警官嫌い/キャンディーランド//酔いどれ探偵街を行く/湖畔に消えた婚約者
エド・マクベイン編纂アンソロジー 十の罪業 RED/十の罪業 BLACKエド・マクベイン(Ed McBain)作家略歴&作品感想 |
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作家名 | エド・マクベイン(Ed McBain) | |
生年月日 | 1926年 | |
没 | 2005年7月6日 | |
生誕地 | マンハッタン | |
処女作 | ** | |
デビュー年 | ||
公式サイト | http://www.edmcbain.com/ |
エド・マクベイン名義(Ed McBain) |
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警官嫌い | 早川文庫 | 初版1976年4月30日 |
あらすじ | その夜、87分署の刑事リアドンは、夜勤に向かう途中、二発の弾丸に顔半分を吹き飛ばされ即死した。憤怒に燃え上がった同僚刑事たちは、犯人検挙に全力を注いだ。だが、犠牲者は一人では済まなかったのだ。87分署シリーズ第一作。 |
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感想 | 警察小説といえば「87分署シリーズ」「87分署シリーズ」といえばアイソラの町(架空の町なのですがNYをそのまま描写している)。ミステリファンなら、読んだ事は無くとも聞いたことはあるくらい有名だろう。 87分署にいる刑事たちが主要登場人物なのだが、その中でも主人公スティーヴ・キャレラが良い。偉くない普通の刑事なのが良い。探偵小説みたいに、謎を追う描写が良い。普通に恋愛もする。 どんでん返しもある(作品によるが)。読もうと思えば幾らでもある(50作はあるとおもう)。 今読んでも、全然古臭くない(発表年は1956年)。 とにかく良いのだ!文句あっか!(笑)。 |
エド・マクベイン(Ed McBain)&エヴァン・ハンター(Evan Hunter)共著 |
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キャンディーランド (CANDYLAND) |
早川書房 単行本 | 初版2001年10月20日 |
あらすじ | 一夜の快楽を求めて娼婦と関係をもった建築家。しかし、翌朝、女が惨殺体となって発見され、建築家は有力容疑者として浮上する。前半はハンターによるセクシュアル・サスペンス、後半はマクベインによる警察小説と、一冊で二つの趣向が楽しめるユニークな共作。
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感想 | この作品、面白いんですよ。内容も面白いんですが前半部と後半部の作者が違うのですよね。前半は普通小説作家のエヴァン・ハンターが著し、7章目からはミステリ作家のエド・マクベインが著しているのです。要するに同一人物が書いているのだけれど名義を使い分けて書いてるんですよね(笑)。 前半部、ハンターのパートではセックスにとり憑かれた男がニューヨークの町を彷徨う様子が描かれているのですよね。ベン・ソープは高名な建築家で美しい妻、娘、孫娘までいて恵まれた生活を送っているのですが~実は彼はセックスに狂っているんですよ。出張先や講演で訪れた先で若い女の子や売春婦を引っ掛けてはやりまくる(?)という二重生活を送っている。で、嫁の母親が心臓疾患で危篤というのに出張先のニューヨークでテレフォンセックス友達に電話をかけて一晩付き合ってくれと誘う。が、断られるのですよね。それでもめげずに知り合いの女の子に電話を掛け捲り、その日の夜のお相手を探そうとするが誰も見つからず、こんちくしょうとホテルのバーに出向き、娼婦でも引っ掛けようとするが、これも巧く行かず逃げられる。で~このセックスにとり憑かれた男は、新聞広告を見て娼館に出向くのですよね。で~ベン・ソープが帰った直後に、帰宅しようとしていた娼婦の一人が殺されるのですよね。強姦された上に絞め殺された娼婦殺しの犯人と目されるのはベン・ソープで・・・というストーリーです。前半はセックス狂の男を描いた普通小説で、後半は娼婦殺しを追う警察を描いたミステリなワケです。物語としてはとても面白いです。展開も構成も巧いなぁ~って唸るけれど・・・この前半部のセックスの描写が嫌だって方もいらっしゃるだろうなぁ(笑)。けっこう、執拗に描写してあって、それでこそこの男がいかに病気なのか分かるってもんなんだけど、鼻につく方もいらっしゃるかも。ワタクシは楽しめました♪。この後半部に出てくるのが87分署だったら、もっと楽しめたのになぁ~(笑)。 この作品、前半部から読んでも後半部から読んでもいい様に装丁されています。が~やっぱりハンターの書いた前半部から読まれる事をお勧めします。 ![]() ![]() |
