ジョー・ピケット シリーズ沈黙の森/凍れる森

シリーズ外作品ブルー・ヘヴン/さよならまでの三週間

C・J・ボックス(C・J・BOX)作家略歴&作品紹介
作家名 C・J・ボックス(C・J・BOX)
生年月日 −年
生誕地  ワイオミング州
処女作  沈黙の森
デビュー年 2001年
公式サイト http://www.cjbox.net/home.asp

作家略歴

ワイオミング州で生まれ育つ。牧場労働者、測量技師、フィッシングガイド、ミニコミ誌編集者、小さな町の新聞記者など様々な職業を経てインターナショナル コーポレーション(旅行マーケティング会社らしい)をロッキー山脈で経営。ヨーロッパに五つのオフィスを持つらしい。アウトドア愛好家で狩り、釣り、スキー、ウォーキング等何でもこなすそうな。現在もワイオミング州シャイアンに住んでいて妻、三人の娘がいる。
デビュー作の『沈黙の森』が主要ミステリー新人賞を独占した。(アンソニー賞、マカヴィティ賞、バリー賞、ガムシュー賞)。MWAのエドガー賞にもノミネートされたそうだがこちらは落選。(これが一番権威がある)
デビュー作のジョー・ピケット物はシリーズ化され2008年9月現在、第8作まで出ている。
公式ホームページに詳しい事が書いてあるのでご覧下さい。アルバムもあります。

著作リスト

Series Joe Pickett(ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット シリーズ)
1. Open Season (2001)『沈黙の森』
2. Savage Run (2002)
3. Winterkill (2003)『凍れる森』
4. Trophy Hunt (2004)
5. Out of Range (2005)
6. In Plain Sight (2006)
7. Free Fire (2007)
8. Blood Trail (2008)
9. Below Zero (2009)
10. Nowhere to Run (2010)
11. Cold Wind (2011)
Dull Knife (2005)

Novels(シリーズ外単発作品)
The Master Falconer (2006)
Blue Heaven (2008)『ブルー・ヘヴン』
Three Weeks to Say Goodbye (2009)『さよならまでの三週間』 Edgar Awards Best Novel winner (2009)
ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット シリーズ
沈黙の森
(OPEN SEASON)
講談社文庫 初版2004年8月15日
あらすじ ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット。気持ちは優しいが、州知事を偶然検挙してしまうような不器用な男。ある日裏庭で娘と見つけた死体は、かつて彼の銃を奪おうとした密猟者だった。次いでキャンプ場にも2人の死体が……。

 
感想 アンソニー賞、マカヴィティ賞、バリー賞、ガムシュー賞を獲得し(史上初の四冠だそうな)MWAの候補にもなった作品だと言うのでかなり期待して読んだのですが・・・中の上って感じの作品。
ミステリとして読むなら肩透かしを食らうかもしれないなぁ。物語の半ばでこいつが怪しいと分かってしまうし、落ちもどんでん返しも無しなので何となく消化不良ぎみ。謎解きを重視されない方にお薦めの作品かな。
 主人公は新米猟区管理人ジョー・ピケット。気持ちは優しい男だが要領が悪い。猟区で無許可で釣りをしている男を逮捕したのだが、それが州知事で新聞の三面記事に面白おかしく書かれてしまうようなドジな男だ。射撃の腕前も、動く獲物には当てられるが止まった標的に当てるのが下手でギリギリの成績で猟区管理人職を射止める。でも薄給で貧乏暮らし。このジョー宅の裏庭で死体が発見され、死の謎を探ろうと森に入ると二つの死体が見つかり事件に巻き込まれていく・・・というストーリーです。謎があまりにも少なすぎるのでミステリとして読むよりは冒険小説として読んだ方が楽しめるかもしれません。
でも読んでいて何故、アメリカ人に受けたのか分かる気がします。雰囲気が西部劇っぽいというか古き良きアメリカっぽいのです。真っ正直な為に見て見ぬフリを出来ない普通の男が、三人の死の謎を解こうとして動き出した途端に家族が危険に巻き込まれる。そして家族の為に戦うお父さん・・・まさにアメリカ的でクラッシックでしょう?。
 この作品は他人の評価を聞いてみたいし、第二作も翻訳されるそうなのでもう一冊読んでみるつもりです。
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凍れる森
(WINTERKILL)
講談社 文庫 初版2005年10月15日
あらすじ  広大なワイオミング州の自然と家族を愛する猟区管理官ジョー・ピケットはエルクの大量殺戮現場に遭遇。違法ハンターを追い詰めるも、死体で発見する。森林局のキャリアウーマンと好戦的なFBI捜査官は、森でキャンプを張る反政府グループに目をつけるが・・・。

