦下のイギリスで研究活動を続けていたアメリカ人医師マークは、老獪なイギリス軍人の策謀にのせられ、ある極秘作戦に加わることになった。ターゲットのコード名は黒十字―ナチスが開発した死の化学兵器。ユダヤ人テロリスト、スターンとたった二人だけで世界の運命を担って非情な作戦を開始する。

 
感想  冒険小説の王道(?)、潜入&破壊工作モノです(笑)。この作家、最近ではサイコサスペンスなんかを著す事が多いのですが、個人的には冒険小説の方が本領を発揮しているように思います。ラストが、余りにもハッピーエンドで惜しいな〜と思いますが、小説の内容の重さを払拭するにはこれくらいのご都合主義もアリなんでしょう?!。まぁ、愉しめたので文句は言うまい(笑)。
 第二次世界大戦下、アメリカ人医師マーク・マコネルは単身イギリスに渡り毒ガスに関する研究を続けていたのだが、ある極秘工作活動に参加するハメになる。ナチスドイツは、とある収容所でユダヤ人を人体実験に使い、サリン・ソマンなどの毒ガス兵器を開発しているのだが、その工場を囚人もろとも破壊するという作戦で・・・というストーリーです。マコネルと共に工作活動に参加するのも民間人で、ユダヤ人テロリストなのですよね。医者とテロリストが力を合わせて敵国に潜入し、SSに成りすまし任務を果たそうとするんだけど、簡単にはいかないのですよね。そして、強制収容所内の描写が良いのですよね〜。死と隣り合わせの囚人達の描写が真に迫っているので、ハラハラドキドキの連続でした。サリン・ソマン等の毒ガスの恐ろしさは、オウムの事件で理解していたので、余計に恐ろしさを感じたのかもですが(笑)。内容が非常に重いので(ユダヤ人の虐殺については、誰がどんな内容の本を書こうが変わりませんね。何度読んでも痛ましい限りです)痛快な冒険小説を好まれる方にはお勧め出来ませんが、良い出来です。   作家名INDEXホームへ戻る



神の狩人
(MORTAL FEAR)
講談社 文庫上下巻 初版1998年8月15日
あらすじ  コンピュータ・ネットワーク『EROS』の会員が次々と殺される。愛の行為、テレフォンセックス、乳房整形、近親相姦、HIV…。サイトでは五千人の男女が匿名でセックスに関するあらゆる情報を交換していた。ネット上を自在に動き回る天才殺人鬼の出現に、全米は震えあがった。

 
感想  上下巻合わせて1000頁を超える恐ろしい作品です(笑)。
 主人公ハーパー・コールは高級オンライン・ネットワーク・セックスクラブ『EROS』のシスオペ。仕事の傍ら、自身もエロにのめり込んでいた。で、その『EROS』の会員で急に姿を消した女性が6人いて、何らかの事件に巻き込まれたのではないか?と心配していたところ、『EROS』の会員であった有名作家が惨殺されたニュースを聞く。ハーパーは警察に『EROSが原因で作家が殺されたのかもしれない』と情報提供を行うが自身も容疑者の一人とみなされ・・・という展開です。まぁ、よくある展開でそう目新しいものでは無いのですが、本筋のサイコサスペンスと並行して描かれるコール夫妻の夫婦生活の危機(?)が良い味を出しているのですよね(笑)。ハーパーが事件に首を突っ込んだお陰で、妻にひた隠しにしてきた自身の悪行が(?)明るみに出てしまうのだけど、その秘密がサイコキラーの生い立ちと微妙にクロスしていきます。結末がチト甘いので、全体の印象としては『普通』の出来ですが、エンタメとして読むなら充分に楽しめます。 作家名INDEXホームへ戻る



甦る帝国
(SPANDAU PHOENIX)
講談社文庫 上下巻 初版1999年8月15日
あらすじ  第二次大戦初期、ヒトラーの命を受けた副総統ヘスは、容貌の酷似した大尉と共に英国へ極秘潜入する…。戦後、西ベルリンに収監された“囚人ヘス”が謎の死を遂げ、刑務所跡で巡査部長ハンスはヘスの手記を発見。国際紛争の火種にもなるこの極秘文書を奪取すべく、欧米・中東各国諜報機関が暗躍・激闘を開始した。