カート・キャノン 名義(Curt Cannon)名義 |
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酔いどれ探偵街を行く (LIKE 'EM TOUGH) 目次 |
早川ミステリ文庫(短編集) あらすじ |
初版1976年7月20日 |
幽霊は死なず (Die Hard) |
酒場で呑んでいた元探偵カート・キャノンの元に一人の男が現れる。麻薬中毒の息子を探して欲しいと言うが探偵の認可証を持たないカートは依頼を断る。が、その男は酒場を出た瞬間にカートの目の前で射殺される。殺人者を追うカート。 |
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死人には夢が無い (Dead Men Don't Dream) |
偶然出会った友人に『幼馴染が死んだので葬儀に参列してくれ』と声を掛けられたカートは生まれ育った町に行くのだが、その町の人々の顔には恐怖が宿っていた。力を貸して欲しいと頼まれたカートは事件に巻き込まれる。 |
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フレディはそこにいた (Now Die in it) |
木賃宿で寝ていたカートは遠い昔の知り合いルディに叩き起こされる。ルディの義理の妹は17才で妊娠、相手の男を探し出して欲しいと頼まれるカートは動き出すが・・・。 |
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善人と死人と (Good and Dead) |
乞食仲間のジョオイが死んだ。ジョオイに良くして貰っていた中国人チンクは死の謎を探って欲しいとカートに頼む。 |
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死んでる俺は誰だろう (The Death of Me) |
お金に見限られたカートは木賃宿を出て公園で寝起きしていた。ある朝、ゴミ箱に押し込んであった新聞記事を見て怒るカート・キャノン。新聞には『カート・キャノン殺される』と書いてあったのだ。 |
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おれもサンタクロースだぜ (Deadlier Than the Mail) |
クリスマスまであと四日、カートは幼馴染のキットに呑みに来いと誘われ生まれ育った町へ。そしてある相談を受ける。怪我の為に働けず生活保護を受けている男が、小切手を盗まれて困っているので犯人を捜せというのだ。断ろうとするが同様の郵便泥棒で泣いている貧しい人間は10人以上と聞き事件に巻き込まれていく。 | |
抱かれにきた女 (Return) |
5ドルを手に入れる為、血液銀行へ血を売りに来たカート・キャノンは、カートの元妻がニューヨークに舞い戻っていることを知る。 |
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街には拳固の雨がふる (The Beatings) |
ルンペン達の楽しみは酒が手に入った時につぶれるまで呑む事。その酔っ払いのルンペンを狙った暴行事件が多発していた。暴行事件が殺人事件に発展した時、カートは犯人探しを始める。 |
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感想 |
主人公の名はカーディス・J・キャノン、通称カート・キャノン。元私立探偵だ。新婚四ヶ月目に自宅の寝室で他の男と自分の妻が乳繰り合っているのを目撃してしまい、相手の男を半殺しの目に遭わせてしまう。カートは、この暴行事件で探偵の認可証を取り上げられてしまい現在は『ルンペン(乞食)』だ。このルンペンという言葉に最初は驚いた。今は使えない言葉だし、主人公がルンペンって驚くよね?。この訳は1963年当時のものなのでキワドイ単語が沢山出てくる。(2004年現在絶版) 主人公の名と探偵の名を同じにするなんてマクベインらしくないなと思ったら、最初は探偵の名が違っていたそうだ。1953~'54にかけてエヴァン・ハンター名義で雑誌に発表した作品を一冊の本にまとめるに当たり、探偵名をマット・コーディルからカート・キャノンへ、作家名をエヴァン・ハンターからカート・キャノンへ変更したそうな。 