 
感想  前作より、はるかに楽しめました。ヘタにミステリ路線をとらずに、冒険小説に徹した分だけ面白さが増しているような気がします。身動きの取れない雪山での活劇(?)は読み応えがありました。
 猟区管理官ジョー・ピケットはパトロール中にエルク(野生動物)の大量虐殺を目撃してしまう。違法ハンターを逮捕し、連行しようとするジョーだが、途中で逃げられてしまう。逃げた男を放置しておけば、凍死するのは目に見えているので追うジョーだが、そのハンターは二本の矢で撃たれ、木に串刺しになっていた・・・というストーリーです。このハンターを殺したのは誰か?というストーリーと、ジョーが里子に迎えた女の子エイプリルの親権は誰の手に渡るのか?というストーリーが同時進行して行くのだけれど、二つの物語は最後に交錯し、意外な結末を迎えます。
このC・J・ボックスが巧くなっているなと思う箇所は人物造詣ですね。主人公のピケットは仕事を愛し、家庭を愛するごくごく普通の男なんだけれど、不正を見逃せない真っ正直な男なのですよね。等身大のヒーローといった感じで、読者は容易に感情移入させられてしまう。悪役も悪役らしく描かれていて、分かり易い作品だと思います(笑)。冒険小説は冷戦構造がなくなった時点で廃れちゃったけれど、こういう身近な男を主人公に据えた冒険小説を、ディック・フランシス以外にも書き始めたのだなと嬉しい驚きです。それと、この作家は子供を描くのが巧いですね。魅力的な子供たちのお陰で(?)結末に絶句しました。 作家名INDEXホームへ戻る
シリーズ外の単発作品
ブルー・ヘヴン
(BLUE HEAVEN)
早川書房文庫 初版2008年8月25日
あらすじ  アイダホ州北部の小さな町。12歳のアニーと弟のウィリアムは森で殺人事件を目撃してしまう。犯人はロサンジェルス市警の元警官四人で、保安官への協力を装い二人の口封じを画策する。途方に暮れた姉弟が逃げ込んだ先は、人手に渡る寸前の寂れた牧場だった。老牧場主のジェスは幼い二人を匿い、官憲を味方につけた犯人一味との対決を決意するが…雄大な自然を舞台に、男の矜持を賭けた闘いを描く、新たなサスペンスの傑作。

