殺したくないのに人形の目エイミー地下室の亡霊戦慄の絆

B・ウッド(キャサリン・ハーヴェイ) 作家略歴&作品紹介
作家名 バリ ウッド(キャサリン・ハーヴェイ)  
生年月日 1936年
生誕地  アメリカ イリノイ州
処女作  殺したくないのに(集英社 ハード&文庫 共に絶版)
デビュー年 1975年
公式サイト


バリ・ウッド 作家略歴

イギリス北東部のウォリントンでポーランド系移民両親の元に生まれ、10歳のときにカリフォルニアに移住。 カリフォルニア大学サンタバーバラ校を出た後、看護資格を取り整形外科医院の看護婦として働く。(そのせいか、医療を材にした作品が多い) その後、「アメリカ癌協会」の編集者や医学専門雑誌の編集をしていた。1975年に処女作「殺したくないのに(集英社)」を発表しデビュー。 ジャンルはモダンホラー、サイコサスペンス、サイキック物が中心のようだ。現在、コネチカット州リッジフィールド在住。
ジャック・ギースランドとの共著『双生児』は映画『戦慄の絆(早川↓参照))』の原作にもなっている。 他にバリ・ウッド名義で『人形の目(早川)』『地下室の亡霊(扶桑社)』『エイミー(↓参照)』等の作品が上梓されているがその殆どが絶版だ。 (2004年春現在で全ての著作が絶版です。とても巧い作家なのに残念ですが。)
初めてこの作家にチャレンジされる方には是非、『殺したくないのに』をお薦めしたい。この作品が苦手だったら全部の作品が 合わないと言えるかもしれません。
キャサリン・ハーヴェイ名義・・・バタフライ、スターズ(角川文庫)。
バリ・ウッド 名義
 
殺したくないのに
(The killing Gift)
集英社 ハード初版1979年3月10日
あらすじ ニューヨーク市警の殺人課刑事スタヴィツキー刑事はロバーツという凶悪な男を刑務所に叩き込む為に 彼の行動を追い続けていた。しかしそのロバーツが死んだという報告を受ける。ロバーツはある資産家の家に仲間と強盗に入り 首の骨を折り死亡したというのだ。被害者の証言も仲間の証言も『ロバーツは誰にも触られる事無くいきなり死んだ』という不可解な状況だ。 首の骨はビルの30階から突き落とされた時と同じくらい強い衝撃を受けなければ起こり得ないほどなのだが外傷は全く無い。 誰が殺したのか?どうやって?という疑問にとり付かれた刑事は捜査を開始するが資産家夫人のジェニファーの周りで不可解な死亡事故が 多発している事を知る。

 
感想 いやぁ、久々に大当たりでした。ジャンルはサイコサスペンスです。サイコサスペンスというよりも一種異様なサスペンスと言えるかもしれませんが。
パラサイコロジカル(超心理学)な内容の本など滅多に読まないのですが、本書は非常に楽しめました。ただ単に超常現象を扱うだけの話に終っていなかったのですよね。 こつこつとジェニファーの過去を洗って行く刑事の前には、過去にジェニファーの周りで起こった事件が徐々に姿を現して来ます。 それと共に不思議な力を持つが故に孤独な少女の苦悩、悲しみが描かれ単なる超能力者物で終っていません。 現在と過去が交互に読者の前に晒されていくのですが、この辺の書き方も非常に巧いなぁと関心。脇役の使い方も非常に巧いです。 何となくですが、ディーヴァーの『眠れぬイヴのために』の雰囲気に似ている気がしました。全く違うジャンルなのに不思議です。
ウッドにとってこの作品は処女作にあたるのですが、後で上梓した作品よりも抜きん出て完成度が高いと思います。 そして邦題の付け方が巧い。最後まで読んでなるほどと唸りました。訳者は高見浩氏です。 それと装丁がとてもお洒落でした。外側のカバーのイラストは余計です。中のデザインが洋書のハードカバー風で気に入りました。
余談・・・この本は絶版の上に希少です。ハードカバーも文庫も上梓されたのですがNETの古本屋でもあまり見かけませんので、 見つけられたら絶対買いです。きっと高値で売れるでしょう♪。勿論売る前に読んで欲しいです。 

