凶器の貴公子/音もなく少女は


ボストン・テラン(Boston Teran)作家略歴&著作の感想
作家名 ボストン・テラン(Boston Teran)
生年月日
生誕地  アメリカ サウスブロンクス生まれ
処女作  『神は銃弾』
デビュー年 1999年
公式サイト http://www.bostonteran.com/

作家略歴

サウス・ブロンクス生まれ。02年版「このミステリーがすごい!」第1位、日本冒険小説協会大賞、英国推理作家協会新人賞の三冠に輝いた長篇『神は銃弾』で鮮烈なデビューを果たし、続く『死者を侮るなかれ』でも前作を凌ぐ壮絶な銃撃と暴力の詩学を展開してみせる 。

     判る範囲で著作リスト
God is a Bullet (1999)『神は銃弾』
Never Count Out the Dead (2001)『死者を侮るなかれ』
The Prince of Deadly Weapons (2002)『凶器の貴公子』
The Creed of Violence (2009)『音もなく少女は』
Gardens of Grief (2010)

ノンフィクション
Giv: The Story of a Dog and America (2009)


                
凶器の貴公子
文芸春秋社 文庫 初版2005年8月10日
あらすじ  変死した青年の角膜により、視力を取り戻した男デイン。恩義ある青年の死の謎を追いはじめた彼を待つのは悪辣な者どもの潜む陰謀の迷宮だった。死者から光と愛とをひき継ぎ、デインは敢然と死地へと乗り込むが―。

 
感想  難しい小説でした。パルプ・ノワールだと勝手に思い込んでいたので、読み始めた瞬間から驚きましたです(笑)。で、ストーリーはというと割と簡単でして・・・。
 角膜移植により視力を取り戻したデインは、自分に角膜をくれた男テイラーの追悼集会に招かれカリフォルニア・デルタ(サクラメント川の河口付近に広がる広大な湿地帯)を訪れた。その地で初めて、テイラーは事故死ではなく殺人も疑われる不審死だったと知る。テイラーの父ネイサンは地元の有力者で、息子の死を悼むため臓器移植研究センターを建設する計画を立て、篤志家を募り資金を集めようとしていた。そこへ現れたデインは生きる見本、広告塔としてうってつけだった。デインはネイサンに請われデルタに滞在することになり、テイラーの恋人だったエシーと共にテイラーの不審な死の謎を調べ始め・・・という展開です。ストーリーは込み入ってないんですが、文章が込んでいて、そこが難しかったんですよね(笑)。主人公も主人公の周りの人々もなぜかみなが比喩や隠喩を多用し、ギリシャ神話まで引用する会話をするもんだから、話を飲み込むのに非常に時間が掛りました。邦訳文を読んでいるので、余計に分りにくかったんだろうと思われます。これ、訳者さんはそうとう苦労されただろうなと(笑)。で、ワタクシ個人はどうだったかというと、楽しめました。単純なノワールじゃない不思議な味わいのある作品で、ひさびさにこういう余韻が残る作品を読んだなと思ってます。が・・・自分が読み手として未熟だから作品の訴えている何かを読み逃しているような気がしてなりません(笑)。
だもんで、この作品を薦めてくださった活字中毒者連合会M城支部(?)の某Fさまの感想をここに→http://plaza.rakuten.co.jp/huyuyunn/diary/201005050000/
ワタクシの感想よりかなり参考になると思われます(笑)。 作家名INDEXホームへ戻る



音もなく少女は
(The Creed of Violence)
文春文庫 初版2010年8月10日
田口俊樹/訳
あらすじ  貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で……。

 
感想  舞台は1950年代のブロンクス。イタリア系移民の父ロメインとクラリッサに生まれた子は二人とも聾唖者だった。ロメインは麻薬の売買の使いっぱしりなどで糊口を凌ぐチンピラ程度の小悪人でしかないのだが、家に帰ると妻と子を暴力で支配する虐待者である。妻クラリッサは、自身のせいで子供が二人とも聾唖者である事を引け目に思い、夫の虐待に耐えるだけの毎日だった。が、ある日、礼拝に訪れた教会で運命の女フランに出逢った事からクラリッサに変化が生まれる。フランはナチに聾唖者だった恋人を殺された上、宿した子を強制的に堕胎させられたという過去を持つ。その、手話が出来たフランとの出逢いから、イヴは言葉を知る事になるのだ。クラリッサと聾唖者の娘イヴは、フランとの出逢いが切っ掛けで、運命に立ち向かう道を選ぶ事になるが・・・という展開の物語です。ミステリというのとはちょっと違うかもしれませんが、秀作です。何が良いって、訳文が良いんですよね。これでもかこれでもかと主人公を襲う悲劇が、田口氏のリズムの良い日本語によって綴られていくわけですが〜酔いますです(笑)。特に冒頭の数十ページの文章には圧倒されました。テランのくどい描写(ゑ)も、田口氏の的確な位置にある句読点のお陰でサクサクと読めました(笑)。お奨め作です。

が・・・意地の悪い見方をするなら、男が書いた男のための小説だと言えるかもしれません。不幸に立ち向かうといいつつ、最悪の旦那から逃げる事も出来ず、自身の子も守れず、その上、赤の他人を自分の不幸に巻きこんで行くクラリッサに好感が持てなかったのですよね。読み手が女性か男性かで評価が割れる作品?なのかもしれません。詳しくはブログの方にも書いてますので。http://madara66.blog55.fc2.com/blog-entry-1344.html



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