で、感想なのだが面白い。マクベインの87分署シリーズとは文章が大きく違うので驚いた。(文学っぽい文章なのだよね)キャノンは(マクベインは)こんなに文章が巧い作家だったっけ?。 この作品の主人公は暴力沙汰はしょっちゅうだし、出会った女とはスグに寝てしまうし、殺しも平気だし他の作品の主人公たちとは大違いだ。公園で寝泊りして新聞紙で暖を取るような男が出逢った女と片っ端から寝るなんて不自然だけど文句なしで楽しめた。短編の中で特に面白かったのは『抱かれにきた女』。 ちなみにルンペンの語源は(Lumpen)ドイツ語。ボロ布、ボロ服の意味だそうな。 ![]() ![]() |
リチャード・マーステン名義作品 |
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湖畔に消えた婚約者 (Vanishing Ladies) |
扶桑社文庫 | 初版2001年11月30日 |
あらすじ | 婚約者とともに休暇旅行に出たフィルは、湖畔のモーテルで信じられない事件に遭遇する。深夜、ひと気のない隣室との壁から血がにじみ出し、それと同時に、別室に泊まっていたフィアンセが荷物ごと消えてしまったのだ!。彼女がいたはずの部屋には他の宿泊客がおり、しかも出会ったすべての人が、フィルは女性など連れていなかったと証言する…。いったい何が起きているのか?。そして恋人はどこへ消えたのか?。リチャード・マーステン名義で発表。
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感想 | この作品はリチャード・マーステン名義で1957年に発表された作品です。(扶桑社からはE・マクベイン名義で出ている)で、確かに筋立てはちょっとおかしいなと思う所もあるのですが、今読んでも十二分に楽しめました。初期作品だというのにマクベイン節というかマクベインの詩的な美文(?)は最近作と変わらないのですよね。なので、マクベインファンだったら、読んで欲しいなと思う作品です。で、内容はというと・・・ フィアンセと共に隣の州の田舎町までドライブ旅行に出掛けたフィルは、夜中に辿り着いたモーテルに宿泊する事にする。フィルと婚約者のアンは清い関係(?)なので、別々に部屋を取りそれぞれの部屋に入ったのだが、フィルの部屋には見知らぬ女がいた。出て行かぬ女と押し問答をしているうちに、隣接する部屋との壁に血がにじみ出してくるのを発見するフィル。フィルは慌てて隣室に飛びこむが、そこにいた夫婦者は血だまりを赤いペンキだと言う。わけの分らぬフィルはフロントに向かい、モーテルのオーナーに急を知らせようとするがフロントは空っぽ。そこで、婚約者を思い出し、アンの止まっているキャビンへ向かうフィルだが、彼女がいたはずの部屋には他の宿泊客が。忽然と消えたアンを探そうとするフィルだが、フィルは女性など連れていなかったと出会った人すべてが証言し・・・という展開です。フィルは警官なんだけども、隣の州で事件に巻き込まれたもんだから刑事であることは何の助けにもならないんですよね。フィルがアンと共に出会った全ての人々が『フィルは女性など連れていなかった』と証言する中、警官も保安官もフィルに非協力的で、彼は一人 婚約者を探し始め・・・という、このまま映画の脚本になりそうなストーリーでした。ちょっとだけね、犯人の行動に難があるんだけど、マクベイン節はこの初期作品時から顕著なので、ファンならば楽しめる作品だと思います。 ![]() ![]() |
エド・マクベイン編纂アンソロジー |
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十の罪業 RED (Transgressions) 収録作品 |
創元推理文庫 | 初版2009年1月30日 |
「憎悪」(Merely Hate) エド・マクベイン 木村二郎訳 |
タクシー運転手連続殺人事件を追う刑事たちを描いた一編で、マクベインの最後の<87分署シリーズ物>となります。
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「金は金なり」(Walking Around Money) ドナルド・E・ウェストレイク 木村二郎訳 |
ドートマンダー物の一編です。ウェストレイクは超多作作家でコミカルなものから犯罪小説、スリラーといとも易々と書き分け書き続けてこられたんだけど、多作であるがゆえに軽くみられているような印象を受けます。ですが、誰がなんと言おうとウェストレイクは天才作家だったんだと思います。亡くなられたのを機にというのも寂しいですが、ドートマンダー物の新刊が出てくれればと願ってます。