 
感想  ひじょ〜〜〜に長い物語です。面白い作品だったんですが、上下巻で1251pもあるので読み終わるのが大変でした(笑)。
 西ベルリンに長い間幽閉されていた『囚人ルドルフ・ヘス』は、実は替え玉だった。彼は謎の死を遂げるのだが、真実を暴露した手記を記していた。後に残された彼の手記を巡り、各国の諜報機関が動き出す。文書とヘス事件の真相をもみ消したいイギリスとアメリカ、一方 事件の真相を暴露したいロシア、そして世界中に存在する秘密組織『フェニックス』。文書に書かれている真実は?ヘスは生きているのか?フェニックスという組織は?〜〜〜という展開です。たまたま、シュパンダウ刑務所の跡地を警邏していたハンス巡査部長がヘスの遺した文書を発見するのですよね。これは金になるかもと思ったハンスはその文書を持ち帰るのですが、その文書はラテン語で書かれていてハンスには読めない。嫁のイルゼはちょっとだけ読めたんだけど、嫌な予感がして歴史学者の父に読ませる為に文書を持ち出す。で〜文書を手に入れたい各国の機関や謎の男たちに追われるのですよね〜。ちょっとクドイ展開だなと思いはするけど、まぁ楽しめました。それと、この作品にイスラエルの元工作員スターンってのが出てくるのですが、この人物は『ブラック・クロス』に出てきた『スターン』のその後なのですよね。なので、この作品を読む場合は先に『ブラック・クロス』を読まれた方が宜しいようです(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る



沈黙のゲーム
(THE QUIET GAME)
講談社 文庫上下巻 初版2003年7月15日
あらすじ  ミシシッピ州ナチェズ。典型的なアメリカ南部の町に帰省してきた作家のペン・ケージ。しかし一見平和な町には様々な悪徳が渦巻いていた。父の脅迫事件に関連して町の歴史の暗部に触れた彼は、地元紙の編集人ケイトリンの協力を得て、未解決の黒人爆殺「デル・ペイトン事件」の真相解明に乗り出すのだが!?

 
感想  社会派ミステリというか〜社会派冒険小説といった作品でした。今まで読んだアイルズ作品の中で一番楽しめた作品ですね。『ブラック・クロス』&『戦慄の眠り』や本作『沈黙のゲーム』のような冒険小説っぽい作品がワタクシの好みなのかもしれません。
 帰省した法廷物ミステリ作家ペン・ケージは(元検事)ひょんなことから、30年前の公民権運動真っ盛りの最中に起こった迷宮入り人種差別殺人事件である『黒人デル・ペイトン爆殺事件』を再調査するハメになるのだが〜事件の再調査を始めた途端に保安官に尾行されはじめ、その後何者かに銃撃され、家には放火される。関係者の全てが証言を拒む中、必死で調査を進めるケージだが事件の陰には地元の権力者とFBI長官が?!・・・というストーリーです。上下巻合わせて900頁を超える大作なのですが、無駄な箇所がありませんのでサクサク読めました。そして内容が濃いのですよね〜。物語の骨子は『30年前に黒人労働者を殺したのは誰か?』なのですが、ただの犯人探しで終わらずに恋愛、親子愛、南部の町の過去と現在(人種差別問題)などなど描かれている事が多く、よくここまで練り上げたなぁ〜と感心しつつ読み終わりました。それと特筆すべきは法廷シーンの巧さですね(笑)。ラストの方で、主人公が訴えられ法廷に立つシーンがあるのですが弁護士資格を持つ主人公は自分で自分を弁護するんですよね。これがハラハラドキドキの展開で読まされたといった感じです。この法廷シーンは某大御所法廷物作家Gさんより余程巧かったです。惜しいのはラスト50ページのオチですかね。急ぎ過ぎだなという感はありますが、まぁちょっと物足りないなくらいの終わり方で丁度良いのかもしれません。 作家名INDEXホームへ戻る



戦慄の眠り
(DEEP SLEEP)
講談社文庫 上下巻 初版2004年4月15日
あらすじ  カンボジアの戦場に消えた父の跡をついでカメラマンとなったジョーダンは、取材先の香港の美術館で偶然、連作絵画「眠れる女」を見て愕然とする。その一枚には、NOKIDS(ニューオーリンズ連続誘拐事件)の被害者で、行方不明の双子の妹ジェーンの裸体が描きこまれていた。ジョーダンは謎の画家の手がかりを求めて、NYへ向かうが!?