 
感想  母子家庭で育つアニーとウィリアムは、母親の許可なく森に釣りに出かける。その朝、母親が男を家に連れ込んでいたことに腹を立てていたのだ。で、偶然 姉弟は森の中で殺人事件を目撃してしまう。で、姉弟は必死で悪漢たちの追撃を逃れるが実はこの悪漢たちは引退した元警官で引退後、この町に移り住んでいて・・・何としても目撃者を自分たちの手で捕らえ口封じをしたいこの元警官たちは、保安官を手玉に取る。自分たちは大都市で捜査してきた経験があるのだからと捜索隊の実験を握り、保安官よりも先に姉弟を捕らえようと・・・という展開なんですが、いやぁ〜ほんと面白かったです〜。前々からC・Jの作品を読んで「これって西部劇だなぁ」と思ってたんですが、この作品はまさにそれです。3人の初老の男が全員、後悔みたいなものを抱いて生きてきたんですよね。あの時こうすれば良かった、あの時こうしなければ良かったと、それぞれに後悔していることのある男達が、この後悔を後悔で終わらせないと、命を狙われている姉弟を助けるために、銃を持ち立ち上がる物語なんですが〜西部劇っぽいよね?(笑)。普通なら子供たちと何の関係もない大人が3人も命を賭して戦うなんてプロットに無理があるんじゃないかと思うけれど、この作品では3人の男たちの過去までも丁寧に書き込んであるので、その展開は無理なく自然です。C・J!巧いです(笑)。それと、粗筋を読んでいただけたら分かるだろうけど、物語の冒頭から読者には犯人が分かるんですよね。ですが〜分かっていながらラストに向かうまでノンストップで駆け抜ける物語に引っ張られ、一気読み確実です。ミステリとして読むなら犯人が知れている分だけ面白味は減るかもしれないけど、それを補って余りある人物造詣の深さというか巧さに脱帽です。処女作だった「沈黙の森」から格段の進歩を遂げているなと驚きました。ラストも感動のラストでして・・・実はワタクシには珍しく涙ぐんでしまい(笑)。こういう作品が面白いと思えるというのは、時代が等身大のヒーローを、欲得なしに動くヒーローを求めているんだろうなと思います。
C・Jの作品中、4作品しか邦訳されていないのがファンとしては非常に残念です。残りの作品を邦訳してくれたらと切に願ってます。 作家名INDEXホームへ戻る

さよならまでの三週間
(Three Weeks to Say Goodbye)
早川文庫 初版2010年5月10日
あらすじ  子宝に恵まれず、念願の赤ん坊を養子として迎えた夫婦ジャックとメリッサ。しかし、幸せは長くは続かなかった。実父が親権を主張し、裁判所から3週間以内に子供を返すようにとの裁定が下ったのだ。実父である少年は札付きの悪で、夫婦に執拗な嫌がらせを繰り返し、ついには殺人事件が・・・。愛する者を守るためジャックが下した決断とは?。

 
感想  冒頭から後半の山場まで、読み進むのが苦しい物語でした。主人公夫婦に感情移入してしまい、気の毒で読めなかったのですが〜その物語はというと・・・
 子宝に恵まれない夫婦が念願の子供を養子として家族に迎え入れ、8か月が経ったころ問題が発生する。赤ちゃんの実の父親が親権を申し立てたのだ。だが実父は高校に通う18歳で(その上、メキシコ人ギャング団と付き合いがあり、薬の売買にも関わっているとみられる札付きのワル)、赤ん坊には何の興味もないのは明らか。実際は実父の父親である連邦判事が子供を引き取ろうとしているのだ。相手は法律を知り尽くした法律家で、その上 市の有力者であり裁判で争っても勝ち目はゼロのジャック夫妻。夫婦は「赤ちゃんと別れるまで3週間』の猶予を与えられるが、これが事件の幕開けとなり・・・という展開です。相変わらずボックスらしい(?)作品で、主人公は普通の男なのですよね。子供を愛し妻を愛し、家族のために必死で働いている普通の男なんだけど、その普通の男が普通じゃない状況に追い込まれるわけです。彼は子供を守るため家族を守るため、殺人さえも辞さない男へと成長(?)して行くんだけど〜ラストは圧巻です。なんだか、あまりにも都合よく終わってしまうのが惜しいなとは思うんですが、これはこれでアメリカ流ハッピーエンドで良いんじゃないかと思います(笑)。いつも言ってますが、ボックスの物語の根底には西部劇があるような気がするのですよね。元々、西部劇が好きなワタクシなので『自分の身は自分で守れ』という、フロンティア時代のアメリカ人魂を持つ主人公に共感出来ているのだと思われます。

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