トマス・H・クック作家紹介&作品紹介 |
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作家名 | トマス・H・クック(Thomas・H・Cook) | |
生年月日 | 1947年 | |
生誕地 | アメリカ アラバマ州フォートペイン | |
処女作 | 鹿の死んだ夜 | |
デビュー年 | 1980年 |
鹿の死んだ夜 | 文春文庫 | 文庫初版1994年6月 |
あらすじ | 初老の殺人課刑事リアダンが指名を受けて担当する事になったのは、動物園の鹿が惨殺された事件だった。実業界の大物が寄贈した鹿だけに、市警全体がピリピリする”取り扱い注意”事件だ。穏便に一件落着としたい
上層部の意向をよそにリアダンの直感は冴える。『この事件は人間に及ぶ・・・』と。 |
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感想 | クックの原点と言える作品。現在は純文学に近い作品を書くクックが、初期にはこんなミステリを書いていたと知ったら驚かれる方も多いだろう。(現在、絶版です・・酷いっ)
本書はアメリカで最初に出版された時に「サイコ・サスペンス」として売られていたらしい。だが、内容は全く違う。作者が人間の奥深くに潜む狂気と犯罪を描いている事は間違いないが、異常な犯罪を描けばサイコとは短絡的すぎる。 本書の主人公は、まもなく定年を迎えようとする平刑事だ。その平刑事が、上層部は穏便に済ませたいと思っているのに一人、この事件に危機感を抱きこつこつと捜査していく過程が描かれている。このリアダンの目を通して社会的弱者や虐げられた者達をみていると作者の感情が見える気がする。クックの特徴だと思うのだが、犯罪者や悪人でさえも哀れみを抱いているのだ。 それが原因か『暗い。重い』と嫌われる方も多いようだ。あるがままに描いているだけなのだろうが。初期作品とはいえ、プロットは完璧で人物造形&描写も職人技だ。是非、探してでも読んで欲しい作品だ。 注・この作品はファンの方が探されているのでNET上でも買い求める事は困難です。古本屋さんで見つけたら『スグ買い』『絶対、買い』です♪。 ![]() ![]() |
誰も知らない女 | 文春文庫 | 初版1990年9月10日 |
あらすじ | 死体となっても彼女は美しかった。南部の都市アトランタ。空地の夏草の陰で発見された若い女性は誰なのか?。何故、殺されたのか?。市警殺人課警部補のフランク・クレモンズの心にその女の事がこびり付いて離れない。不思議なのはこれほど人目を引く美女なのに誰も知らない事だ。 |
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感想 | この作品はシリーズです(三部作)。後期の作風に移行する過程の作品とでも言えばいいのか、既に純文学に近い匂いが漂っています。主人公はクレモンズ警部補。良心的で善良な彼は、殺された女性の過去を洗っていく。この警部補が非常に良いのだよね。警部補が”一体何故殺された?””一体何故、この女を誰も知らないのだ?”と事件を追うのだが、少しずつ明らかにされていく被害者の”顔”に深い悲しみが見える。
地味で陰気だと評される方もいらっしゃるらしいが・・・。これでもか、これでもかと血生臭い描写で読者を惹き付ける作家が多い中で、一人奮闘している(偏屈?)個性的で巧い作家です。![]() ![]() |
夜訪ねてきた女 | 文春文庫 | 初版1993年7月10日 |
あらすじ | ジプシーの女が殺された。同居していた別のジプシー女が逮捕され、すぐに犯行を自白した。元アトランタ市警警部補のフランク・クレモンズは、今はニューヨークで私立探偵業、昼間はある人妻を尾行する身だが、彼の情念は夜の事件へ、ジプシーの女へと強く惹かれてゆく。あの女は犯人じゃない・・・直感がそう告げるのだ。 |
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感想 | 警部補だったフランクが本作品では探偵として登場する。ただし、作家は探偵小説として書いたのではない事は、読んで頂ければお分かり頂けると思う。昼間の正業をこなしつつ、ボランティアで殺人事件を追うクレモンズ。相変わらずプロット良し、描写良し、人物造形良しの秀作だ。悲しい事に絶版です・・・。 |
熱い街で死んだ少女 | 文春文庫 | 初版:1992年 |
あらすじ | 1963年5月。アラバマ州バーミンガム。ただでさえ熱い街が、マーティン・ルーサー・キングひきいる公民権運動のデモで煮えたぎっていた。デモの潮が引いた後の公園に黒人少女の死体が残されていた。捜査に当たった白人刑事ウェルマンに、白人、黒人 双方から妨害の手が伸びる。 |
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感想 | 現在、文学小説(?)を書いている売れっ子作家の初期作品です。残念ながら初期作品の殆どは絶版です。この作品群は、一時絶版になり、また店頭に並び、またまた絶版という悲しい道を歩んでいます。現在売れている”記憶シリーズ”の原点であり、ミステリ色の強い初期作品を是非読んで欲しいと思い・・・。 アラバマ州バーミンガムという人種偏見の強い街が舞台です。事実と創作を交え、描かれた1963年当時の様子に度肝を抜かれました。同時に、風景描写、人物の心理描写の上手さに驚愕しました。タフでストイックな白人刑事ウェルマンの、捜査の過程で後ろに見え隠れする人種問題。 日本人なら”タブー”だと思われる主題に、正面から取り組んだ”秀作ミステリー”です。 この作家の文章は一風変わっています。読み進むうちにじわじわと心に染み入る・・・とでも言えばいいのでしょうか?これを巧いというんだろうなぁー。 現在の作品は”今”と”過去”をフラッシュバックさせるような書き方が多いのですが、初期ではこの手法は使われていません。個人的には絶版になっている本がお気に入りです。少数派という事でしょうか?・・・。(はっ!そういえば、私の好きな洋物本の殆どが絶版になっている・・・・。) |