 
感想  今までこの作家の作品を避けてきたのは、装丁で人間の顔写真が使われていたから。本って、というか小説って想像してナンボだと思っている私は、装丁の顔写真を見た途端に買う気が失せるのですよね。ですが、売れなければ即翻訳終了絶版が普通の今、連続で本が出ているのなら売れているのだろうと読んでみたら〜〜〜当たりでした(笑)。この作家、巧いですね。
 戦場カメラマンだった父の後を継ぎ、カメラマンとして世界を飛び回っているジョーダンは、香港の美術館で双子の妹が描かれている絵を発見する。絵は連作で19作描かれていてその題名は『永遠の眠りにつく裸婦』。妹は連続誘拐事件の被害者で、死体も発見されていない。ジョーダンはこの作者こそが謎を解く手掛かりだとFBIと共に捜査を始めるが・・・というストーリーです。物語全体を見ればサイコサスペンスなのでしょうが、サイコ色は薄いです。この作家は元々はミステリ作家じゃ無いんでしょうね。犯人が誰なのかという謎解きの部分ではあまり巧いとはいえませんしオチも掟破りに近いことをやっているんですが〜でも面白い。エンタメとして読むなら非常に楽しめる作品だと思います。それと、起承転結がはっきりしているので読み易いです。 作家名INDEXホームへ戻る


魔力の女
(SLEEP NO MORE)
講談社 文庫 初版2005年11月15日
あらすじ 愛した女の魂は不滅なのか。とうの昔に殺された元恋人マロリーしか知り得ない過去をちらつかせ、肉感的な美女が誘惑してくる。妻と一人娘を裏切った瞬間からジョンの日常は一変。恐怖と官能の坩堝のなかで、理屈では説明のできない事件が続出する!あまりに危険で強烈なサスペンス。

 
感想 粗筋を書いても感想を書いても全てがネタバレに繋がってしまう〜という評し難い作品です(笑)。まぁ、あえて書くなら『パラサイト・イヴ』や『イエスの遺伝子』などの不思議系(?)作品を許容出来る方のみにお薦めする作品です。感想は壁紙と同色で書きますが、ネタバレしています。未読の方は読まないで下さいませ〜。
この作品、活字中毒仲間のLさん、Nさんの両方が『読んでみて〜〜〜』と仰ったので読んだのですが、読んでみて初めて薦められた意味が分かりました!。今までのアイルズ作品とは全くの別物なんですよね。ミステリじゃないし冒険小説でもない、ファンタジーというかオカルトですよ(笑)。殺された女の魂が生き続け(?)様々な人の体を渡り歩き(憑依するんですよ!)、殺される前に付き合っていた男の前に現れ『私は一秒たりとも死んでないのよ』って言う・・・という展開で、驚いたのなんのって!(笑)。この憑依したと言い張っている女は本当は裏があるに違いない、金目的の陰謀だろう、きっとオチがあるに違いないと思いつつ読んだのですが、オチが無いまま物語は終わり『えっ!これファンタジーじゃんっ』と驚いた管理人でした(笑)。ワタクシはミステリだと思って読んでファンタジーだったりすると暴れまわる読者なのですが、この作品に関しては許容範囲内でした。というのも次作の『神の足跡』の方を先に読んでいたからなのですよね〜。『神の足跡』が余りにも飛んでた作品だったので免疫が出来ていたのでしょうね?。がはは。『沈黙のゲーム』の主人公ペン・ケージが再登場するので『沈黙のゲーム』ファンの方が喰い付きそうだけれど、驚くだろうなぁ〜〜(笑)。活字中毒者仲間のL様曰く『アイルズはカメレオンみたいな作家』だそうです。頷きます〜(爆笑。
↑既読の方は*〜*までをコピペされると読めますので♪ネタバレしておりますので未読の方はご注意下さい。 作家名INDEXホームへ戻る



