ブラックランズ (Blacklands) 杉本葉子/訳 |
小学館文庫 |
初版2010年10月11日 |
あらすじ |
十二歳の少年スティーヴンは、今日も母の弟ビリーの遺体を捜してヒースの茂る荒野にシャベルを突き立てる。十九年前に起きた連続児童殺害事件以来、被害者の母となった祖母は心を閉ざし、母もまた鬱屈した感情を抑えることができない。傷の癒えない家族を変えるためには、ビリーの遺体を発見し、事件を完全に終わらせるしかないと考えたスティーヴンは、やがて殺人犯である獄中のエイヴリーと手紙のやりとりを開始する。猟奇的殺人犯と十二歳の少年の危険な往復書簡は、次第に二人を思わぬ方向に導く…。2010年度 CWA(英国推理作家協会)ゴールドダガー賞(最優秀長編賞)受賞作品。
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感想 |
面白かったんです。が、何かなぁ〜何かが足りないんですよね。物語はというと・・・
12歳の少年スティーヴンはシングルマザーの母と祖母と弟と暮らしているんですよね。ところが、あまり幸せではないわけです。祖母は19年前に起きた連続児童殺害事件で長男ビリーを亡くしているんですよね。正確には、遺体が見つかっていないので「殺害されたと思われる」という疑いでしかないのだけど、連続児童誘拐犯の証拠車両からビリーの持ち物が出て来たので、死んでいるのはほぼ間違いないわけです。で、祖母はビリーがいなくなった日からずっと帰る筈のない息子を待ち続けているわけです。祖母は事件を機に普通ではなくなってしまっていたわけです。そんな母に育てられた娘(スティーブンの母)も、弟を失っただけでも悲劇なのに、正常な精神を持った母を失い愛を与えられず育ったので、トラウマをいっぱい抱えているわけです。そんなトラウマを抱えた母親なもんだから、スティーブンは母親から愛情を与えられず、半ば虐待めいた事もされていたんですよね。それで、スティーヴンは祖母と母をまともにし、家庭に笑いをもたらすにはビリーの遺骨を探すのが1番だと考え、密かに獄中にいる連続児童殺害犯に「ビリーを探しています」という手紙を書き送るわけです。この連続児童殺害犯とステーヴンとの文通が、重大な事件の引き金に・・・という展開なんです。ラストの緊迫感はなかなかのもので読み応えいっぱいだし、〆もわりと好感が持てる終わり方なんですけど、読後に妙な渇きのようなものを感じるんですよね。う〜ん、謎がいっぱいのまま終わってしまうのが難点なのかな。ネタバレにならない程度に書くと、ビリーの骨は結局見つかるのか?とか、祖母と母は和解出来てスティーブンは幸せになれるのか?とか、作中で出てくる某軍人はお咎めは無かったのか?とか、刑務所の所長はどうなったのか?とか、刑務所で暴動の引き金になったエリスはどうなったのか?、レティとジュードおじさんの関係に発展は?とか、挙げたらきりがないくらい「どうなった?」という箇所が多いのですよね。著者は当初、「祖母と少年の短編」にする予定だった本編を、犯罪小説へと形を変えられたそうなんだけども〜長編にするのならもうちょっと書き込んで欲しかったなと思います。ミステリ読みって好奇心が旺盛なんですよね。その好奇心を満たしてくれないと満足できません(笑)。が!!!本作はCWAのゴールドダガー受賞作ですので、ワタクシ以外の方は充分に楽しめるのかもしれませんので(汗。
訳者の杉本葉子さん。記憶に自信は無いけどたぶん初対面(?)の訳者さんで、読み易い日本語を書かれるので好感が持てました。この過去形っぽい日本語(?)は、多分きっとハードボイルド系に合うと思うんだけどなぁ(笑)。
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