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「ランサムの女たち」(The Ransome Woman) ジョン・ファリス 中川聖訳 |
未読作家でした。複数の名義を使ってホラーやサスペンスなどを著されているのだそうです。不思議な味わいのある作品でした。
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「復活」(The Resurrection Man) シャーリン・マクラム 中川聖訳 |
この作家もお初だったのですが~巧いなぁって印象です。時は20世紀初頭、舞台は南部でして、とある医科大学で伝説と化している黒人の老人の半生を描いた物語なのですが、歴史的背景と相まって奥行きのある物語に仕上がってます。
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「ケラーの適応能力」(Keller's Adjustment) ローレンス・ブロック 田口俊樹訳 |
ワタクシの大好きな<殺し屋ケラー>が9・11事件に直面するという一編です。本編はのちに改稿され『殺しのパレード』の一部となったそうです。
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十の罪業 BLACK (Transgressions) |
創元推理文庫 | 初版2009年1月30日 |
「永遠」(Forever) ジェフリー・ディーヴァー 土屋晃訳 |
タルボット・シムズという数学者が、警察内部で統計やらに携わる仕事に就いているんだけど~かれは統計上から見て自殺とは思えない事件に行き当たるのですよね。で、自殺だと片付けられた事件を洗い直していくという物語なのですが~この主人公が良いし好いです(笑)。長編化を望むほど魅力的なキャラで、そして相変わらず物語が素晴らしいです。
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「彼らが残したもの」(The Things They Left Behind) スティーヴン・キング 白石朗訳 |
アメリカの作家が9・11の事件の後にみな変わったなと思ってたんですが、キングでさえ事件を引き摺っているのだなぁ~っと・・・。この中編集に集められた10篇のうちで一番 ページ数が少ない作品ですが、キングらしい出来でした。
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「玉蜀黍の乙女(コーンメイデン)-ある愛の物語」(The Corn Maiden) ジョイス・キャロル・オーツ 圷(あくつ)香織訳 |
ノーベル賞の候補としてしばしば名前の挙がる大物作家だそうですが、この作家もお初でして(恥)。玉蜀黍色の美しい髪を持った少女が誘拐された事件を扱った一編ですが、犯罪小説でありながら一風変わった味わいのある作品でした。この世界観はどこから来るのか作家自身に興味が沸きます。
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「アーチボルト-線上を歩く者」(Archibald Lawless, Anarchist at Large: Walking the Line) ウォルター・モズリー 土屋晃訳 |
こちらもお初作家で、デンゼル・ワシントン主役の映画「青いドレスの女」の原作者だそうです。変わった物語でして、新聞に載った「代書人求む」の求人広告をを目にした青年が面接に行ったことから奇妙な事態に巻き込まれていくという展開で、なんとなくですがホームズ物の短編『赤髪同盟』を思い出させる不思議さです。
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「人質」(Hostages) アン・ペリー 田口俊樹訳 |
イギリス生まれの歴史ものを著す作家だそうで(初めてお目にかかった作家なんですが)・・・この作品で受けた衝撃の大きさを何と言えばいいのか(笑)。登場人物はたった10数人なんですけど、この短い物語の中で登場人物たちが本当にそこで息づいているように感じる筆力に痺れました。 北アイルランドが抱えている問題を背景に繰り広げられるドラマに酔いました。
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