神の足跡
(THE FOOTPRINTS OF GOD)
講談社 文庫 初版2006年7月14日
あらすじ  合衆国政府は人智を超えるスーパーコンピューター〈三位一体(トリニティ)〉の開発を目論む。プロジェクトに加わっていた倫理学者テナント博士は、スタッフ間に発症する奇妙な「副作用」に疑問を抱いていた。共同開発者の死をきっかけに、博士は24時間態勢の監視を振り切り、大統領に計画の中止を直訴しようとするが。

 
感想  アイルズ作品なので、どんな題材を使おうがある程度は楽しめるんですが〜ワタクシの好みではありませんでした(笑)。面白い箇所もあるんですけどね、人工知能コンピューターが開発され、そのコンピューターが人類を攻撃する能力があるなんて展開はあまりにも突飛で物語にのめり込めませんでした。ほんでね、主人公の学者が不思議な夢に導かれてイスラエルを目指すのですよね。で〜彼はイエス・キリストの×××になっちゃうという展開で・・・科学の話しから突然、宗教へ飛ぶんだよね。ほんで最後は哲学的SFへと飛躍し、読み手は自分の脳の固さを知るワケです・・・。(最初っからSFだと思って読んだのならば愉しんで読めたのでしょうが)気を取り直して、未読の『魔力の女』と『24時間』に期待なのだっ(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る

血の記憶
(BLOOD MEMORY)
講談社文庫上下巻 初版2008年10月15日
あらすじ  まだ終わらない―ニューオーリンズで起きた連続殺人事件。被害者はいずれも大人の男性で、全身には歯形が残されていた。加えて壁には次の犯行を示唆する血文字が。歯科学者のキャットは担当刑事と不倫関係にありながら捜査に加わっていたが、自らの不安定な心理が事件とリンクし始めていることに気づく。

 
感想  ここ最近のアイルズ作品はSFだったりオカルトだったりでいまいち好きになれなかったのですが〜本作はひさびさでまともな(?)ミステリというかスリラーで万歳っ!。やっぱ、ワタクシはSFやらオカルトやらホラーやら電脳世界やらに逃げないミステリが好きなのだと改めて確認したしだいです(笑)。
で、物語はというと・・・
歯科学者キャットは名門の出ながら若い頃から家を飛び出し、ニューオリンズで殺人事件の鑑定医として才能を発揮しているキャリアウーマンなのだが、実は諸々の問題を抱えていてアルコールと精神安定剤に依存する生活をしているジャンキー。そんでもって、なぜか彼氏は妻帯者ばかりを選んでいて、誰ともまともな男女関係を築けずにいる。で、そんな彼女が不倫相手の殺人課刑事の子を身ごもってしまうのだが、望んでいなかった不倫の子を妊娠したショックなのか彼女に異変が起き始める。今まで事件現場で取り乱したことのない彼女が、中年男性が無残に惨殺された現場で二度もパニック発作を起こし救急車を呼ぶ事態になったのだ。それが原因で捜査を外され、不倫もバレてしまう。同時に、彼女は幼い頃の夢を見てうなされ始める。彼女の父親は何者かに撃たれて謎の死を遂げていたのだが、それが原因で悪夢を見るのかも?。原因を探りに実家に戻った彼女は〜自分が幼い頃に寝ていた部屋で偶然にルミノール試薬をぶちまけてしまい、その部屋に現れたルミノール反応を発見。自分の父親を殺した犯人は誰なのか?悪夢を見る原因は何?自分の過去を探し始めるキャットだが、なぜかニューオーリンズの連続殺人事件の容疑者として浮上してきた精神科医がキャットを指名して、捜査協力を申し出・・・という展開です。
ネタバレしてしまうと〜キャットは幼い頃に幼児虐待を受けていたんですよね。で、その幼児虐待をしていたのは父親なのかそれとも祖父なのか分からないわけです。父親はベトナム帰還兵で戦争で精神を病んでいたので虐待者だとしておかしくないんだけど娘としてはそれを信じたくないわけですよね。で、必死で記憶を取り戻そうと自分の過去と戦うキャットなんだけど、この彼女が好いんですよね。ミステリの主人公としては頼りないし精神の不安定さが見ていて辛いんだけど、彼女が一歩一歩 結末へと向かっていく過程は読み応え十分です。で、主人公の過去と現在の連続殺人事件には繋がりがあって、キャットの自分探しは連続殺人事件の解決へも近付いて行くわけで・・・アイルズ 相変わらずストーリーテラーです(笑)。主題が近親相姦・幼児虐待なので暗く重い展開が続くけれども物語としての完成度は高いと思います。この作品、アイルズに初挑戦される方にお勧めだけど〜子供が被害者な物語がダメな方には苦しいかもしれません。(過去の作品の登場人物トム・ケージやジョン・カイザーも登場します。舞台も過去作品で出てきたナチェズですし、先に『沈黙のゲーム』を読まれるとより楽しめるかもです) 作家名INDEXホームへ戻る