 
人形の目
(DOLLE’S EYES)
早川文庫 初版1996年8月20日
あらすじ 体や持ち物に触れるだけで人間の過去や未来を透視できる不思議な能力を持つイヴ。この能力は一族に伝わるもので 彼女の母親は耐え切れずに自殺していた。そんなイヴが別居中の夫の住まいを訪れるた時、ふと触ったブランコから恐ろしい光景を 見てしまう。それは満月の夜に異常な殺人を繰り返しているサイコキラーの犯行場面だった。通報を受けた警察はイヴの不思議な能力を 知り、彼女に協力を要請する。だが殺人犯もイヴの能力を知り、自分の生い立ちを透視させる為に彼女を探し始める。
 
感想 コテコテのサイコサスペンスですが、他の作品よりサスペンス色が濃いです。超能力者(?)イヴを狙うのは 連続殺人犯アダム。なので他の作品よりも多くの死人が出るので、サイコというよりも犯罪物、異常心理物といった方が良いかも。 この作家の特徴なのですがジャンルがサイコであるにもかかわらず、読後感が良いのです。この作品にイヴの能力を信じるラトフスキーという警部が 出てきます。仕事が出来、タフで忍耐強いこの警部はデビュー作の「殺したくないのに」に出てきた刑事に良く似ています。 ストーリーは大した事が無いのに楽しめるので、きっとこの作家は巧いのでしょう。情景描写が巧い所為かもしれません。
余談・・・本書絶版です・・・。
 



 
エイミー
(AMI GIRL)
扶桑社文庫 初版1989年10月25日
あらすじ それは恐しい光景だった。八歳の少女エイミー・キャスロフは見てしまったのだ。酒乱の父マイクルが母エヴィを殴り殺すところを―。 愛する母を失ったエイミーは、地元警察に勤務するレヴィン家にもらわれることになった。一方エイミーは殺人現場を目撃した時、不思議な体験をした。 彼女には人の精神を操り、その行動をコントロールすることが出来るのだ。そして、その〈力〉が次に使われたのは、警察に逮捕された父マイクルに向けてだった―。 アメリカのコネチカットを舞台に展開する異色サイコ・サスペンス。

 
感想 この本を手に入れたのは北上次郎(目黒孝二)氏の著作に題名が載っていたからだ。『絶版』と書いてあったし、 北上氏が14年も前に読んだ本の題名と作家名を覚えているのならひょっとして・・・と探してみたんだよね。
するとだね、感は当った!。これが、なかなか読ませるんですよ。ジャンルは初期のキングっぽい不思議系で「キャリー」や「ファイア スターター」みたいなモダンホラーがお好きな方にお薦めしたい。キングと決定的に違うのは人物造形と読後感だと思う。 女性だけあって子供の描き方が巧いし、描写が細やかなんですよ。 この主人公の少女が手に入れた不思議な力は、父親から受けた虐待と実の母を殺される所を見てしまう事が切っ掛け なのだが、この辺の描写も巧みだった。そして読み終わって驚いたのは、この手のモダンホラーにしては読後感が爽やかだった事だ。 この少女のたった一人残された肉親である叔父が少女と同じ不思議な力を持っているのだが、彼は精神を病んでいて病院に収容されている。 この叔父が姪を救う為に大活躍だったのだが、この脇役の魅力が良い味付けになっていた。 この作者の人間を見る目が優しくて、それが読後感を良くしているのだろう。
最初っからB級作品だろうと高をくくっていた分、喜びも大でした。これでもうちょっと入り組んだストーリーだったら良かったのに。ストーリーの面ではキングに軍配。

余談・・・この本の訳者は倉本護氏なのだが、はっきり言ってヘタクソだった。訳者が下手なのか作者が下手なのかは分らないけれど、 文章で突っ掛る部分が多かったんだよね。例えば「今朝エイミー素敵だった」の様に「は」が連続して使われていたり で、”テニヲハ”の使い方が不自然だったのだよね。あと「、」の使い過ぎも気になった。あ!それと本作は絶版ですが 第4刷まで刷られたようなので、古本屋での入手は簡単だと思う。

 

 
地下室の亡霊 扶桑社ミステリ文庫 初版1997年11月30日
あらすじ 夫と二人暮らしの内気な主婦マイラの家には古びた地下室があった。まえから気味の悪さを感じていたマイラは、 ある時部屋に漂う腐敗臭のこともあり改装を決意する。2カ月後、地下室は見違えるように綺麗になった。 でも依然として不気味な気配は消えない。そこでマイラは、軽い気持ちで占い盤に尋ねてみることにした。すると、 この土地に伝わる霊の存在が明らかになり、彼女は御秡いを勧められる。気の重いマイラだったが、言われた通りに仲間と除霊の 儀式を行った。だが、この時から彼女の周りで奇怪な事件が頻発する―。

 
感想 はっきり言って駄作でした・・・。中途半端なんですよね。冒頭から「地下室に何かがいるぞ」と盛り上げて オカルト、ホラーの雰囲気がぷんぷんなのに、途中からいきなりサイコキック物に方向転換します。読んでいてこのままオカルトで 行けば良いのにと残念でした。他の作品の様なすっきりした読後感も得られませんでした。何から何まで中途半端。この作品を 最初に読まなくて良かったっ。

解説について・・・この作品の解説を村上貴史氏(評論家)が書かれているのだが、読後にこの解説を読んで頭にきた。 この人『バリ・ウッドは単純な超能力ホラー サスペンスとして読んではいけない』などとクドクドと述べているのだよね。 ウッドがホラー作家と呼ばれている事が気に入らないらしい。でもさ、実際にホラー作家なのに。 ホラーやサイコキック物でもファンはいるし(少ないけど)、娯楽小説なんだから人に読み方まで指図されたくない。 日本ではホラーは売れない。だからホラー作家と呼ばれる事は売り上げ減に繋がるのだが、この解説はホラーファンもオカルトファン もサイコキックファンも敵に回す解説だと思うぞ。いつも思うのだけれど、解説はせめてその作品のジャンルが好きな人に 書いて欲しいと思う。それが読者と作者への最低の礼儀じゃないのか?。
 


バリ・ウッド&ジャック・ギースランド 共著編
戦慄の絆
『双生児』1979年ハード初版
を改題
早川文庫 初版1989年3月10日
あらすじ 一卵性双生児のロス兄弟が変死体で発見された。片方は腐乱しておりパンツ一枚の姿で、 片方は死後時間が経っていないしきちんと洋服を着ている。 功なり名遂げたこの双子の医師に、いったい何が起きたのか。 あまつさえ、当初自殺と思われた二人の死は、一転して殺人事件と判明するが…。
 
感想 まず、版元に文句を言いたい。この本はモダン・ホラー・セレクションと銘打って出版されているが、 ジャンルはモダン ホラーじゃなくサイコ サスペンスだ。ウッドは普段モダンホラーを書くがこの本だけジャンルが違うぞ!。 確かに恐怖小説(?)かもしれないが日本で呼ばれているホラーとは中身が違う。 「味噌もクソも一緒にするな」とキッチョムさんも言っているじゃないか。
 で、本の感想ですがグロテスクな物語です。ユダヤ教では宗教上、双子は呪われていると言われているらしい。 でこの主人公の双子はユダヤ系アメリカ人なんですよね。まさに呪われた道を辿っていく二人の破滅の過程が描かれています。 男女両刀だけど男の方が好きな兄デヴィッドと、両刀だけど女の方が好きな弟マイケルが医師としては成功するのだけれど 人間として道を踏み外す過程が延々と描かれ、読んでいる方が苦しくなる程でした。小説の冒頭で二人の死にざまが描かれ、 どうしてそんな結末を迎えたのかが過去を振り返り読者の前に姿を現すという形式を採っています。 最後のオチがあまりにも惨くて何ともいえぬ読後感を味わいました。ですが巧いなという結末でした。 この作品は実際にN・Yであった双子産婦人科医の変死事件に想像力を掻き立てられて執筆されたのだそうです。 何となく桐野夏生女史の『グロテスク』と雰囲気も読後感もダブるので、グロテスクを面白いと思える方に特にお勧めです。 (本作は絶版です)あ!それからこの本は本国でかなり売れたそうです。実話を材にするって売れるのかな?。グロテスクとかぶりますね。
余談・・・映画化されていますが原作と映画には大きな違いがあります。ネタバレになるので書けないけど。

J・ギースランド 略歴
テネシー州生まれ。ジョージタウン大学を卒業後、軍籍に服し、元海軍中尉。その後医学ライターとして活躍。
 

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