天使は振り返る
(Turning Angel)
講談社文庫上下巻 初版2010年8月12日
あらすじ  女子高生が殺された。とびぬけて美しく、学業優秀で将来が楽しみな17歳だった。元検事補で現在・作家のケージは事件直後に親友から弁護の依頼を受ける。彼は医師であり地元の名士。親子ほど年の離れた彼女と男女の関係があり、レイプ殺人の容疑がかけられるかもしれないというのだ。真実はどこにあるのか。

 
感想  最後まで読み終わったらば「あ〜面白かったなぁ〜」って思えるんだけど、冒頭の100ページ位までは読むのがしんどかったです。それはなぜかというと〜主人公のペン・ケージは好いんですよ。好いんだけど、事件の中心人物に感情移入できないのですよね(笑)。で、物語は・・・17歳の少女ケイトが殺された。強姦され絞殺されていたのだが、ケイトの体内からは二種類のDNAが検出された。医者で地元の名士で大学時代はフットボールの名選手でイケメン中年ドルーはすぐさま友人のベンへ自身が取り調べを受けた際の弁護を依頼する。それはなぜかというと〜ドル―は自身の患者でもあるケイトと肉体関係があったのだ。妻子のあるドル―が交際していた未成年が強姦され殺害されたとなるとドル―の逮捕は間違いないのだ。ミシシッピ州法では性的侵犯を犯した彼もしくは彼女が、相手とした18歳以下の子供に対して信用ある地位にいる場合(医師・教師・聖職者・両親・里親・おじ、おば・ボーイスカウト指導者などなど)同意の上での性行為であっても最高30年の懲役刑(再犯なら40年。暴行罪)が科されるのだ。もしケイトを殺害した罪で有罪判決を受ければ死刑。無罪判決が降りて死刑を免れたとしても30年の懲役刑は確実なのだ。ペンは危機に瀕した友人のため、全力で奮闘するが、事件は人種問題やドラッグ問題まで絡み・・・という展開です。容疑者にされたドルーを救うために奔走するケイジの物語なのですが、なんせね。幾ら少女の方から誘いがあったとはいえ、17歳の、それも自身の患者に手を出しアナルセックスまでしていたというこの男がどうにも好きになれなかったのですよね(被害者の肛門からドルーの精子が発見された)。手を出しただけならまだしもドルーは実は死体を発見していながら逃げていたというオチまでついてまして・・・(ネタバレですが(汗))。社会問題やドラッグ問題、虐待、人種問題などなどの複雑な要素が物語の行方を左右するという、アイルズらしい奥行きのある作品で、充分に楽しめましたが・・・好き嫌いは分れるかも?です(笑)。あ!この作品の主人公は『沈黙のゲーム』が初出となるので、そちらも合わせて読まれるとより楽しめるかと思われます、ハイ。



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